動物を飼う人の条件
では、動物を飼うに当たっての心構えと言いますか、条件について考えてみましょう。
1.常に世話をできる人を確保できるか
今さら語るに及びませんが、動物は人間の子供と同じです。動物を飼うと言うことは子供を育てるのと同じ・
あるいはそれ以上の環境条件が必要なのです。ですから、まず動物を飼う前には、自分が今現在子供を持てるか
どうかを考え、いろいろと想像してみて下さい。子供を育てる場合は、常に世話できる人を確保することを考え
ると思います。共働の夫婦やシングルマザー・ファーザーであれば、実家の人に子供の面倒を手伝ってもらった
り、託児所に預けることを考えると思います。動物の場合も同じように考えればいいのですが、旅行の時はどう
しますか?人間の子供と違い、旅行にまで動物を連れていくことは簡単ではないでしょう。動物を飼うと旅行へ
行くのもままなりません。そういうことを飼う前から予め考慮し、自分がいない時に誰が面倒をみるのかを考え
られない人は動物を飼うことは無理です。
2.自分に万が一のことがあった場合どうするか
前の条件にもかぶりますが、動物を飼うことは子供を養うのと同じです。自分に万が一のことがあった時、そ
の動物を面倒見てくれる人はいますか?自分の寿命と動物の寿命を考慮して飼っていますか?犬は種
類にもよりますが、平均15年は生きます。猫も同じくらいだと考えて下さい。そして自分に万が一のことがあ
った場合、子供のことを考えるように動物のことも考えて下さい。そこまで考えられなければ動物を飼うことは
無理です。
3.経済的なこと
動物にもよりますが、大型犬を飼おうと思ったら、一月の餌代は成人一人の倍以上かかると思って下さい。
経済的なことは月々の餌代を心配するだけでは足りません。今の職を追われ持ち家を手放さなくてはいけなく
なった時、アパートでは生き物を飼えません。そうなった場合に預かってくれる知り合いはいますか?保健所に
引き取られる犬猫でその理由として多いのが、この「引っ越しに伴う所有権の放棄」なのです。
さらに考えなければならないのは、犬猫も人間と同じように病気になるし、妊娠するということです。犬猫が
病気になった時、どうしますか?人間の医療費は保険があるので実際の2割負担で済みますが、動物の医療費に
は残念ながら今の日本では保険というものがないようです。だから、いざ病気になって動物病院にかかった場合、
医療費はとても高額になります。いろいろな病気にならないよう予防するためにはワクチン投与が必要ですが、
これらも決して安価ではありません。あなたは動物のためにかけてあげられる経済的余裕がありますか?
テレビや雑誌が煽るほどペットを飼うことは簡単ではないし、覚悟が要ります。ただ単に「かわいい。」だけ
ではすまされません。それでもなお、あなたは動物を飼う覚悟がありますか?動物が妊娠してしまった時はどう
しますか?「保健所に引き取ってもらえばいいわ。」・・・こんな人はもっての他です。残念ながら「飼ってい
る犬猫に子供が生まれたが、子供までは飼えないから。」と言って保健所に安易に持ってくる飼い主がいまだも
って存在し、少なくないのが実状です。
4.ご近所との関係はどうか−犬は吠える・・・
保健所に「不用犬」として持ち込まれる犬の理由について上位に来るものの一つに、「鳴き声で、近所から苦
情があるため。」というものがあります。実際にあった悲惨な例をご紹介しましょう。
電話を掛けてみえたのは30代の若い奥さんのようでした。とても優しそうな声で、とても悲しげで思い詰め
たような声でした。「かわいがっている犬がいる。でも、その子が吠えるために近所から苦情があり、いろいろ
親戚などを当たってはみたがどうしようもない。・・・。」泣き出しそうな声でした。私も本当に当てがないの
か、所有権放棄で保健所に持ち込まれればほぼ確実に殺処分となる・・・云々、ゆっくりと話をさせてもらいま
した。その若い奥さんは、手を尽くして疲労困憊し、どうしようもなくなったのでしょう。本当にかわいがって
いたその犬を自ら連れてきて、所有権放棄届けを記入し、「○○ちゃん、ごめんね。」と涙を流しながら、何度
も犬に謝ってその場を去っていきました。その光景はもう見るに耐えられないものでした。期日が来て、そのか
わいがられていた犬は殺処分されました。そして、その翌日、私は今まで取った中で最も悲惨な電話を取ること
になったのです。それはあの若い奥さんからでした。「あの、うちの犬、まだいませんでしょうか?引き取って
下さるという方が見つかりましたので・・・。」私は一瞬言葉を失いました。なんで、どうして、後一日早かっ
たら・・・。今までの中で一番辛い電話でした。「あの子は、もう・・・。」私は何とか言葉を見つけて事実を
告げました。電話の向こうは泣きじゃくっています。電話を切った後、その若い、優しい奥さんがどうしていた
のか、その気持ちを思うと居たたまれません。なんで、どうして?こんな悲しいことが起こってしまったのか。
しばしば「保健所に犬を連れてくるなんて最低な人間だ!」と言葉を吐く動物好きを見かけますが、保健所に
自分の犬を持ち込む人の中には、上記のような普通の優しい人もいます。そんな人が経験してしまう不幸、それ
はひとえに動物を飼うとはどういうことなのか、その知識の欠如・認識の甘さから来るものです。しかし、それ
は「考えが甘かった。」として飼い主だけを責めるべきものでは決してないと思います。責められるべきは、飼
い方の知識を与えることを優先せず、「かわいさ」だけで動物を飼うことを煽るマスコミ、動物販売者、そして
動物の福祉を啓蒙できない知識不足の獣医師、関係行政機関だと思います。
犬は吠えます。避妊手術をしない猫は発情期にはものすごい声で鳴きます。動物は全て臭い糞をします。当た
り前のことですが、それらを理解していますか?そして、そのことで近所とトラブルにならない対策は取れます
か?もしくはご近所とは十分距離がありますか?動物を飼う前に十分にイメージトレーニングをしてみましょう。
当たり前のことについて認識していれば防げたであろうと思われる不幸をこれ以上増やした
くないのです。
5.自分自身の生活がちゃんとできているか
これも実際にあった所有権放棄の例です。親戚が飼っていた犬を「ある事情」により飼えなくなったので処分
して欲しい旨の電話が保健所に入りました。「どうして飼えなくなったのか。」と理由を尋ねるとその受話器の
向こう側の人はもじもじしていて言いにくそうでなかなか話してくれなかったのですが、ついに「飼い主が事件
を起こして捕まってしまった。犬どころではなくなってしまったから・・・。」と説明してくれました。私は
「なるほど、分かりました。引き取り日は毎週○曜日の○時から○時までです。鑑札と印鑑を持って連れてきて
下さい。しかし、最後まで次の飼い主として引き取ってくれる方を探すよう努力はして下さい。最善の方法を最
後まで・・・。」と話して受話器を置きました。
なんとも切ない話です。「事件」を起こしてしまった飼い主は人間嫌いだったかも知れませんが、犬は愛して
いたかも知れない。それなのに自分自身が拘置されることになったために大切にしていた犬を処分するはめにな
ってしまったのかも知れない・・・。私はいろいろ想像して思いを巡らしてしまいました。動物を飼う人は自分
自身が幸せにちゃんと生きていかなければならない。自分が幸せでないのに他のものに最後まで愛情を注げるわ
けはないのだから。
あなた自身の生活は大丈夫ですか?
6.避妊・去勢手術をしてやれるか
これも実際に私が経験した所有権放棄の例です。その80過ぎのお婆さんは野良猫に餌をやっていたのですが、
情が移って飼い始めました。しかし、もともと飼っていた猫と合わせて3匹はやはり面倒見切れないということ
で家族に「山に放つより保健所で安楽死してもらった方が猫のためだ(ここで言っておきますが、多くの保健所
で行われている二酸化炭素による殺処分は古く不適切な機材を用いる機関もあるため必ずしも”安楽死”となっ
ていません)。」と説得されて保健所に連れてきました。別れ際は悲惨でした。お婆さんは不安定になって涙を
流し続け、「どうか最後まで面倒見てやって下さい。」と残りの餌と千円札を私たちに渡そうとしました。もち
ろん、千円札は受け取りませんでしたが、「だったらどうして?」と腹立たしくなりました。そこで、今も飼っ
ている以前からの飼い猫はどのようにしているのかと尋ねました。避妊・去勢手術はしているのか?家の中で飼
っているのか?そのお婆さんは「今飼っている猫は雄だから手術をしなくてもよい。自由に歩き回らせている。」
とのこと。何とも古めかしくお粗末な話です。去勢手術をしていないその雄猫が出歩いては地域の雌猫を孕ませ
ている。そうやって増えた猫にせっせと餌をやってはまた保健所に泣きながら連れてくるとでも言うのでしょう
か?完全に間違った飼い方です。雌は避妊手術が必要だけれども雄は必要じゃない?とんでもない。動物の世界
でも性差別があるのかと呆れてしまいます。雄にも去勢手術をしてやって下さい。自分の家で増えなければよい
というだけで去勢手術をしないのは身勝手な飼い方です。手術をすれば、殺されるためだけに生まれる命も減る
のです。将来、前立腺肥大などの疾病も予防する去勢手術。雌の避妊手術は子宮蓄膿症や乳癌のリスクも減らし
ます。そのお婆さんは手術をどこでしてくれるのかさえ知りませんでした。
「避妊・去勢手術はかわいそう。動物は命を次につなげるために生きているのだから、一度くらい生ませてあ
げたい。一度も生ませないのは動物の幸せを奪っているんじゃないか。」と思う人がみえます。私も以前全くそ
ういう考え方でした。しかし、ここでもう少し考えて下さい。ペットとして飼育すること自体が既に動物にとっ
て不自然な状況です。そして、あなたに大切にされ、幸せに生きている動物がいる一方で、ただで無下に殺され
る動物がいます。わざわざ繁殖させた動物でなく、ここで保健所の犬・猫たちにチャンスを分けてもらえたら・
・・、いつも口惜しく思います。動物の発情期は本能的で本質的であるものだけに、避妊・去勢手術をしないま
まだととても辛いものです。一回くらいのお産で足りるものではありません。それよりも早期避妊・去勢手術に
よってその発情期の辛さを回避し、同時に乳腺腫瘍や前立腺疾患を初めとするさまざまな病気も予防できるとし
たなら、あなたの大切な動物たちはあなたとの信頼関係と相互の愛情で十分幸せな一生を送れるのではないでし
ょうか。重ねて言います。その幸せを他の動物たちにも分けてあげて下さい。
動物を飼うのなら必ず避妊・去勢手術を受けて下さい。
7.しつけ方教室でのアンケート結果より
平成15年3月にある保健所主催で行われたしつけ方教室に出席した人を対象にしたアンケートの集計結果と、そ
れを元にした私のコメントを下表に載せてみました。この結果、皆さんならどう読みますか?
犬を飼い始めた理由はなんですか?(複数回答有り) | |||
子供にせがまれたから | 52.2% |
ファッションで飼った方はみえなかったようです。やっぱり子供にせがまれて飼い始めた人は多いですね。「番犬として」飼い始めた人が13.0%であったのを多いと見るか少ないと見るか・・・。 | |
かわいいから | 47.8% |
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気持ちが安らぐから | 47.8% |
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子供の情操教育に役立つから | 26.1% |
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番犬として役立つから | 13.0% |
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他に飼う人がいなくて可哀想だったから | 4.3% |
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かっこいいから | 0.0% |
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わからない | 0.0% |
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その他 | 0.0% |
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犬をどこで入手しましたか?(複数回答有り) | |||
知人から | 69.6% |
ペットショップで購入した人はもっと多いのかと思ってましたが、20%とは嬉しい意外でした。「保健所から譲渡」が増えるといいなあ。 | |
ペットショップで購入 | 17.4% |
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捨て犬を拾った | 0.0% |
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保健所から | 0.0% |
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その他(ブリーダー、インターネットなど) | 8.7% |
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犬を飼い始めた時、飼い方、犬の病気などの知識をどのように得ましたか?(複数回答有り) | |||
本や雑誌で勉強した | 65.2% |
経験がない人は皆飼い方のお勉強に四苦八苦されるのかも知れませんが、やはり本や雑誌で勉強する人が多いですね。「ペットショップで教えてもらった」という人が13.0%というのは販売者に知識を持った人が少ないということなのか、そもそも飼う人が販売者に尋ねないということなのでしょうか。いずれにしても動物を取り扱う全ての人は、ブリーダーが熟知しておくべき遺伝病も含めて、動物に関する広範な知識を身に付けて欲しいです。 | |
飼っている人に聞いた | 52.2% |
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動物病院で教えてもらった | 52.2% |
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ペットショップで教えてもらった | 13.0% |
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経験があるので・・・ | 8.7% |
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ブリーダーから教えてもらった | 4.3% |
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飼い犬をどこで飼っていますか? | |||
一戸建ての家の中 | 69.9% |
一昔前と違って室内飼いが増えましたね。外で飼うのなら、フィラリア予防や鳴き声に対するご近所からの苦情にも配慮しなくてはいけませんから、室内飼いの方が飼い主にとっては気を遣わず、また犬にとっては寂しくないし、ベターなのかも知れません。 | |
一戸建ての家の外 | 43.5% |
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集合住宅の家の中 | 0.0% |
||
集合住宅の家の外 | 0.0% |
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犬を飼っていて困ったことは何ですか?(複数回答有り) | |||
「しつけ」をしたいがその方法がわからない | 34.8% |
「しつけ」は経験のある人に実際に教えてもらうのが一番なのですが、そういう人が周囲にいなければ保健所などが開催する講習会に積極的に参加してみて下さい。「発情期に野良犬がやってくる」ことが困るとありますが、やはり基本は避妊手術です。病気の予防にもなります。また、ところてんのように保健所へ押し出される「不幸な命」が減るでしょう。この結果の項目を見ると・・・やはり生き物を飼育することは簡単ではないことを皆さんに実感していただけたらと思います。 | |
病気の予防や治療に費用がかさむ | 26.1% |
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鳴き声で近所に迷惑を掛ける | 21.7% |
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散歩してあげる時間がない | 13.0% |
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発情期の野良犬がやってくる | 4.3% |
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家や庭が狭くて飼う場所に困る | 4.3% |
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毛が抜ける | 4.3% |
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子犬が生まれてその処置に困る | 0.0% |
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特に困ったことはない | 13.0% |
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あなたの飼い犬は避妊・去勢手術をしていますか? | |||
はい | 4.3% |
この結果にはとてもがっかりしました。無駄とされてしまう命を増やさないためにも是非避妊・去勢手術をして下さい。避妊・去勢手術は決して「可哀想」なものではありません。病気予防になりますし、発情期に「悶々とする」苦しみから動物を解放します。「うちは雄だからいい。」という人がいますが、その犬がもし何かの拍子に誤って(偶然放れてしまったとか)他の雌犬を孕ませてしまい、その結果保健所に連れてこられる子犬が増えることにもつながっているのです。犬を飼ったら必ず避妊・去勢手術を。 | |
いいえ | 73.9% |
||
無回答 | 21.7% | ||
前問で「いいえ」と答えた方に伺います。避妊・去勢手術をしていない理由は何ですか?次の中から最大の理由を一つだけ選んで下さい。 | |||
子供を生ませたいから | 30.4% |
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可哀想だから | 13.0% |
||
まだ小さいから | 13.0% |
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面倒だから | 0.0% |
||
手術費用が高いから | 0.0% |
||
無回答 | 43.5% |
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飼い犬の「しつけ」をしたことがありますか? | |||
はい | 78.3% |
「しつけ」をされていない飼い犬の場合、近所とのトラブルに結びつく犬の「問題行動」を生じやすく、「しつけ」をされていないために「いざ」という時に犬が人間のいうことを聞かなくて、結局保健所に連れてこられる結果となることが多いのです。「芸」ではなく、社会の一員として犬が生きていくための「しつけ」として、甘やかさずに最低限の調教はしてあげて下さい。 | |
いいえ | 4.3% |
||
無回答 | 17.4% |
||
前問で「はい」と答えた方に伺います。「しつけ」の内容は何ですか?次の中からいくつでも選んで下さい。 | |||
お手、おすわり、おあずけ | 78.3% |
||
待て、伏せ、いけない、来い、よし | 47.8% |
||
脚側行進 | 13.0% |