都市伝説 ソニータイマー  (C16)

ネタは、ソニー製品の話ではありません

 世間では、製品の保証期間1年が経過して後、故障率が上昇すること。また、その傾向がソニーの製品に多くみられることから、ソニータイマーという表現が定着したらしい。

 このソニータイマーでは、製造メーカーが故意に故障し易くする仕掛けがあるのではないかとも世間では囁かれていた。では実際はどうなのであろう。ソニー製品に限らず、私の経験では、製造メーカーが、修理での利益や、買い替えを即すためと推測される意図的な故障の仕掛けの事例が多くあった。

 この悪意に満ちた故障発生メカニズムを始めて知ったのはかなり昔である。その機器は、P社製 LD プレイヤーであった。またその仕掛けた場所は、「待機電源部」であった。この待機電源部に故障の仕掛けをする事実は、P社に限ったことではなく、他社の特定メーカーにも多くみられた。

 「待機電源部」とは、機器のその動作電源を供給する AC 電源のプラグを抜かない限り、絶えず待機状態を維持する電源部のことをいう。この待機電源で動作する回路は、主電源の ON / OFF や、入出力設定、主電源の基準電圧、リモコンからの信号の受付け、ディスプレイの表示情報の保持など含まれる場合が多い。

 要するに、待機電源を供給できないように故障させると、主電源の ON / OFF や、リモコンからの信号の受付けなど、機器を起動するためのルートが断たれてしまうのだ。


故障の発生タイミング

 先の説明のとおり、待機電源は、AC 電源のプラグを抜かない限り供給されているが、停電や、機器の移動などでAC 電源のプラグを抜くと、待機電源部は動作を止める。そして再度 AC 電源を接続したとき、故障を誘発させるのである。

 この故障の誘発は、何回目の AC 電源のプラグの抜き差しで発生するか不定である。2回目なのか3回目なのか、あるいは10回目なのかは明確に確定できない。それにしても、待機電源に細工するとは、実に上手い方法を考えたと感心した。何故なら、通常、機器は一度セットしたらそのままである。しばらくの間は AC 電源プラグを抜くこともないだろう。つまり、故障するまでに時間差が生じるのだ。要するにタイマーの役目を果す訳だ。この時間差は多くの場合、1年を過ぎる可能性が高い。また、製造メーカーもそれを期待するであろう。


どのようにして、待機電源部に故障を誘発させるのか

 これからの話は初歩的な電気の知識がないと理解できないので、一般の方は、「そんなもんか」と理解して頂くか、「詳しい」人が身近にいらっしゃれば、ここでの事例で故障が起こりうることなのか聞くものよいでしょう。


A図 B図


 A 図は交流を直流に変換する回路でブリッジ整流回路といわれ、D1 から D4 のダイオードが整流作用をして、C1 のコンデンサーに充電される。本件機器の待機電源の整流部にも同じ回路が採用されていたが、しかし、B 図のように、動作上、全く意味のない、D5 のダイオードが追加接続されていた。しかも、それは、検波などに使用する小信号用ダイオードであった。このダイオードの連続許容電流は 100 ミリアンペア以下である。もちろん、D1 〜 D4 は 1 アンペアクラスの整流用ダイオードが使われていた。

 整流回路で最初に通電されるとき(AC 電源のプラグをコンセントに差し込むとき)、C1 の電位は 0 ボルトで、なおかつ内部抵抗が低いため、ダイオードには大きな充電電流が流れる。やがて C1 は規定値まで充電され、それ以後、ダイオードには、待機回路が消費する相当分の電流しか流れなくなる。この最初にコンデンサーに流れる電流をサージ電流という。サージ電流のピーク値は常時消費する電流の数十倍から数百倍である。

 このようなサージ電流が発生する状況下で問題になるのが、D5 の小信号用ダイオードの存在である。元々流せる電流の小さな小信号用ダイオードでは、大きなサージ電流に耐えられないのだ。しかし全く耐えきれない訳ではない。1回だけ流せるサージ電流を規定して、2回目に同じ電流が流れると開放モードで破損する仕様もある。このような仕様で一回だけ流せるサージ電流よりも若干少ない電流が流れるように設計すると、複数回のサージ電流で破損に至らせることができる。また、通常の使用状態でも D5 に定格限界に近い電流を流し続け経年劣化を速めているので、経年年数が多いほどサージ電流によるダメージが大きい。つまり、使用年数が多いほど、再通電(AC 電源の断続)したときの故障率が上昇する。このように破損に至るサージ電流の回数は不定であるが、何れにしても、サージ電流をくり返せば確実に破損する。この破損によって、C1 のコンデンサーに電流が供給されなくなり、待機回路の動作も停止するのである。

 この事例はかなり古い電源方式のものであるが、今はスイッチング電源が一般的で、これにも待機電源部に同様の故障発生メカニズムが組込まれている機器があった。この場合のほとんどが、先の説明のようなサージ電流の流れる部分にサージ電流に耐性の低いソリッド型フューズやフューズ抵抗を使っていた。


他機種の事例

 ここでスイッチング電源での事例も簡単にお話しましょう。機種はV社製ビデオデッキであったが、知人に機種選択を相談され、私が決定したものにそれは起きた。知人宅にてセッティング中、最初に通電したときは、ディスプレイに時間などの表示が出ていたが、そのまま起動せず、配線のやり直しで再度通電したときには、ディスプレイはなにも表示されず真っ黒だった。もちろん電源スイッチを押しても起動しない。2回の AC 電源プラグの抜き差しで、待機電源部が壊れたのだ。


この問題の対処法

 このような製品は購入しないのが一番だが、仕組まれた故障を事前に知る術がない。そこで私が多くの方に進めている方法は、購入して直ぐに、AC 電源プラグの抜き差し(通電のくり返し)を30回ほどすることだ。抜き差しの間隔は、差してる時間2秒、抜いてる時間10以上の間隔で試すのがよい。なお、抜いてる時間を短くして間隔をつめると、別の意味で故障の発生する可能性があるので注意する。

 さて、このテストで故障した後の対処だが、二通りの方法があると思われる。一つはどうしてもその機種を使いたい場合は修理(無償修理)に出すことだ。そのとき、厳重に抗議して2度と同じ故障が発生しないように注文すること。理由の分かっているメーカーは、耐性のある部品に変更するか、回路を変更して修理するだろう。だがそれは期待であって保証はできない。もう一つの方法は、壊れた機器を返品清算し他メーカー機種に変更することだ。


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