● うねりの中での仕掛け  


うねりの中ではどう釣るべきかという問題を真面目に取り上げることはあまりなく、一般に言われることは、あまり信憑性があるとは思えない。
たとえば、

  •  うねりが大きいときは棒浮きより玉浮きの方がよい。
  •  仕掛けを落ち着かせるために、重めのシズを打つ。

代表的の上の2つの話は、理解できない。
最初のは単に浮きが見やすいから、2つ目はかえって仕掛けが暴れることもある。
いったい、餌を落ち付くかせたいのか、あたりを取りやすくしたいのか、その反対なのか、
さっぱり分からない話である。

ごくごく当たり前の話から始める。
うねりは波。波は進む。そして、うねりが襲来する間隔と大きさがある(周波数と振幅)。
ここに仕掛けが放り込まれるとどういうことになるか。
まず、波は進んで見えるが、上下運動の伝播であることはご存知のはず。より正確には楕円運動ですね。
単純に考えれば、表面に浮いている浮きは楕円運動をしてるわけ、これは真実。
では、表層からドンドン深くなっていくとどうなるか? 皆さんはどう思います?
???。 じゃ、底ではどうなってるか、考えてみてください。
底の水はじっとしてて動かない? そんなことはないでしょ。深さによりますけど。
それじゃ、分かりやすくするために、防波堤の岸壁沿いの底の水を想像してください。
岸壁沿いの水面がうねりで盛り上がってきます。さて、この盛り上がる水はどこから補給されるのでしょう。
実は岸壁から離れたところの底の水が岸壁側に吸い込まれてきます。
岸壁沿いの表層は上下運動しますが、底では激しく横移動をしてるんですよ。
表層と底では、まったく90度、方向ちがいです。しかも、岸壁から離れたところより倍近い速さで横運動してます。
岸壁沿いやテトラ際で茶色い濁りがでやすいのはこのためですね。

それじゃ次に、岸壁ではない所の底はどうなってか?、もう分かりますね。
おなじですよ、やはり底は横、表層は楕円運動です。
水中カメラの映像でよく海底岩礁帯の海草がゆっくりと左右になびいているのを、みなさん何度もみているはずです。
あの左右の動きはうねりの波動に同期しているんです。

では、中層ではどうでしょうか。
表層の楕円運動が深くなるにつれて、減衰していきます。小さくなります。
やがて底では横運動になってしまうわけです。
楕円から横運動に変わっていく過程で、場合によっては、海水が止まっている場所もあるかもしれません。
これらは、波の波長・振幅と水深との関係で決まるもので、単純ではありません。

大体のイメージができたところで、タナを底に取ってるとした場合、
浮きから針までの仕掛けのなりはどうなるんでしょうか。
まず、浮きから針までは錘はなく、糸で繋がってるだけも場合を考えてみましょ。
表層で最大振幅の楕円運動、底で横運動してるところを糸で結ぶんですから真っ直ぐではありえませんね。
大きく弛む、いやいや、これは間違い、大きく張りを保ちながら膨らみます。
代表的な仕掛けの形は、S、逆S、く、逆くの形で、うねりと同期して動きます。

ここで大切なことは、道糸・ハリスは海水の動きで大きな横抵抗をうけることです。
糸の長手方向は抵抗は小さいですからね。
このため、海底の海草や餌は本来、横になびいて居る筈なのに、仕掛けがS,くの字形で動くとき、
上下運動が加わってしまうことです。
餌を自然にしたいのなら、どうにかしてこの上下運動を抑えることが必要でしょう。
逆に餌を躍らせたいなら、なるべくこの折角の上下運動を殺さない努力が必要です。

それでは、ここまで準備したところで、最初の問題を考えてみましょう!
(ダンダン、学校みたいになってきたね、^o^ )
玉浮きと棒浮き。玉浮きの方が棒より上下動が大きいですね。波乗りが良いなどとよく言われます。
玉浮きの方が餌が踊りやすいことは、もう自明のことですね。
棒浮きでは、より長く、そして より浮力を殺すことでかなり上下動を抑えることができます。
しかし、楕円運動の横成分は全く殺せません。玉浮きほどではないけど、
やはり底餌に上下動が加わってしまいます。

では、次の仕掛けを落ち着かせるために重いシズを打つ?、はどうでしょう。
シズの重さの程度にもよりますが、浮きからシズまでの釣り糸が張りますから、浮きの上下動が直接的に
シズまで伝わってしまいますね。
やはりこの場合も、シズが重いほど、餌に近いほど、餌は上下に踊ってしまいます。

はてさて、何をやってもダメなんでしょうか。
では、次に考えなければならないのは仕掛けの要点の動きです。
浮きの軌道、外錘の軌道、そして餌の軌道です。
一番動きが激しいのが浮きです。しかし、外錘、餌は浮きと全く同じには動きませんね。

これらの要点が波に追従してどう動くのか考える必要があり、
相手は波ですから、その振幅Aと周期Tと位相φを考えねばなりません。
簡単 にするために上下運動だけの成分で考えてみると、

うねり   Y=A・sin(ωt)
浮き    Y=B・sin(ωt+φ1)
外錘    Y=C・sin(ωt+φ2)
餌      Y=D・sin(ωt+φ3)

A>B>C>Dにできればいいわけですね。

まず浮きですが、その自重と残存浮力の大きさが問題となります。
その慣性と復元力で動きが全く異なってきます。
たとえば、30cm浮きを沈めておいて、そこから浮いてくる早さは自重が大きく、残存浮力が小さいほど、
遅くなります。これを波の中で考えると、うねりで水位が上がると、ゆっくり浮きが上がってきます。
しかし浮きの動きがゆっくりだと、浮きが上がりきらないうちに、うねりで水位が下がり始めます。
この関係になると、うねりの振幅Aより浮きの動きBが小さくなり、さらに位相φ1とずれてきます。

ところがこの残存浮力は、今の浮きシステムでは外錘で調節されます。
浮きと外錘が糸で結ばれ、お互いに力のやり取りをします。
テンションが強くなれば糸が張り、弱くなれば弛みます。
外錘の軌道はこのテンションの強弱、糸の張り・弛みによって、振幅Cが浮きの振幅Bより小さくなり、
位相もずれます。
たとえば極端に、1号ぐらいの重い外錘と、Bぐらいの軽い外錘とを比較した場合、
1号では、浮きとほとんど同じ上下動をしますが、軽い方の外錘はほとんど上下動をしないでしょう。
軽い方はその分外錘から上の糸がたるみます。
この状態ですと、糸に弛みが出る分、浮きは上下動が大きくなります。これは相互作用だから仕方ないことです。
(こういう観点からすると、水中浮きの効用は語るまでもないと思います。)

面白いことに、この関係を我々が視認できる浮きの動きで見てみると、
  ・外錘が1号の場合、浮きはより安定して見えるが、外錘の上下動は大きく、
  ・外錘がBの場合、浮きの上下動は大きくみえるが、外錘の上下動はより小さい。
ということになります。

ここが一番重要なところです。当然ながら、外錘から下の糸、そして餌は外錘の動きが小さい方が
安定することはいうまでもありませんね。

ここまでの話では横方向の動きの考察が抜けています。
しかし、これも考え方は同じです。
うねりの楕円運動の横成分は、深くなるにつれ、減衰していきます。
このもっとも楕円振幅の大きい上層部に長い棒浮きを入れてしまうと、横運動は大きく、
しかも外錘が重いと、外錘は振り子のように動いてしまい、やはり餌は安定しません。

さぁみなさん、いかがですか、想像どおりでしたか?

これらを別の視点で考えてみましょう。
餌を安定させる方法として、這わせる方法があります。
外錘を重めにして、上下してもハリスの遊びで餌を安定させようとするものです。
しかし、外錘を軽くして、仕掛け全体を弛ませる方法でも餌を安定させることができるわけです。
どちらも弛みを利用してますから、当たりの出にくさという点では似たようなものでしょうね。
ただし、餌が底に付かない状態では前者は最悪の仕掛けになってしまいます。

うねりの中では仕掛けは弛むもの、したがって当たりを出しやすい仕掛けなどあり得ないのです。
それでも、前述したように、うねりの影響で餌が暴れにくくする努力は必要でしょう。
それには、仕掛けのバランスを上手くすることで、要点の動きを 浮き>外錘>餌、とするイメージが必要なのです。

たとえば例として、私の場合、
うねりが大きいときは、浮力が小さく、自重の大きい浮きを使います。
それができないときは、外錘を普段よりずっと上に移動させて(実効的に長ハリス)、外錘から下を大きく弛ませて餌を安定させるようにしています。