肉食する大人たちへ
1.教育現場で鶏を殺す授業は必要か
昨今、授業で食べるための鶏を殺す実習の是非が問題になりました。
私は教育者でないので結論を言うことは差し控えます。しかし、機会があれば一度は地域の屠畜場や食鳥処理
場へ見学に行くのもいいかも知れません。そして、そこで子供たちが持った感想について、大人たちが無理に修
正を加えることはせず、子供たちが肉を食べているならば、その肉がどうやって自分たちの目の前に並べられる
のか見るべきだと思います。二度と肉を食べなくなる子供もいるでしょう。平気な子供もいるでしょう。欧米で
は「肉を食べない。」ことを決断した子供に対して、大人がこれまでの食生活習慣の観点から修正を加え、子供
の選択権を奪うことが日本ほど多くはないようです。そこで子供が感じてchoiceしたことについて大人は慌てず、
尊重して見守ってやるべきではないかと思います。実際にローティーンの頃から絶対菜食主義で動物性蛋白を一
切摂らずに成長してきたイギリス人が私の身近にいました。彼女は14、15歳の時、牛、豚や鶏が飼われてい
る環境を知り、絶対菜食主義者(Vegan)になることを決意したそうです。彼女の両親は「あなたがそう決めた
ことなら。」と彼女の考えを尊重したそうです。一方、日本で生まれ育った私はどうでしょう?小さい頃、「肉
も魚も食べない。」と伝えたところ、母や祖母から止められました。戦中戦後に生きた彼女たちにとっては食べ
る物を選ぶことなど贅沢で我が儘なことに思えたのでしょう。そして、何よりも戦後の食糧難を経験して苦労し
てきた彼女たちは、私が栄養不足になって健康を害することを心配してくれたのかも知れません。
「肉を食べないと成長に支障を来すんじゃないの?」・・・これまで農林水産省に圧力をかける経済界により作
られた畜産振興広報による生活習慣のせいで本人の自覚なくそう思い込まされて部分が多面にあります。現在の
日本では今や食べ物は外食産業などでは余り物として廃棄物となり、家庭の冷蔵庫では腐らせてしまうほど恵ま
れています。食べる物が必要な分量だけ選べる社会です。そして生活習慣は変えられます。肥満を初め様々な成
人病も治まります。少なくともそのVeganの彼女は他の外国人と同じように背が高くグラマーで、貧血もなく健康
で、見た目には問題なく成長していました。もちろん、彼女の例だけで「全く問題なし」という結論には至りま
せんが、海外では彼女のように絶対菜食主義者でなくても、ベジタリアンを自称する人がたくさんいて社会的に
認知され、市民権を得ています。
日本は経済的には豊かで物質的にはなんでも手に入る国なのに、なぜか大人の心も子供の心も荒んでいます。
「生きる」ことは何なのかを教えられないまま生きているからではないでしょうか。子供の頃から「食」という
生物の根本的な営みについてもっと学べる機会を増やさなければ、生きることに自信喪失して心の病に罹り、若
い女性の病的なダイエットや「切れた」人間による犯罪も増えるばかりですし、更には一般国民の「食」への無
知を利用して農薬を野別幕無して使用する農家や助成金を騙し取って私服を肥やすことしか考えない販売業者を
はびこらせる温床を育て続けることになります。それを防ぐためにも食物がどうやって自分たちの口に入ってく
るのか小さい頃から知らせるのがいいでしょう。そして、その中には屠殺を見せることをタブー視して除外せず
に含めるべきだと思います。
※注意:妊産婦、乳幼児の菜食については追記参照。
2.大人のあなたはどうか
子供の頃から、どうやって食肉がテーブルの前に並ぶのか知らないあなた。機会があれば是非一度、屠畜場や
食鳥処理場へ見学に行きましょう。自分が食べているものがどうやって自分の口に入ってくるのか知って下さい。
そして、知った上でそれでも食べられるというchoiceをしてから肉を食べてみて下さい。もし、それができなけ
れば、食生活の一切でなくとも菜食という生き方も選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?
元来狩猟民族だった西欧人にベジタリンが多くて市民権を得ているのに、元来農耕民族であったにもかかわら
ず欧米の元来狩猟民族の肉食習慣を何の疑問も持たずに真似ているだけの日本人が、菜食を「偏った食事」とす
るのはおかしな話ですよね。欧米では栄養学的にも野菜中心の和食が高く評価されてきています。
「俺/私は食べるために鶏を締めて殺せる。」という人を私は止められません。でも、鶏を
絞められないあなたには考えて欲しいのです。動物は親が餌を採ってきて子供に与えます。
人間は多くの場合、親が買ってきたものを子供に与えます。その違いは子供が自分の食物が
どうやって口に入るかを見ているか見ていないかです。見ていない子供は果たして自分の生
き方を学べるでしょうか。
3. 屠殺室へ動物を追い込みながら・・・
屠畜場で働いている時、屠殺室へ動物を追い込む作業も手伝いました。牛や豚を追い込む仕事は屠畜場の中で
も重労働の一つです。屠殺頭数が多い日は担当者は言うことを聞かない牛や豚に苛立ち、蹴ったり電気ショック
を不必要に与えたりします。何も知らず、もし初めて端からそれを見ていた人は「ひどい!かわいそう。」とい
うでしょう。しかし、重労働でヘトヘトになっている彼らに向かって「可哀想だから止めて。」などという言葉
言えません。現場の人間はその場その場でいっぱいいっぱいなのです。そういう彼らがひどいのではなく、私は
他人にそういう仕事をさせていることを棚に上げて、大量に畜産動物を飼育生産しながら「かわいい。」とかわ
いがるだけで屠殺風景は「かわいそう。」と言う畜産関係者や、何も知らずに肉を食べきれないほど購入し、食
い散らかし、残飯にしてしまう消費者の方が無神経だろうと思います。もっと一人一人が肉食について考
えて欲しいと思いますし、また現場の人間の苦労を踏みにじるような牛肉偽装事件や助成金
詐欺など一部の金持ちと政治家の私利私欲にまみれた業界の体質に激しい憤りを感じます。
そんな体質、早く払拭して欲しいと心から思います。払拭されるまで私は市販の食肉は買い
ません。
屠畜場の現場は大変な仕事です。殺される牛や豚も必死ですから、そこで働く人たちにとっても大変危険な現
場です。私も何度か逃げ出した牛に追いかけられたことがあります。そうやって肉が作られる過程を知らず、見
えないところで誰かが殺してくれた塊だけを何の感情も抱かずに当たり前のようにして食べる。私はそのこと自
体がとても矛盾に満ちているものに思えて仕方がありませんでした。自分がかわいいと思い、殺して食べれない
ものを、人に殺してもらって塊になったら食べれるのか?自分が嫌なことを他人にやらせてまで食べない。食べ
ていることを逆手にとって他の命を慈しむ心を傷つけられたくない。そんなライフスタイルもありじゃないかと
思ったのです。それを実践している今はとても穏やかで気持ちいい生活を送っています。
4.知られていない更なる肉食の問題点
家畜一頭飼育するのにどれだけの飼料が必要で、年間どれだけの草地が利用されているか
知っていますか?さらに飼料作物の草地を確保するために、どれだけの自然が開発されて失
われているか知っていますか?多くの人は考えたこともないと思います。私もそうでしたから...。肉食
を止めることは動物を守るだけではなくて、自然を守ることでもあるのです。牛肉1Kg作るのに16Kgの穀物が必
要です。肉食を楽しむ先進国はその家畜の飼料を安価な発展途上国から輸入しています。日本では一般の人がほ
とんど知らなかった牛の口蹄疫が平成12年3月に九州で発生した原因として中国産の稲ワラが疑われています。
中国産に限らず、現在の日本の畜産は飼料をほとんどアジア諸国からの輸入に頼っています。そのため発展途上
国では、外貨を稼ぐ貴重な産業として家畜用の飼料生産が行われています。そこでは貴重な熱帯雨林を伐採して
牧草を育てている。貧困に喘ぐ発展途上国の実状を利用して、肉食で太り続ける先進国がその自然を破壊してい
るのです。しかし、発展途上国に住む、毎日の生活で精一杯の人たちに「貴重な熱帯雨林を伐採してまで牧草を
育てるな。」と言っても、その声は届きません。豊かな国に住む人間の一方的で傲慢な言葉です。見直すべきは
己のライフスタイルからです。
食糧不足に苦しむ人のことを考えれば肉食は効率が悪い。効率の面で考える限り、肉食1人分=菜食20人分で
す。同じ土地の広さがあった場合、放牧するのと穀物を作るのとでは、穀物を作ったほうが放牧で食用肉を作る
よりも約8倍の人を養うことになります。古来、人間は狩猟により動物を食べて存続してきました。「だから人
間が肉を食べて当たり前。何が悪い。」と言う人がいます。しかし現在の肉食は今までの「人間が生きるのに必
要最小限の食糧」ではなく、自然を破壊して飼料を作り、狭い畜舎で不自然に家畜を飼って周辺環境を悪化させ、
肥育させるためにビタミンAの給与量を操作して「牛の目が見えなくなるほどいい肉」に仕上げ、国の助成金を
当てにしながら経営を続ける非効率的な食糧生産でしかありません。
家畜が発生するメタン(全メタンの17%を占める)により地球温暖化も進みます。人間が生きるための根本的
な営みである「食」。基本的すぎて誰もが意識しない生活様式の中に、現代ではこんなにもいろいろな矛盾や弊
害が起きていることを多くの人に知ってもらい、食について意識して考えてもらえたらと思います。
ニュースより 牧畜拡大で森林破壊止まらず ブラジル・アマゾン 世界の熱帯雨林の40%を占めるブラジルのアマゾンで、この1年間で四国の面積の約1.3倍にあたる森林が、2年 連続で消失したことが明らかになった。 ブラジル政府は、2003年に消失したアマゾンの熱帯林の面積は、2万3750平方キロに達したと発表。 森林破 壊は依然として深刻化している。 牧畜のための開墾が主な原因とされ、国際環境保護団体は、 「欧米でのハンバーガー人気でその原料である牛肉 の輸出拡大が、アマゾンの破壊につながっている。森を肉に加工しているようなものだ」と警告、抜本的な対策 を求める声が高まっている。(2004/4/3時事、4/7共同、ロイター)
5.菜食主義者の栄養−特にビタミンB12について
菜食主義者の栄養について、特に問題視されるのがビタミンB12です。ビタミンB12は動物性食品に多く含ま
れるため、菜食主義者では欠乏すると言われてきました。ビタミンB12にはどのような働きがあるのでしょうか?
・神経伝達物質の一種であるアセチルコリンを合成する酵素の働きを促進する。
・赤血球の造成に欠かせないヘモグロビンの合成を助ける。
・生物の最小単位である細胞を作るための核酸や蛋白質の合成・修復を行う。
このため、欠乏するとめまい、立ちくらみ、記憶障害などの神経系障害や悪性貧血を起こします。
では、ビタミンB12はどのような食品から摂ればいいのでしょうか?本当に菜食主義者は貧血や神経系障害を
抱えているのでしょうか?ローティーンの頃から絶対菜食主義者だったイギリスの友人を見ていると、とても疑
問でしたので調べてみました。まず、ビタミンB12を多く含む食品を下記に掲げます。(2003年3月1日「五訂
日本食品標準成分表」より)
食品 | ビタミンB12含有量(μg/100g) |
乾燥あまのり/干し海苔 | 77.6 |
しじみ(生) | 62.4 |
アサリ(生) | 52.4 |
牛レバー(生) | 52.8 |
はまぐり(生) | 28.4 |
豚レバー(生) | 25.2 |
タラコ(生) | 18.1 |
サンマ(生) | 17.7 |
ニシン(生) | 17.4 |
数の子(生) | 11.4 |
ホッケ(生) | 10.7 |
ビタミンB12には活性型と不活性型とあり、活性型でないと栄養として有効ではありません。最近の研究で、
海苔に含まれるビタミンB12は活性型であることが報告されています。
次に厚生労働省による第6次改定日本人の栄養所要量(平成12年度から平成16年度の間使用)を示します。
年 齢 (歳) |
ビ タ ミ ン B12 | |
所要量(μg) | 許容上限摂取量 | |
0〜 (月) | 0.2 | − |
6〜 (月) | 0.2 | − |
1〜2 | 0.8 | − |
3〜5 | 0.9 | − |
6〜8 | 1.3 | − |
9〜11 | 1.6 | − |
12〜14 | 2.1 | − |
15〜17 | 2.3 | − |
18〜29 | 2.4 | − |
30〜49 | 2.4 | − |
50〜69 | 2.4 | − |
70以上 | 2.4 | − |
妊婦 | +0.2 | − |
授乳婦 | +0.2 | − |
ビタミンB12は肝臓に貯蔵され、枯渇するには数年かかると言われていますので、成人になってから菜食主義
になった人は問題ありません。発育過程にある子供と妊婦・授乳婦は意識してビタミンB12を摂るべきですが、
上記のように海草類や貝類には多く含まれていますし、また菜食主義者の中でも卵、牛乳、魚を食べる類のベジ
タリアンであれば問題ありません。
追記:妊産婦については、厳格な菜食主義者から生まれた子供に甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏に よる貧血が見られたという報告があり、厳格な菜食主義はお勧めできません。乳幼児の絶対菜食化も同 様です。親の主義主張は、まだ多くの選択肢があるということを知らないうちの子供に押し付けられる べきではないと私は考えます。私自身は妊娠・授乳中、動物性蛋白を摂取しましたし、離乳食から始ま り子供が食べる物に初めから肉類を除くことはしません。子供にはまず多くの選択肢を示し、その後、 子供自身が選択してベジタリアンになるも良し、肉食を続けていくも良しだと思っています。自分の主 義はいかなるものであっても子供に押し付けていいものではありません。子供は別人格であって、その 人生の選択は子供自身がすべきものだと思っています。
6.畜産動物を取り巻く環境に関するニュース
英語ですが、ページ中央辺りの(Related link: See video) からビデオが見られます。