メトロニュース


 鉄道会社の広報誌は情報が早く便利な反面、沿線に居ないとなかなか手に入らないという弱点をも併せ持っている。別にそれらを蒐集の対象にしていたわけではないが、親父が通勤に地下鉄を使っていた関係上土産代わりに定期的に手に入ったのが営団のメトロニュースだった。
 振り返るに高度成長期から今日に至るまで絶え間なく輸送力増強に邁進していた最たる鉄道が営団地下鉄で、60から70年代のメトロニュースは時代と共に最も景気の良いトーンで誌面が埋め尽くされていた。


 昨今は鉄道雑誌も店頭に平積されるようになったが、中身を見ると華々しい「新車登場」よりは「去り行く何とか...」という記事の方が優勢だ。自分より“年長”の車両はかなりの数が消え去ってしまい、近頃は登場時に目を輝かせた記憶のある車両がそんな特集の主役になってしまっている。
 初めて買った(買って貰った)鉄道雑誌には今は去り行く車両達の“新車紹介”に混じって営団6000系試作車の登場記事があって、そのページを開いた瞬間の衝撃が未だ忘れられない。南海「ラピート」や「Sonic」のデビューに対する印象が軽い驚きで済んでいるのはこの体験が下地としてあるからだと思う。
 高架線を介して都心の地下への乗り入れというのはその昔の絵本に描かれた“21世紀の交通”そのものであり、地下から飛び出して高架線へ駆け上がる6000系という図を想像するだに基地を発進するサンダーバードにも匹敵する格好良さを感じたものであった。

 そんな派手な話題には無縁だったその頃の銀座線、中間車にはまだ片開ドアや釣掛車が数多くあり、それらの一掃を目指して2代目1500形が新造された。左のメトロニュース、昭和43年5月号はその紹介がトップの扱いとなっている。2000形に至るまでのデザインの流れを全く無視したこの車両、その見かけには一応のワケがあり、車内広告が電照透過式でその設備分窓の上端が下がっている。東急8000系も登場時は貫通路上に同様の紙芝居式の広告設備を備えていたが(両方共実際に使用したかどうかは見ていないので解らない)、いずれも企画倒れに終わってしまったようだ。
 この1500形、末期の製造分は2000形にデザインを合わせ、丸ノ内線の900形の弟分のような形になったが、皮肉にも編成美という観点からは数段優れたものになった。
 幾時代かが過ぎ同様のコンセプトは山手線の6扉車に文字放送による液晶画面という形で復活したが、時代と情報を取り巻く環境の変化はめまぐるしく、情報はパブリックから完全にパーソナルなものになってしまった。電波圏外の地下鉄はともかく電車の中ではみんな携帯画面を見つめており、車内広告や液晶画面を見上げているのはオジサン・オバサンばかりである。
 ともあれ目玉の試みは頓挫したが、もう一つの嚆矢は釣り手がリコ式から普通の形に変わったことでこれは営団全車に波及した。ただこの頃に比べ電車の加減速度は飛躍的に高くなっているので、踏ん張りの利くリコ式は今なら一考の価値はあろうかと思う。

 どこの会社もそうだったが、このメトロニュースも新車登場、新線建設、設備投資計画が代わる代わる表紙になっていた時代で、裏面の営団路線図も工事中や計画線の表示が勇ましい。面白いものは有楽町線(標記は8号線)の計画で東上線との乗り入れ接点が成増だったり、護国寺から分技して目白を通り西武池袋線中村橋に至る線が引いてあったりすることで、西武沿線住民から見れば“夢の名残”と言えよう。
 右はその3年後、千代田線と常磐線が相互乗り入れを始める時のもの。上を走る営団3000形は既に無く、右の常磐線103系(写真は合成)も2002年の現時点で余命あと僅か。6000形だけが今も元気一杯である。
 この時から北千住−綾瀬間が運営上は営団となり、当該紙面でも綾瀬から千代田線への運賃が営団で通算され安くなる、というメリットで記事を結んでいる。常磐線との絡みで言えば、後に“迷惑乗り入れ”と酷評されることになる同区間の扱いや構造はこの時点では全く記載が無く、この当時かくいう事態への対処は大した真実味をもって議論されてなかったのかもしれない。

 他にも当時の世相を語る興味深い記事としては、地下鉄債の利回りが8%台という広告や切符の自動販売機のアピールにかなりのスペースを割いている点が挙げられよう。曰く“行き先か料金ボタンを押さないと切符は出て来ません”とか“渋谷と日比谷、木場と千葉など紛らわしい行き先ははっきり発音して下さい”等々。使い古されたお笑いのネタのようだが、後者は“電車の切符は窓口で並んで買って駅員にハサミを入れてもらう”のが身に染みついた習慣であったということと、そんな習慣がここ何年かでこの国の殆どの駅で姿を消してしまったことを改めて気付かされる。そういう視点に立つと銀座線の1500形が増えてきた当時の6000形の飛び抜けた斬新性が際立ってくるのではなかろうか。


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