TIC会報1998 福祉応用専門委員会・こちら側作業班 活動報告(1997年度)
■ネットワークのこちら側作業班(旧モニター研究班)
1996年度には、名古屋市総合リハビリテーションセンター(名古屋市瑞穂区)、AJU自立の家サマリアハウス(昭和区)、明正第二作業所(中川区)において、障害者や施設職員をモニターとしてインターネットを利用してもらい、「障害者の社会参加のツールとしての可能性」を再確認したとともに、インターネットの導入や継続利用への課題を示した。
1997年度は、特別な援助を必要とする障害者へのユーザーサポート体制を強化するという目的を明確にする為、作業班の名称を、「ネットワークの向こう側(サーバー側)」に対比する形で、「ネットワークのこちら側作業班(クライアント側)」と変更し、活動している。
◆活動方針
インターネットやネットワーク・サービスへのアクセスは、障害者や高齢者を含めた全ての人の基本的権利として、保障されなければならない。インターネット時代の情報バリアフリーを実現し、インターネットがより身近に誰にとっても生活の道具として定着する為には、「より使いやすい機器の開発」だけでなく、「ユーザーサポート」「人的支援体制の整備」は、不可欠である。
当作業班の当面の目標は、障害者等特別な援助を必要とする方を対象に、インターネット利用支援活動を行い、導入や継続利用への課題を明らかにし、インターネット利用の意義と福祉応用への可能性を探る事である。
図1.いろいろな社会参加のかたち
障害者の社会参加をより広義に「家から出て、誰かと出会う」と定義すると、「移動」と「コミュニケーション」は、最重要課題である。「買い物や旅行に行こう」と思っても、車椅子では、市バス/地下鉄/JR等が使いにくく、外出機会が限られる。障害者が当たり前の生活を送るためには、公共交通のバリアフリー化や、それを補完する特別移動サービスが求められる。
一方、パソコンやインターネットは周知の通り、コミュニケーションを拡張するツールとして有効である。パソコンを導入すると、上肢障害があり書字による手紙を断念していた人が、ワープロで手紙を書く事ができ、手紙を通して交流が広がる。また、インターネットを導入する事により、メールやホームページ閲覧という手段を使って、「家から出て、誰かと出会う」の一部分は、実現できる。在宅生活を余儀なくされている重度障害者にとっては、インターネットで「誰かと出会う」事は、社会参加の大きな一歩ではないだろうか。
ところが、障害者が、パソコンを生活の道具として、普通に使えるようになるまでには、下記に示すような様々な課題がある。
インタフェース | 標準のマウス・キーボードが使えない。電源スイッチの位置や形状によっては、ON/OFFできない場合がある。 |
パソコン購入相談 | 自分に合ったパソコンが分からない。一般のパソコンショップの店員は、障害者対応に不慣れ。 |
学習支援 | 物理的アクセスに問題があったり、カリキュラム/指導体制が合わず、一般のパソコンスクールが利用できない。パソコン操作に時間がかかったり、市販のテキストの取り扱いが困難である。 |
ネットワーク導入支援 | インターネットで情報を得たい。パソコン通信の友達にメールを出したい。しかし、自分一人ではセットアップができない。身近に、技術支援者がいない。 |
「ネットワークのこちら側作業班」の活動は、様々な社会参加へのプロセスを支援する活動の中で、「ネットワーク導入支援」を中心としたものと言えるが、上述したような関連領域のサポートも求められる。
◆活動の概要
1.経過
1997年 10月〜1月 |
インターネットキャラバン隊出動準備 |
1998年 2月 |
ネットワークのこちら側作業班ホームページ(暫定版)の設置 |
3月 | モニター第2期・募集開始(1996年度のモニター募集を第1期と位置づける) |
「パソコンボランティア入門講座」に参加し、福祉応用の活動アピール | |
4月 | tic-wel-monitor ML(福祉応用交流ML)の運用を開始した |
パソコンインストラクター研修生制度試行(第1期生スタート) |
2.総論
1996年度、「モニター研究班」としてスタートした活動は、2年目に入り、質・量とも、着実に広がりを見せている。1997年度のこちら側作業班は、以下に示す6つのテーマを設定して取り組んだ。ここでは、活動の全体像を示す事も重要であると考え、準備中のものも、あえて記述した。
テーマ | プロジェクト名 | 目的/概要 | 結果 |
---|---|---|---|
モニター研究 | ◇インターネット利用モニター募集 | ・モニターレポートという形で、障害者の発言の場を確保し、障害を持つユーザーの声を社会化する契機とする。 | 1997年度のモニター応募者は、0名であった。(1996年度のモニターは、インターネットを継続利用している。) |
体験 | ☆インターネットキャラバン隊 | ・出前方式によるバリアフリーなインターネットカフェの実現 | 2施設を対象に実施するも、不調に終わる。 |
交流 | ☆tic-wel-monitor MLの運用 | ・コミュニケーションと交流の場の提供 | 1998年4月25日より運用開始。 |
社会保障 | ☆インターネットプロバイダーの障害者割引制度の現状調査 | ・障害者がプロバイダーを選ぶ時の参考資料を提供するとともに、「アンケート調査」という形式を通して、プロバイダーへ障害者のニーズを伝える。 | 5社について、予備調査を実施した。(実施日1998年3月末日) |
ノウハウ共有 | ☆インターネットホームページの設置 | ・インターネット導入支援のノウハウ(特別援助プログラム)を社会化する(共有する)ことを最終目標としながら、当面は、福祉応用専門委員会メンバー間の情報共有装置として活用する。 | 1998年2月25日より運用開始。 |
人材育成 | ☆パソコンボランティア入門講座への参加 | ・人材(パソボラ)育成の拠点(施設)との連携 | パソコンボランティア入門講座参加者の一人が、1998年4月〜9月の研修生として活動。 |
☆パソコンインストラクター研修制度の試行 | ・人材(情報技術、障害者援助技術を有したキーパーソン)を養成する。 |
◇継続(1996年度から) ☆新規(1997年度から)
3.各論
以下、プロジェクト単位で、結果と考察を整理する。
●インターネット利用モニター募集
[概要]
1996年度と同様に、1施設2名を上限に、3施設を対象として、無償アカウントモニターを募集した。利用期間は、1998年3月〜8月の半年間。
[結果]
正式な募集開始が3月となり、遅きに失した感は否めない。何人かに、モニター利用について紹介したところ、興味を示した方もいたが、結局、5月末日現在で応募者はいなかった。
今年度モニター利用を検討したが最終的に断念した方の中には、「モニターに応募するとモニターレポートが義務づけられており、結果的に自分の障害状況等の個人情報が公開される事が不安である」との訴えもあった。この方の場合、結局、モニターに応募せずに、自分でお金を出してプロバイダーと契約した。「無償アカウントモニター制度」は利用せずに、インターネット導入支援(パソコン購入相談、プロバイダー紹介、環境設定、ソフト学習支援等)のみ実施した。
[考察]
ここ1〜2年の一般へのインターネット認知度は急激に高まっている。新しく、パソコンを購入すると数時間のインターネット無料体験サービスがプリインストールされていたり、AOL(アメリカンオンライン)に代表されるような「インターネット無料体験サービス」が、パソコン雑誌の付録CD−ROMについてくる事も珍しくなくなった。このような状況の中で、「無償でインターネットを利用できる」という事自体の魅力は薄まった。
1996年度のモニター第1期生のように、言語障害を有しておりそれまで意志表出や情報発信が困難だった人の場合は、モニターレポートを情報発信のチャンスとして積極的に活用したい方もいるだろう。また、上述したようにプライバシーの観点から、モニター応募を断念する方もいるだろう。
時代状況と利用者のニーズに合わせて、福祉応用モニター制度の再考が必要である。但し、障害を持つインターネットユーザーの発言の場として、「モニターレポート」という受け皿は、やはり必要ではないか。多様な利用者のニーズに対応する為には、サポートのバリエーションも多様化する必要に迫られたと捉えるべきであろう。「モニター募集とセットになった技術支援」以外の、サポートのあり方を模索し、試行している。以下、その取り組みを順次報告する。
●インターネットキャラバン隊
街に「インターネット・カフェ」が登場して久しい。それらはインターネットの未経験者に手軽にインターネットを体験する場を提供しているが、障害よってはインターネットカフェに行くことができず、またパソコン利用そのものに障害があれば、たとえインターネットカフェに行くことが出来ても、インターネットを楽しむことは難しい。
「インターネット・キャラバン隊」(以下「キャラバン隊」)は、インターネットに興味がありながらも体験の場が得られない重度の障害者を対象に、「出前によるバリアフリーなインターネットカフェ」として発想された。対象は重度の障害者だけでなく、障害者が利用する施設を対象とすることで、その施設の関係者にもインターネットを体験してもらい、障害者のインターネット利用について理解を深めてもらうことを目標にした。
しかし今年度の活動は、不調に終わってしまった。以下、その記録である。
[概要]以下の2施設に対し、インターネットキャラバン隊としてのアプローチを行うも、不調に終わる。
○施設名:A施設(身体障害者療護施設)/所在地:愛知県内
1997年10月:A施設入所中で重度の身体障害を持つXさんより、パソコンやインターネットをつかってみたいとの相談が、福祉用具プラザにあった。プラザでは展示品によるパソコン体験を実施し、実際の支援グループとして
SKIP Project を紹介し、その際、Xさんに同行したA施設職員に、施設に訪問してインターネットのデモンストレーションを行う「キャラバン隊」のことを説明した。
1997年12月17日:SKIP Project
訪問。パソコン操作の評価の結果、通常のキーボードの利用が困難なため、Xさん用に改造したキーボードが必要なことがわかった。「キャラバン隊」については、前回とは別の職員に紹介した。
1998年1月11日:Xさん用に改造したキーボードとパソコンを設置し、1ヶ月程度貸し出すために訪問。「キャラバン隊」については、前回、前々回とは別の職員に説明。A施設は「身体障害だけでなく知的障害を重複して持つ人の入所が多いためパソコンやインターネットのニーズはXさん以外には全くない」、職員については「個人的にインターネットをしている人が2、3人いる程度」とのこと。この時点で、A施設を「キャラバン隊」のターゲットとすることを断念した。
その後:Xさんについては、改造キーボード試用の結果、キーボードタイプの入力方法は不向きと判断し、パソコン利用よりもまずはコミュニケーション手段の確保に目標を変え、現在も支援を継続中である。
反省:施設の実態を把握していなかった。(入所者や職員にニーズはなかった。)
○施設名:B施設(身体障害者療護施設)/所在地:愛知県内
1997年12月:B施設入所中のYさんより、障害によりパソコンの電源ON/OFFができないため、なんとかならないかとの相談がなごや福祉用具プラザに寄せられる。プラザではSKIP
Projectを紹介。
1998年1月15日:SKIP Project
訪問。Yさんはワープロ、FAX、ゲームなどにパソコンを利用している。しかし、インターネットは興味はあるがやったことはないとのこと。また、B施設内でパソコン利用についてYさんを支援しているZ職員より、「最近、個人的にパソコン通信を始めインターネットにも興味がある」「B施設内ではコミュニケーション手段としてパソコンを利用している人が何人もいる」という話を聞く。Yさん、Z職員に「キャラバン隊」について説明。Z職員からはTICの活動についてさらに詳しく知りたいとの希望が出たので、後日、「TIC会報1997」(福祉応用ワーキンググループレポート掲載)を送付した。キャラバン隊については、報告書を読んだ後、連絡をくれるとのことだったが、その後連絡はなかった。
その後:Yさんについては再度訪問し、当初の相談であった電源ON/OFFの問題は解決した。
反省:施設としても興味はあるようだったが、TICやキャラバン隊について十分に説明するだけの材料を提供できず、施設全体を動かすことが出来なかったのではないか。
[結果]インターネットキャラバン隊は、不調に終わる。
[考察]
今回の「インターネットキャラバン隊」が不調に終わった原因としては、
・施設により入所者の障害の種類、程度に差があり、ニーズに合わなかった。
→障害者関連施設に事前に案内などを配布し、希望を募ればよかった。
・施設側へのアプローチが口頭での説明であり、不明確な部分が多かった。
→福祉応用委員会としても要綱などを確定しているわけではなかった。
などが考えられる。
しかし、これらの反省点を生かし、「キャラバン隊」というイベントを開くことはできても、訪問した施設やその施設を利用する障害者から本格的にパソコンやインターネットを利用したいとの要望が出た場合、はたしてTIC福祉応用委員会で対応できるだろうか。障害を持った人にとってパソコンやインターネットの利用は容易でなく、さまざまな、しかも継続的な援助が必要になる。「出前によるバリアフリーなインターネットカフェ」によるインターネット体験の場を提供するという「キャラバン隊」の発想そのものはよかったが、後の支援態勢がない単発のイベントで、はたして障害者のインターネット利用は広がるだろうか。
●tic-wel-monitor ML(TIC福祉応用交流ML)の運用
[概要]
特に、テーマを設定しないが、「おしゃべりを通したメンバー間の交流」「イベント告知等の福祉情報の流通」「パソコントラブルサポート連絡」等を想定している。 |
[結果]
[考察]福祉応用交流MLの役割について
運用を開始したところであり、何とも言えないが、インターネット初心者や社会経験の乏しい障害者の場合、いきなり不特定多数のMLでの発言は困難と予想される。通常、メールの利用は、以下のようなステップを踏む必要があり、それをサポートする体制が求められるだろう。
第1段階 主たるサポータとの1対1のメールのやりとり
<メッセージの内容>送受信の練習〜Q&A第2段階 特定少数(顔見知りのグループ)による同報メールでの情報交換
<メッセージの内容>近況報告、日常会話(おしゃべり)第3段階 不特定多数のMLへの参加
・最初は、読むだけの期間を過ごし、慣れてきたら、
・関心のある話題にコメントをつける事で対話が始まり、
・対話の繰り返しで、MLへの所属感が芽生える。
<メッセージの内容>MLのテーマ設定とメンバーに依存
第1段階は、サポータへのSOS(質問や技術支援依頼)が中心となるので、縦の関係にならざるを得ない。第2段階〜第3段階と進むに従い、横の関係が広がり、相互扶助的な立場が要求されてくる。インターネット初心者にとっての「MLの体験・練習台」として、また、「ホームグランド」として期待される「福祉応用交流ML」は、「ML内での市民権を得るには、どのような参加の形が望ましいか」といった、ML参加マナー(ネチケットの一端)を学ぶ場としても構想されるべきであろう。
また、ML体験という意味付けであれば、最初は、流れてくる情報を読むという経験だけでも意味があるので、福祉応用専門委員会のメンバーが、不定期の「福祉関連のイベント案内」や、ジャーナル的に定期的に「初心者の為のパソコン講座」等の情報を流し、MLをリードする必要があるだろう。
●インターネットプロバイダーの障害者割引制度の現状調査
[概要]
障害者割引制度を有するとして、書籍「パソコンボランティアJDプロジェクト編」(日本評論社)で紹介されているプロバイダー5社に対して、予備調査を行った。以下は、プロバイダーのホームページ閲覧を中心として、公開情報を整理したものである。
[調査結果]
名称 | ブレーメンネット |
ホームページ | http://www.bremen.or.jp/ |
障害者割引 | 初期登録料10,000円が無料になる。 月額使用料3,000円が2,000円になる。 (アクセスポイント川崎のみ) |
問い合わせ先 | Bremen-net サポートセンター 〒211 川崎市中原区木月460−2F TEL 044−430−1000 FAX 044−430−1020 ホームページに関するご意見、ご質問などはwebmaster@bremen.or.jp ブレーメンネットに関するご意見、ご質問などはinfo@bremen.or.jp e−mailに関するご意見、ご質問などはpostmaster@bremen.or.jp 割引料金関連(http://www.bremen.or.jp/bremen/price.html) 利用料金等に関するご質問などはaccounting@bremen.or.jp |
備考 | ・申込方法等については記載なし ・ボランティア団体の支援ページあり http://www.bremen.or.jp/boran/ngo.html |
名称 | インターネットWIN |
ホームページ | http://www.win.or.jp/ |
障害者割引 | 登録料のみで利用できる「福祉会員」制度がある。 |
問い合わ先 | 入会前のお問い合わせ先 applyreq@staff.win.or.jp |
備考 | 福祉会員制度について、ホームページ上に記述はない。 |
名称 | PEOPLE |
ホームページ | http://www.people.or.jp/ |
障害者割引 | 利用料金の50%割引 ・障害者手帳のコピーをFAXまたは郵送する |
問い合わ先 | 〒106 東京都港区六本木2−4−5 第30興和ビル内 株式会社ピープル・ワールド ピープル事務局宛 電話:0120−860−864 FAX :03−5563−0353 |
備考 | 参考:People障害者割引プログラムについて http://www.people.or.jp/pwc/hpdp.htm 1997年4月1日より、障害者割引制度実施 |
名称 | DTI |
ホームページ | http://www.dti.ad.jp/ |
障害者割引 | 個別対応なので、お問い合わせ下さい。 |
問い合わ先 | Tel 0120-830-501 |
備考 |
名称 | 中日ネット |
ホームページ | http://www.chunichi.co.jp/cncnet/cncnet.htm |
障害者割引 | [割引料金] A会員会費 月額1000円(パソコン通信のみ使用)を500円に B会員会費 月額1500円(パソコン通信+インターネット接続サービス)を750円に [割引制度対象者] ・18才未満または65才以上の方。(入会申請書の記入生年月日から計算) ・からだの不自由な方(自己申告。手帳等の提出は不要。知的障害、精神障害にも適用) |
問い合わ先 | メール(cnc00199@chunichi-net.or.jp) 中日新聞本社総合技術局電子情報部 中日ネット事務局 〒460-11 名古屋市中区三の丸一丁目6番1号 電 話:(052)221−0804 FAX:(052)221−0832 |
備考 | 知的障害者、精神障害者も可。 |
[考察]
割引制度を利用する際に、障害者手帳のコピーが必要なところ、自己申告のみでよいところ、サービス内容を一般公開せず個別対応の為問い合わせを求むとしているプロバイダー等、制度利用申請の方法は様々であった。各プロバイダーとも、適切な障害者割引サービスを模索している段階である事が伺える。
今後は、この予備調査を元に、簡単な調査票を作成し、TICに加盟するインターネットアクセスプロバイダーに対して、アンケート調査を予定している。プロバイダーの障害者対応の現状を調査し、調査報告を公開する事で、他のプロバイダーが障害対応サービスを検討する際の参考資料となれば幸いである。
●ネットワークのこちら側作業班・ホームページの設置
[概要]
第一義的には、福祉応用専門委員会メンバー間の情報共有/ノウハウ共有を目的として、設置したものである。福祉応用専門委員会ホームページの更新作業の専属要員を確保できない現状では、分業体制が現実的と判断し、委員会ホームページとは別に、こちら側作業班ホームページの担当者を置き、試行的に運用している。
○メンバー間の情報共有 と 対外的な広報活動
○縦の情報共有 と 横の情報共有
[結果]
[考察]
●人材育成
○「パソコンボランティア入門講座(なごや福祉用具プラザ)」に参加し、活動報告を行った。
パソコンボランティア入門講座は、障害者がパソコンを利用するために、今もっとも必要とされているのは、障害を理解し身近で相談できる人であるとして、なごや福祉用具プラザが開催した3回シリーズの講座である。企業のエンジニア、パソコンショップの店員、福祉施設職員、在宅介護支援者、学生など様々な立場の方、のべ45名の参加を得た。講座参加者を対象として、情報交換〜活動計画検討を目的とした、月1回程度の定例会を予定している。1998年6月に第一回予定。
[概要]以下の講座に参加し、最終日に、福祉応用専門委員会の活動紹介を行った。
日時 | 1998年3月7日(土)14日(土)22日(日)午後2時〜4時 |
会場 | なごや福祉用具プラザ(名古屋市昭和区御器所) |
テーマ | 技術を活かすパソコンボランティア パソコンインタフェース入門 障害の特性とコンピュータ利用 等 |
パソコノボランティアの活動内容は、図1.におけるパソコン導入支援に関わるあらゆる相談/技術支援が含まれる。ネットワークのこちら側作業班は、その中で、「インターネット導入支援」の役割を担う事が期待される。インターネット導入が成立するには、パソコンのインタフェース、学習支援を担うパソボラチームや、必要に応じて、障害の専門家との連携が必要となるのは、言うまでもない。
[結果]講座参加者の一人(以下、Aさん)が、次項の「研修制度」第一号となり、研修を開始した。
○パソコンインストラクター研修制度の試行
[概要]パソコンボランティアとして活動したいとの希望を持っているが、障害者との接点がなく、どのように関わってよいか分からない、という方を対象に、技術ボランティア活動を経験してもらう研修を試行的に実施している。
研修場所 | 名古屋市総合リハビリテーションセンター職能開発課(名古屋市瑞穂区) |
研修指導 | 職能指導員(福祉応用専門委員会メンバー、以下「B氏」とする) |
研修内容 | ・職能開発課利用者(障害者)のインターネット講習会の講師アシスタント ・地域パソコンボランティア活動(研修指導者がバックアップする) ・研修終了時に、レポート提出を義務づける。 「パソコンインストラクターに求められるもの〜障害者へのコンピュータ指導研修を通して〜」(仮題) |
研修期間 | 第1期は、1998年4月〜9月 (第2期は、1998年10月〜1999年3月を予定) |
応募要件 | 1.ワープロの経験がある。(パソコン初心者でも構わない) 2.インターネットアカウントを保有している。(アカウント取得予定である) |
[経過]
3月 | パソコンボランティア入門講座の参加者の一人Aさんからの研修希望を受け、研修内容を検討し、受入体制を調整した。 |
在宅障害者へのパソコンボランティア活動(学習支援)を開始する。継続中。 | |
4月 | 4月7日を第1回として、インターネット講習会のインストラクター補助となる。以降、毎週火曜日の午後半日を使って、インターネット講習会を実施しており、現在も継続中。 |
在宅障害者へのパソコンボランティア活動(インターネット導入支援)を開始する。継続中。 |
(1)地域でのパソボラ活動
1998年3月のパソコンボランティア入門講座に参加したホームヘルパーCさんより、障害者Dさん(事故の後遺症で車椅子在宅生活)を紹介された。Dさんは、Cさんが旅行先で知り合い、在宅生活を豊かにする為、パソコン購入を奨めた。紹介者Cさんは、4月より東京に転居の予定との事で、4月以降のサポート体制を作りたい、インターネット導入を支援して欲しい、との依頼であった。そこで、紹介者Cさん、パソボラ立候補者Aさん、B氏の3者で、パソボラ支援計画の緊急ミーティングを実施。B氏がコーディネータとなり、直接的技術支援はAさんが行うという基本方針を確認。その後、B氏と障害者Dさんと母の3者面談を行い、方針を確認した後、Aさんが、パソボラ活動を開始した。
相手のペースに合わせて、「パソコン学習の支援」と「インターネット導入支援」を行った。コーディネータB氏より、インターネット体験を目的とするなら、完全従量制のダイヤルQ2方式のプロバイダー契約がよいのではないかと提案し、B氏からAさんに、資料を提供した。Aさんの数回に渡る訪問支援により、インターネットと接続し、1998年4月23日に、Dさんからの初めてのメールがB氏宛に届く。以降、Dさんは、電話でSOSをAさんに、メール相談をB氏に出すという形で、パソコン学習を進めている。
(2)インターネット講習会
リハセンター職能開発課では、通所者(障害者)に対して、主として、表計算ソフト他の業務用アプリケーションソフト習得を目的にパソコン講習を行っている。オプション講習として、インターネット講習会を実施。ここでは、障害者それぞれのニーズ(利用目的)に応じて、個別的に、インターネットの体験と利用技術指導を行っている。1998年4月現在、脳性麻痺者、神経筋疾患で電動車椅子を利用している者、脳血管障害者の3人が受講生である。講習参加目的は、以下のように各人各様であった。
今回の講習では、以下の内容を実施した。
研修生Aさんの取り組み
図2.パソコン講習会風景(リハセンター、1998年5月) イメージ映像
※本文とはメンバーが異なります
[考察]
○現場実習で、fitting技術を学ぶ
Aさんは、Xパソコン学院やYワープロ学院へ授業料を払って、パソコンインストラクター養成コースを受講中である。職能課での研修は、座学中心の学びを補うものとして、「パソコンインストラクター現場実習」と捉える事ができる。
また、障害者へのパソコン指導の要件としては、パソコンの最新知識/技術を持っていることよりも、相手の障害状況・理解力やニーズに合わせて説明/指導する広義のfitting技術(ベストマッチを見極め、適合させる技術)が重要である。このfitting技術は、障害者への特別援助で必須というだけでなく、一般にパソコンの個別指導の際に有効な技術と言える。その意味では、障害者に対するパソコンボランティア活動を志望する方に限らず、パソコンインストラクター研修(現場実習)制度は、社会的需要が高いと予想される。
○技術移転の階層構造を形成する
今回の研修方式は、1996年度のモニター研究で試行した精神障害者小規模作業所「明正第二作業所」における「技術移転の階層の形成」と、同様の構造を志向したものである。核になる人材をサポートする事で、その後の波及効果を狙ったものである。
TIC福祉応用専門委員会→(スーパーバイズ&技術移転)→研修生→(直接的技術支援)→障害者
○社会資源(人材)が不足しているなら、創り出そう
障害者へのインターネット導入支援は、継続的支援ができる体制が不可欠である。ところが、技術支援要請の需要の高まりに対して、人材は決定的に不足している。今回試行した「研修制度」は、人材育成の一つの方法として、提案したい。
◆まとめ
○結局は、「人」こそが社会資源である
障害者の身近に「インターネット体験の場」を提供する目的で「インターネットキャラバン隊」を構想したが、不調に終わった。今回の反省を活かしてキャラバン隊を敢行しニーズを発掘したとして、福祉応用専門委員会による継続的フォローに限界がある事は、前述した通りである。
イベント的な方法だけでなく、地域の福祉施設で障害者を援助する立場にいる中間ユーザーを技術支援し、情報技術を有したキーパーソンを育てる地道な活動が効果的であろう。人材育成の一つの試みとして、「パソコンインストラクター研修制度」を試行中であるが、障害者をサポートできる人材を育てつつ、また、サポータをサポートする構造として、一つの方向性を示すものかも知れない。
インターネット体験会に参加し興味を持った。さらに、講習会に参加して、ホームページ閲覧もメールの出し方も覚えた。パソコンも買った。障害者用の入力機器もそろえた。ところが、実際にインターネットをやってみようと思ったときに、メールを出す相手がいない事に気がついた。そんな時、身近な援助者に、メールが出せると、ありがたい。そこからがスタートである。
1997年度の活動を通して、「地域生活を営む障害者にとっては、身近にいる人こそが、社会資源である」事を再認識する結果となった。
○ 「人」を支える仕組みとしての「TIC・福祉応用専門委員会」
障害者をサポートする人(サポータ)をサポートする仕組みが、今こそ求められている。「TIC福祉応用専門委員会・ネットワークのこちら側作業班」は、障害者の日常の中で、それぞれの必然性があって既に個別に取り組まれているインターネット導入支援活動を統合し、より社会化する受け皿としたい。統合する装置として、非営利、中立、公共性を旗印に、行政区域を越えて集えるTICの役割は、ますます重要性を増しているのではないだろうか。
○特別援助から見えてきたものを一般化する バリアフリーからユニバーサルデザインへ
さらにTICの中での「福祉応用専門委員会」の位置づけを考えると、障害者や高齢者を含めたできるだけ幅広い人々の能力を考慮した設計/開発手法である「ユニバーサルデザイン」の考え方を、TIC会員の多くを占める技術者や開発者へ伝える役割を、担う必要があるだろう。少しの工夫で障害者にも使える「共用品」になりうるというヒントが提供できれば幸いである。
ネットワークのこちら側作業班の活動は、「困っている人を援助する」「問題があるからそれを解決する」という、バリアフリー(バリアを発見し、そのバリアを取り去る取り組み)の考え方に、立脚している。しかし、障害者や高齢者のバリア(生活上の困難)/生活実感を理解できれば、「最初から困らないように」「最初から問題が起きないように」機器やサービスを設計する事も、可能な分野が多い。より多くの人と障害者の生活実感を共有できるよう、ネットワーク作業班のバリアフリーへの取り組みをより積極的にアピールしていきたい。
以上、「東海インターネットワーク協議会 会報1998」より転載
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