● よくわからないフカセ論  

”浮きフカセ”という言葉は,普通の浮き釣りと区別するために,10年ぐらい前から使われ始めたようだ. 現代釣法として盛んにフィールドテスタが雑誌などに紹介し,この釣法にあった釣具も開発されてきた.

円錐浮きを使ったフカセ釣り...
関東で普及している棒浮きを使った遠矢釣法...
代表的なこの2つの釣法は黒鯛釣りに対する考え方がまるで違う.
かたや,仕掛けを張ってフカせて釣るといい,
かたや,底狙いのポイント釣法で,仕掛けがなじむまでの状態などほとんど無視している.
なにせ,まだ1〜2匹しか釣ったことがない頃の私は,かなり悩まされた.

私は遠矢浮きのように重い負荷錘を背負う仕掛けは,仕掛けがV字型になり,なじむまでは全くアタリでず,円錐フカセの方が信憑性があるように思えた.というのも,アタリなく餌が無くなることが腹立たしくどうにも許せなかった.だから,最初は円錐浮きのフカセ信奉者だった.

しかし,円錐浮きを使ったからといって,仕掛けをまっすぐにできるわけでない.所詮,浮力調整錘やシズを打てば,仕掛けはV字やW字型になってしまう.仕掛けの張りの操作をしても,すこし修正される程度に過ぎない.海中では予想をはるかに越えて,仕掛けは潮流の影響を受けて大きく膨らんでいる.ガン玉やシズを打たない完全フカセにしても,わずかでも流れがあれば,仕掛けは膨らみ餌は垂直に垂れ下がった状態になる.

また,フカセに重点を置くことから,ハリスは2ヒロ近くと長くとられることが多い.1ヒロ=1.7mとして,2ヒロは3.4mになる.単純に考えると,負荷錘がなじんだとき,餌は錘から3.4m上にあり,そこから自重で6.8mゆっくりと落ちていく計算になる.私は水深7mもあるところで滅多につりをしない.そもそもタナを7mも探る必要があるのだろうか? もしかして,まるで無意味ではないか? 1ヒロでも3.4mも餌をフカセることができのだから...
餌を自然に漂わせるという効果は確かにあるだろうが,シズを打てばハリスの長さなど意味のないことだし,シズを打たない場合でも所詮糸に引っ張られているのだから,自然ではありえないことだ.

私はいろいろ考えた挙句,仕掛けの弛みの少ない仕掛けとして,2段浮きをためしてみた.普通に言われるものでなく,餌の上の矢引き付近にガン玉を打ち,この重みをほとんど打ち消すようにシモリ浮きをハリスの上に固定でつける.シモリ浮きから円錐の間にガン玉は一切打たない.こうすると,まず餌が早く落ち,狙うタナ付近になるとシモリ浮きの浮力で餌がゆっくりと底までしずんでいく.シモリ浮き/ガン玉/餌がセットになって,フワフワと漂うことになる. シモリ浮きが見える間はこれであたりをとり,見えなくなったら,円錐うきか,穂先でアタリをとればいいわけだ.これぞ,究極のフカセ仕掛けだとお気に入りで,この仕掛けで黒鯛釣りをやった.さらに発展させて,シモリ浮きを2個,3個と増やしていき,奇天烈な仕掛けになってしまったが...(なんだ,あいつの仕掛けはと奇異な目でみられ,ちょっと恥ずかしい思いもしたが..)

でもやはり,フカセ論から考えれば,釣れないはずがないこの仕掛けで,釣果がアップすることはなかった.中層で黒鯛がつれることはほとんどなかったし, 釣れてもやはり底付近だった. 私はだんだん,この仕掛けがわずらわしくなって(恥ずかしくもあり),棒浮き仕掛けを見直すようになっていった. メジナ釣りならいざしらず,仕掛けがなじむまでの中層の状態にそれほど神経質になる必要があるのか.. 釣れるのはどうせ底付近だ.入り組んだ磯などでは浮いてくることもあるだろうが,底が平坦なところでまず滅多に浮いてはこない...ある雑誌で水中カメラマンがコマセに群がる魚を観察する実験記事をみたが,黒鯛は浮かず.底付近で餌取りをすり抜けて流れ落ちてくるコマセを拾い食いしていた.まざまざと見せられて,この考え方が確信に変わっていった.

仕掛けの特性についても,いろいろやっているうちにだんだん分かってきた.いや,だんだん懐疑的になってきた.軽いガン玉に長いハリス..仕掛けが軽く,抑えが利かないから,大きくふけてしまい,張りの操作などが必然的に必要になる,これらの欠点を補うために水中浮きも必要になってくる..まさに悪循環に嵌っているようにも思える.

また逆に,仕掛けは膨らんでいても,ねじれてでもいないかぎり,糸の潮抵抗でアタリは出る.空中ではわずかでも弛んでいれば力は伝達されないが,海中では膨らんでいる=張っていると考えていい.仕掛けをまっすぐにすることにそれほど神経質なることはないように思える.

また感度的には,「軽負荷錘+長ハリス」は,アタリがとりにくい低感度仕掛けといえる.これは形状的なものを抜きにしても,棒浮きに多い「重負荷錘+短ハリス」より明らかに感度は悪い. 負荷錘がある程度重ければ,浮き〜負荷錘までをひとつの浮きとして考えることができる.等価的に餌から錘(浮き)までの距離はずっと近く,錘の変化は即浮きに現れる..アタリがずっと出やすいわけだ.「重負荷錘+短ハリス」は V字型になりやすいが,錘が乗ったあたりで軽く手前に引いてやれば,仕掛けはL字型になり,これでも充分にあたりはとれる.

結局のところ,底狙いとわりきれば,仕掛けはどの観点からみても ”棒浮き+重負荷錘+短ハリス”の方が有利だ. いつしか,ヘラ釣りをヒントにして試行錯誤的に開発したという遠矢釣法,遠矢名人という人は凄い人だと思うようになった.
あの懐かしい2段円錐フカセ仕掛けはいろいろなことを私に教えてくれたが,以後 使ってはいない.