● 黒潮流路と海水温度 

三重県科学技術振興センター(水産技術センター)のHPでは,黒潮流路予報や海水温度の情報を,漁業向けにHPで提供している。私がいつも海水温度を見ているHPである。
昨年,リンクしたい旨伝えたところ,"漁業以外にも利用して頂いて有り難い”,とのことであったので,ここでのデータなどを存分に利用させてもらっている。 特に,昨年から始まった海水温度をリアルタイムに表示するNOAAの大型衛星システムは大変に便利である。

今回のテーマは,黒潮の流路と太平洋沿岸の海水温度についてである。私自身,遥か沖の黒潮の流れなど,釣り場にさほど影響がないだろうと鷹をくくっていたが,昨年から注意してみるようになり,これは馬鹿に出来ないほど影響が大きいと認識した。 釣り雑誌や教本などでこの手の話が取り上げられているのをあまりみたことがないので,ここで敢えて取り上げて見たい。 私自身,専門外のずぶの素人であり,このような地球規模でのことを説明できる筈もないが, 現象論的には誰にでも充分に把握できるものである。 知っていて損はない。

 

1)黒潮流路のパターン

九州東岸,四国南岸沿いに北上した黒潮は潮岬沖で東に向きを変える。

この東ルートは左図のように,A,B,C,N型に分類されている。 N型(直進流路)は東にまっすぐ進み,三宅島付近から房総東沖方面へ進路を北上させる。A,B,C型は潮岬沖で一度南東方向に南下した後,伊豆諸島に向けて北上してくる。

このような流路の変化は太平洋沿岸の水温にどの程度影響しているのだろうか?

三浦房総からみると,もっとも黒潮が近ずくのがA,もっとも離れるのがC,N型となる。 一般的にではあるが,A,B型は伊豆諸島の西側を黒潮が北上し,相模湾〜房総の水温を上昇させる。 C型は逆に水温低下を招く傾向にある。

 ( なぜルートが変わるかって? わかりません(~O~) )

2)実際に見てみよう!

2000年の代表的な黒潮ルートをNOAAから抜き出し,太平洋沿岸の海水温との関係を視覚的に捉えてみる。
2000年の1月から順次みていくと,

2000. 01. 03      
黒潮本流 23℃  C型
三浦半島 19℃

黒潮は潮岬に接岸し,南東に南下し,房総東沖に向け北上している。全体的に黒潮流路は北に位置しており,相模から房総の水温は19℃と比較的暖かい。

2000. 03. 06
黒潮本流 23℃  B型
三浦半島 15℃

黒潮本流の温度は23℃と変わらないが,流路が全体に南下している。 3月寒さも緩み,そろそろ乗っ込みかと噂される頃だが,黒潮の南下に伴い,太平洋沿岸の水温は低下していく。

2000. 04. 13
黒潮本流 24℃  B型
三浦半島 14℃

4月桜も終わる頃だが,黒潮の南下傾向は変わらず,黒潮は房総まで届かず,相模から房総南部の水温は気温の上昇とは逆に低下した。 このように黒潮が沿岸から離れると水温が低下し,所謂冷水塊が発生しやすくなる。遠州灘,相模,房総沿岸の水温は,実に黒潮本流より 10℃も低い。
昨年の4月からGoledenWeekにかけ釣況が極めて悪く,餌とりさえいなくなってしまったことは記憶にあたらしい。

2000. 05. 24
黒潮本流 25℃ B型
三浦半島 20℃

黒潮は全体に北上し,三宅島から房総南西沖まで北上し,相模〜房総の水温は一機に上昇した。 これに伴い魚の活性も上がった。 もう終わりかと思われた乗っ込み黒鯛の知らせが入って来たのもこの頃である。
黒潮のもたらす暖水は既に東京湾や伊勢湾の中まで入り込んでいるが,瀬戸内海にまではまだ入り込んでいない。

2000. 07. 19(写真は2000.07.16)
黒潮本流 26℃  N型
三浦半島 22℃

梅雨あけの頃になると,さらに黒潮は北上し,太平洋沿岸に押し当たっている。 潮岬から南下する度合いが減り,N型に近い流路となる。 この頃になると,黒潮の運ぶ暖水は瀬戸内海から日本海側にまでが入り込んでいる。

2000. 08. 10
黒潮本流 29℃  
三浦半島 27℃

真夏になると,黒潮は太平洋沿岸に張り付き,黒潮に乗ってやってくる回遊魚が岸近くを賑わすようになる。
黒潮と太平洋沿岸の水温差はわずか2℃しかない。

2000. 10. 11
黒潮本流 27℃ C型 
三浦半島 23℃

10月になると気温はぐんと下がってくるが,黒潮本流は27℃とさほど低下はしていない。しかし,黒潮は徐々に南下しながら,B,C型の流路に変わってくる。黒潮の暖水は遠州,駿河,相模,房総には届かず,気温の低下に伴い,水温はドンドン低下していく。 

2000. 11. 24
黒潮本流 27℃
三浦半島 18℃ N型

11月下旬には一時的に N型流路となり,黒潮は伊豆諸島を北上しなくなり,遠州灘〜相模湾の水温は一段と低下した。 11月下旬にもかかわらず黒潮はまだ27℃もあるが, 相模湾の温度は 黒潮より 9℃も下がっている。

2000. 12. 09
黒潮本流 24℃ A+B型
三浦半島 20℃

12月上旬になると,流路がN→B型に変化し,黒潮は伊豆諸島を勢いよく北上し,相模〜房総の沿岸の海水を暖めた。 気温はどんどん低下するにもかかわらず,相模湾の水温はかえって上昇した。 三浦付近と黒潮との温度は4℃まで縮まっている。

2000. 12. 23
黒潮本流 24℃ A+B型
三浦半島 18℃

12月中旬〜下旬にかけても,このA,B傾向は変わらず,遠州灘〜伊豆,房総方面に暖水をもたらしており,12月としては 比較的高水温が続いている。

2001年1月に入ってもこのA型に近い流路は変わっておらず,今年の初冬は高温基調にある。

3)釣り人の持つべき視点

以上 みてきたように,黒潮の流路,位置が沿岸の水温に大きく影響していることが,おぼろげにでも分かっていただけただろうか? それでは次に,釣り人にとって日頃,なにに着目していれば良いか,どう役立てればよいか,を考えて見たい。

  • 今の黒潮流路パターンとその位置を把握しておく
    太平洋沿岸の海水温度は黒潮の影響を受けており,これは短期的な気温の変動より影響力が遥かに大きい。 短期的に気温が低下しても,比熱の小さい空気は比熱の大きい膨大な海の温度を簡単には下げられないのである。浅場で一時的に水温低下してもすぐに薄められて元に戻ってしまう。 たとえば現在でいえば,正月から冷え込んだが,1/10三浦の海水温は17℃程度でまったく寒波の影響を受けていない。

    むしろ,黒潮流路の変動の方が大きく影響している。 これは地球規模でのゆらぎ,呼吸のようなものであり,注意していると一週間単位ぐらいで微妙に変化している。 私が掲載している各地の海水温度のグラフを見ても分かるように,単調な増加減少ではなく,不連続な温度の上下はみな,この黒潮流路の変化によるものである。 昨年4〜5月の水温低下,昨年12月上旬の温度上昇,一昨年秋の異常水温低下・・,などは全てこの黒潮流路で説明できている。

  • A,B型は水温を上昇させる (三浦,房総方面)
    A,B型の流路になると,黒潮は伊豆諸島を北上し,三浦〜房総の水温を上昇させる。 総じて,魚の活性は上がり釣況はよくなる。季節やその位置によって,微妙に暖水の沿岸への滲み出しの度合いが異なるが, この北上した黒潮の暖水がどの程度沿岸までおよんでいるか,を把握しておくことが大切である。

  • C→N型は要注意!
    黒潮は東沖に遠ざかり,三浦,房総方面の水温は下がってしまう。特に春先にこの流路に変化すると,冷水塊が発生し, 餌とりさえいなくなる状況となる。 こうなると,2〜3週間は不調が続くと覚悟した方がいい。また,房総半島南端は,B←→C型の変化の影響を受けやすく,その分 温度変化も起こしやすい。

  • 九州,四国,瀬戸内海では黒潮の北緯が大切!
    黒潮が北緯何度に位置しているかを把握していることが大切である。  北にあれば沿岸の温度は上がり,瀬戸内海や大阪湾にまで暖水が入り込む。 南にあれば,沿岸の温度は下がり,さらに瀬戸内海や大阪湾の水温は急低下する。 瀬戸内海や大阪湾の水温変化が階段状になりやすいのはこのためである。

     

以上,さほど難しいことではないので,ぜひともお役立て頂きたいと思います。 これだけ知っておけば,かなり釣況を予測することが可能なはずです。毎年,著名人達によって“今年の乗っ込み予報”などの記事が掲載されますが, これらはどの程度根拠のあるものなのでしょうか? むしろ, ここで取り扱っているような黒潮流路,海水温度の推移などから予測した方がよほど信憑性があるように思えます。 沖合い漁業では各水産試験場などのデータや予報をベースとして,その操業を営んでいます。 釣り人もある程度は科学的にならないとね。

今後の課題
よくよく考えてみると,黒潮の影響を強く受ける太平洋沿岸, 閉塞的な地形で黒潮の影響を受け難くく冬に水温低下の激しい東京湾/伊勢湾/瀬戸内海/大阪湾, そして,水温の観点からは全く異なる日本海側・・・, それぞれで黒鯛の行動パターンは大きく違うはずだと思います。 日本海側では雪煙る冬が黒鯛シーズンとなる所もあり, 就餌限界といわれる8〜11℃まで下がる場所で荒食いする所もあるのです。黒鯛の挙動は一口では言い表せないものがあります。よく言われるような,春の乗っ込み,秋の落ちなどの通説がどの程度それぞれの釣り場に当てはまるものなのか,はなはだ疑問に思っています。 このような問題を少しづつでも解明できたらなぁと考えてる次第です。