● 浮きトップとシモリについて  

仕掛けが直線で,魚が真下に浮きを引っ張る場合は魚の動きが直に浮きに現れる. しかし,魚が真横に移動したり,潮で仕掛けが膨らんでいると,直接的に当たりは出ない.私はこの場合,シモリになって現れると考えている.誘いをかけて横に引っ張っても餌はまず真上に浮きあがるのと同じ原理である.

立ち浮きは水面からトップが10〜20cmほど顔を出している.これが棒浮きの場合の残存浮力になる.浮きの残存浮力は,通常, ガン球 2B〜3B程度で使われていることが多いと思う.

まず,トップを沈めた黒鯛はどれほどの浮力を感じているか考えて見る. 残存浮力はトップの体積で決まる.チョコチョコと電卓を叩いてみると,以下の表のようになる(海水比重は1とする).

トップ長さ

トップ太さ

残存浮力

20cm

1.0mmφ  

0.16 gr

2.0mmφ  

0.63 gr

3.0mmφ  

1.41 gr

浮きを沈めた黒鯛が感じる残存浮力は0.2〜1.4gr程度になる.
ここで,トップの太さとシモリの出方について考えてみる. 極細の1mmφのトップがちょうど水面まで沈んで止まった状態は,下向きに0.16grの力が働いている(これが糸の横抵抗だ). これと同じ力が働いたとして,もっと太いトップのシモリの出方は以下のようになる.

トップ長さ

トップ太さ

残存浮力

シモリ量

20cm
1.0mmφ
0.16 gr
20.0 cm
2.0mmφ
0.63 gr
5.1 cm
3.0mmφ
1.41 gr
2.2cm

トップが太いほどシモリのストロークが小さくなる.当たり前のことだが数字にしてみると,なるほどと思う.円錐浮きだと数mmしかでないだろう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 当たりと合わせ  

黒鯛は餌の10〜15cm前で品定めをして,いきなり餌を吸い込む.これは高速度カメラでないと見えないぐらい早い.そして,気に入らないとあっという間に吐き出してしまう.黒鯛を水槽で飼っている方は口を揃えてこういう.鯛という字は魚が周ると書くが,こういう特徴的な食餌行動を現わしたものだそうだ.餌を加えた後は悠然と移動していく.当然当たりの出方も,イワシ,アジなどのような巨突猛進型の魚と違ってくる.

瞬時に吸い込む/吐き出すときの鋭い当たりは,糸が膨らんでいても,モゾモゾ,ツンと直接浮きに魚信がでる(前あたり).次に数cmシモった後(シモリ), ゆっくり浮きが入っていく(本当たり)...と一般的に言われる.

さてここで,シモリとはどういう状態なのか? 餌を加えた後,黒鯛が数cm下でじっとしているとでもいうのか? 思うに,餌を加えて移動する時,膨らんでた糸が直線に近づく. このときの糸の横抵抗が浮きに‘シモリ’として現れるだろう. わざと弛みやすい仕掛けをセットしてやると,アジやサバでもこのシモリが出る. シモリは黒鯛特有のあたりではなく,悠然としているから特徴的に出やすいだけなのだ.

いずれにせよ,‘シモリの状態で餌をくわえている’と,私は考えている. だから,ここで合わせを入れる.ツンと来て,ジワっとシモリ, 止まったら合わせを入れる, といった感じだ. かなり早合わせの部類でだろう. これだと餌をのまれることが少ないものである. 一般に, ‘浮き入り後,浮きが見えなくなるまで待って合わせる’ という説もあるが,これでは遅すぎると思う. 異常を感じて餌を離してしまうことがあるわけだから.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●浮きの形状と感度について  

玉浮きと棒浮きでどちら感度がいいか? 浮きを引っ張るときの抵抗は,断面積に比例し,速度の2乗に比例する.

浮きの断面積を比較すると,6mmφ,25cmの棒浮きは,37.68mmφの玉浮きが同じ体積,重さになる.断面積は円錐浮きの方がちょうど9.8倍大きい.球形で抵抗が1/3になるとしても,円錐浮きの方が3.3倍大きいことになる.

次に,速度の大小の影響を見てみる.秒速50cm(小メジナ)と秒速20cm(黒鯛)で引っ張るときの抵抗は,2乗の差だから, 小メジナの方が6.3倍大きな浮きの抵抗を感じる. 棒浮きで黒鯛が感じる抵抗を1として,相対比較すると,

秒速50cm(小メジナ)
秒速20cm(黒鯛)
棒浮き
6.3
玉浮き
20
3.3

浮きの形状因子的なものより,遥かに浮き入りの速度の方が影響が大きいことが明らかだ. ジワーっとシモるような速度の遅い黒鯛の当たりでは,玉浮き/棒浮きの抵抗は極めて小さい. しかし,小メジナのようにスポっと入る当たりでは玉浮きだと20倍も大きい抵抗を感じていることになる. メジナ釣りでは,飛ばし/当たり浮きの仕掛けなどの高感度化が必要となるが,黒鯛釣りではその必要性はあまり無いといえるだろう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 浮きの材質と感度について  

カヤや孔雀羽で作った浮きは感度がいいと良く言われるが,これは大変な間違いである.単純に考えると,異なる材質で同じ大きさの浮きを作ったら(体積は同じ),孔雀/カヤは比重が軽いから,浮き自体はパルサ材の浮きより軽くなる.一般的に軽く作れるから感度がいいと思われているようである.しかし,浮力を抑えるために負荷錘をつけたり,自立させるために錘を埋め込んだりするわけだから,材質はほとんど影響しなくなるはず.

高校生の物理で充分に説明できる. 浮力は体積(浮きの大きさ)で決まる. 浮力をゼロにするには,浮き自重+負荷錘のトータル重量が浮力と等しくする必要がある. 浮きの重さは材質によって変わるが,軽ければその分,内臓錘+負荷錘が重くなるだけだ.

つまり,材質が何であれ, 浮き〜負荷錘の全重量は浮きの大きさ(体積)で一義的に決まってしまう.私もカヤ浮きを自作するが,感度がいいから作るのではなく,好みの浮きを低コストで簡単に作れるからのこと. 唯一,効果があるとすれば, 比重が軽い材料ほど,重心が低くなり,自立性/安定性が増すこと. しかし,これは感度とは違う. 釣りでは常識のうそというのが結構あるように思う.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●浮きの重さについて  

当初の2〜3年は随分と悩んだものである.釣れないのは浮きが悪いのか,重くて感度がわるいのか...昔,長井漁港(県営住宅前)の常連さん達と御なじみさんにさせて頂き, 孔雀の羽で浮きを作るやり方を教えてもらい,いろいろと試してみた. 浮きの重さはわずか4〜6gr,長さ40cm,太さ 4mm程度, これに負荷錘 2Bの超高感度の浮きを随分と作った. この浮きを使っても一向に釣果が上がらず,どっしりとした遠矢浮きを使ってるお隣さんにドンドン釣られちゃうことがよくあった.コマセの流し方,タナ, 狙うポイント,餌など他の要素の方がはるかに影響が大きいということだ.

超軽量の浮きだと確かに小魚が加えただけで当たりがでる. 何10回に1回しかない黒鯛の当たりに神経を研ぎ澄ませるのは,大変に疲れる.しかし,重い浮きでも浮力をしっかり調整しておけば,‘シモリ’の微妙な当たりは充分に引き出せる. F=mα. 黒鯛の当たりはゆっくりなので, 加速度αが他の魚よりずっと小さいので, 浮きの質量mは大きくとも,黒鯛の感じる抵抗力Fは小さい.