〜俺と悠子が知り合ってから、早いものでもうすぐ一年が経つ。 明日のクリスマスイブにはプロポーズしようと思う。 そう、俺達は丁度一年前に、偶然、いや運命的な出逢いをした。〜
〜俺は割と大手のソフトウェア設計会社に勤めている。一年前、折からの不況で仕事が減っていたんで、会社は事業の多角化としてホームページ作成代行って事業を試験的に立ち上げることになったんだ。たまたま一つのプロジェクトが終わって暇してた俺が、新たにホームページ作成プロジェクトリーダーに選ばれた。リーダーって言っても俺一人だけど・・・。 ホームページなんてインターネットで見るだけで作ったことなんてなかったさ。でも一応頑張って勉強して一通りは作れるようになった。 元々俺はソフトウェアプログラマだから、技術的なことはすぐに覚えられたよ。でも見栄えの良いホームページを作るとなると、どうしたってセンスがいる。 そればっかりは努力だけじゃどうしようもなかった。 個人のホームページならまだしも、事業として作るんだからやっぱりそれなりのセンスが必要だろうしね。 そこで俺は上司に掛け合って、その道の専門家を外注社員として採用してもらうことにした。それで採用されたのが悠子だったってわけ。 いや、正確には最初採用されたのは悠子じゃなく別の女性だったんだけど、その女性がうちの会社に初出社する途中で運悪く交通事故に遭ってしまったんで、その代打として悠子が採用されることになったということ。 事故に遭った女性には悪いけど、それで俺と悠子が運命的に出逢うことになったんだから、今は感謝すらしてる。 悠子はほんとセンスに溢れる女性だった。おかげで新しいプロジェクトは順調で、結構注文が来るようになったもんだから、仮にもリーダーの俺は鼻高々さ。 そんなわけで二人だけのプロジェクトを通して、俺達が親密になるのにそう時間はかからなかった。仕事と比例するように俺達の交際も順調だった。 ほんと、こんなに相性のいい相手は滅多にいないと思う。 きっと悠子もそう思ってくれているはずさ。いやそうであって欲しい・・。 ま、色々考えていてもどうにもならない。勇気を出して明日プロポーズしよう。〜 俺は携帯電話を取りだし、悠子の家の番号を押した。 「・・・もしもし、俺だけど、悠子か?」 「あ、優哉、どうしたのこんな時間に」 「・・・明日、大事な話があるんだ。いつもの場所で待ってて欲しい」 「大事な・・話?」 「ああ・・・」 「・・・分かったわ、じゃ明日会社が終わった後、七時でいい?」 「うん、じゃあ七時に、それじゃお休み」 「お休み・・プツッ・ツー・ツー・・・」 〜 ふう、、まだプロポーズしたわけでもないのに心臓がドキドキしているよ。明日大丈夫なのか俺。まあいいさ、なるようになる、とりあえず今日は寝るとしよう〜 俺はベットに横になると目を閉じた。 〜〜〜 あれ?なんだか頭の中がぐるぐる回っているような・・・どんどん早くなってくるぞ、一体どうなってんだ?? ん?悠子? 〜〜 「優哉、そのマロン、要らないなら貰うね」 「あっ!最後の楽しみに取っておいたのに!」 「ふふ、もう食べちゃった♪」 〜 「これ、誕生日プレゼント。悠子が気に入ってくれるといいけど」 「え、私に?・・嬉しい、この時計大事に使うからね」 〜 「悠子・・好きだ、つき合ってくれ」 「私も・・優哉のことが・・好き・・」 〜 「え〜、今日からみんなと一緒に働いてもらうことになった西村悠子さんです。川田優哉君と一緒にホームページ作成プロジェクトを担当してもらいます。」 「西村悠子です。みなさんのお役に立てるよう頑張りますのでよろしくお願いします。」 〜〜 な、なんだこれ?悠子との思い出が次々と溢れるように出てきたぞ。夢なのか?・・・あれれ、悠子の姿がどんどん遠く離れていく・・・待ってくれ悠子・・待っ・・・。Zzzz 優哉は吸い込まれるように深い眠りに落ちた。 〜〜〜
〜うーん、あれ明るい、もう朝か。今何時だろう・・。まだ6時じゃん!もう少し寝ようかな。でもなんだかすっきり目覚めちまったし、たまには早く起きよう。こんなに早く起きるのは一体何年ぶりだろうか〜 優哉は朝食を済ませ、身支度と整えるといつもより余裕を持って、朝のテレビ番組を見ていた。 〜あれ?このキャスター、髪短くしたんじゃなかったっけ?また長くなってるよ。付け毛かな。ま、どうでもいいけど〜 余裕のある朝に慣れていない優哉は、時間を持て余してしまい、いつもより早めに出勤することにした。既に昨晩見た夢?のことはすっかり忘れていた。
〜いつもと時間帯が違うと周りの人達の顔ぶれもずいぶんと違うんだな。電車もかなり空いてるし、早起きもたまにはいいかもね。〜 優哉はそんなことを考えながら、いつもの駅で電車を降りて改札を抜けると駅前の大通りを横断するため、大勢の人と一緒に最前列で信号待ちをしていた。 優哉の勤める会社は、通りを渡ってすぐのビルにあった。 その時、突然優哉はドンと背後から押された。 優哉にぶつかってきたのは若いOLらしき女性で、その女性はバランスを崩しながらそのまま優哉の左脇をすり抜けて車道へと倒れ込んでしまった。 「あぶない!!」 とっさに優哉はその女性の右手を掴んで、引っ張り起こした。 次の瞬間!その女性のすぐ背後を乗用車が猛スピードで通過する。 正に間一髪だった。 「大丈夫かい?」 「は、はい、ありがとうございます。急に立ちくらみがして・・」 その女性は息も荒く、呆然と立ち尽くしていた。 〜うーん、まだ大丈夫じゃないみたいだな。今日はたまたま時間にも余裕があるし、また倒れると危ないからほっとけないな〜 「君、会社どこ?」 「あそこです」 女性が指さした先は優哉の会社があるビルだった。 「なんだ俺と一緒だ。それじゃ一緒に行こうか」 優哉はその女性を連れて、会社のビルへと入った。 「もう大丈夫ですから、ここで」 「そう?でも念のため1Fのロビーで一休みしていくといい」 「はい、そうします。どうもご親切にありがとうございました。」 優哉は女性を1Fロビーに残すと、自分はさっさとエレベーターに乗り込んだ。
優哉は自分の会社のオフィスに到着すると、自分の席についた。 〜あれ、今日はまだ悠子来てないのか。いつもならとっくに来てるはずなんだけどな。〜 「おはよう川田、今日はどうしたんだ?こんなに早く来て」 いつも出社が早い同僚の平井が声をかけてきた。 「うるさいな、俺だってたまには早起きするさ」 「ははは、そうかな? それより今日はいよいよお前のパートナーが来るな」 「え?パートナー・・って??」 「何言ってんだ、ホームページプロジェクトの新人だよ」 「え?悠子の他に、また?」 「はぁ?悠子って誰のこと?まだプロジェクトはお前一人じゃんか、やっぱり寝ぼけてやがんな、ははは」 平井は笑いながらそう言うと立ち去って行った。 〜寝ぼけてんのはどっちだよ、全く。でも本当に新人が来ると助かるな。最近仕事が増えてきてたから、俺も悠子も大変だったもんなー。〜 優哉はそんなことを考えながら自分のノートパソコンの電源を入れた。 〜さてと、ゆっくりメールチェックでもするか。・・・あれ?・・・なんかこの新着メール、前にも見たような・・・・それに先週来てたメールがないぞ。整理したんだっけ?いや、俺がそんなこと滅多にするわけない。〜 優哉は頭をひねりながらしばらくパソコンをいじっていたが、急にはっとした表情になる。 〜俺と悠子が作ってきたホームページのファイルが無い!自分のパソコンはともかく、サーバー上にもフォルダごと無いなんて、一体どこに行ったんだ?〜 少し鈍い優哉でも、この状況には明らかに異常なものを感じ頭を抱えて考えているようだ。 そうこうしているうちに、始業時間のチャイムが鳴った。それと同時に部長の塩田が、立ち上がるとみんなに向かって言った。 「ちょっとみんな集まって」 部長の塩田の傍らに、若いスーツ姿の女性が立っていた。 「え〜、今日からみんなと一緒に働いてもらうことになった坂口春佳さんです。川田優哉君と一緒にホームページ作成プロジェクトを担当してもらいます。」 その女性が部長の塩田に促され、一歩前に出る。 「坂口春佳です。みなさんのお役に立てるよう頑張りますのでよろしくお願いします。」 優哉はまだ頭をひねりつつ、ぼんやりと部長の塩田とその女性を眺めていた。 〜なんだか、この場面どっかで聞いたことあるぞ・・しかもつい最近。俺と一緒に働くだって?・・・あっ!あの子は今朝、俺が助けた・・・〜 優哉が驚き、その女性、坂口春佳に見入っていると、部長に連れられて優哉の方へ歩いてきた。すると春佳の方も優哉に気付いた。 「あっ、あなたは今朝の」 「ん?なんだ川田、お前ら知り合いだったのか?」 部長の塩田が二人を交互に見ながら言った。 「いえ、知り合いって程じゃ・・・」 「今朝、ここへ来る途中、私が車に轢かれそうになったのをこちらの川田さん?に助けて頂いたんです」 「そんなことがあったのか、初出社そうそうケガが無くて良かったよ・・・やるな川田」 部長は高笑いしながら川田の肩を思い切り叩くと「よろしく!」と言って自分の席へと戻って行った。 「今朝はどうもありがとうございました。パートナーの方が優しい方で良かったです。」 春佳が笑顔で言った。 「あ、うん、もう大丈夫なの?」 「ええ、すっかり元気になりました」 「それは良かった。じゃまずうちの会社の事から説明するよ、そこに座って」 優哉はやっと事の次第を理解したようで、その表情には少し余裕が戻っていた。 〜何がなんだか良く解らないけど、とにかく今は俺が思ってる今じゃないってことは確かなようだ。だってほら、パソコンの日付がなんと一年前だ。てことは俺はタイムスリップしたってことか?まさか・・・。でも確かに一年前の今日、俺の仕事のパートナーになるはずだった女性は事故に遭って来なかった。だからその一週間後、悠子が代打で来たんだよな。今日が本当に一年前だとすると、俺は事故に遭うはずだった、この春佳って子を偶然助けたってことになる。一年前とは違って早起きしたために・・・。大変だ、それだと悠子はここへは来ないじゃん!そんなの嫌だ!!嫌だー!〜 優哉は内心かなり動揺していたが、表面上は平静を装い、春佳に説明を続けていた。
〜俺にとって長く、狂った一日がやっと終わった。 一年前に戻っただって?そんなばかげたことがあるもんか。じゃ、なにか?悠子との思い出は全部夢の中の出来事ってこと?いや違う!俺の手には悠子の手の温もりだって残ってる。断じて夢であるはずがないんだ〜 優哉は今日の出来事こそ夢だと思いたかった。それを証明するためには悠子に会って確かめるしかない。優哉は居ても発ってもいられず、急ぎ悠子の自宅へと向かった。 悠子の家は優哉のアパートのすぐ近くにあり、悠子は両親と妹と一緒に住んでいた。 優哉は悠子の家に到着すると、しばし顔を強ばらせて立っていたが、やがて意を決したように玄関のチャイムを鳴らした。 しばらく間を置いてから、玄関のドアがガチャリと音を立てて開いた。 出て来たのは悠子の母親だった。 「あ、あの川田ですけど・・・」 「はぁ、川田さん?」 優哉の心臓の鼓動が一気に早まる。悠子の母親が自分を知らないはずがなかった。今日が本当に一年前であれば知らないのが当然なので、優哉もこの反応を心の片隅ではある程度予想はしていたのだが、実際にそうなると少なからずショックだった。だが悠子だけは・・・。優哉は一縷の望みを抱き、言葉を続けた。 「悠子・・さんは・・・」 「悠子ですか?いますけど、ちょっとお待ち下さい」 悠子の母親が悠子を呼びに部屋の中へと消える。 そして遂に悠子が出て来た。 「悠子」 優哉はまるですがるような眼差しで悠子に呼びかけた。 「は?どちら様ですか?」 優哉の頭の中で何かが音を立てて崩れたようだった。 「悠子、俺だよ!川田優哉!覚えてないのか!?毎日ホームページプロジェクトで一緒に働いているじゃないか!」 まるで叫ぶように言う優哉に悠子は驚き、そして明らかに警戒し、困惑した目つきとなった。 〜頼むよ、悠子、思い出してくれ!昨日までのように「優哉♪」って呼びかけてくれ!優しく微笑みかけてくれよ・・・頼む〜 「ちょっと誰かと勘違いしてませんか?私、あなたのこと知りません!」 明らかに他人を見る目だった。 優哉は何かぼそぼそと呟くように唇を震わせながら呆然と悠子の顔を見ながら立ち尽くしていると、悠子の母親が怪訝そうな表情を浮かべながら出てきた。 「あなた一体誰なんですか?うちの娘は知らないと言ってるんです。」 「・・・・・」 「ちょっと!もう帰ってもらえますか!」 「・・・どうもすいません・・・僕の勘違いだったようです。大変失礼しました」 優哉はそう言うのがやっとだった。 優哉は肩を落として悠子の家を後にすると、すぐには自分のアパートへは帰らずに近くの公園へふらふらと歩いて行くと、ベンチにどかっと腰を下ろした。 〜やっぱり今は一年前なのか・・・。とても信じられない。何がどうなったらこんな事になるんだ・・・結婚しようとしていた相手が突然他人になるなんて耐えられるか?・・・酷すぎる、酷すぎるよ・・〜 優哉は両手で頭を抱えるようにしてうつむいた。 その顔は暗くて見えなかったが、苦悩に歪み、濡れた頬がきらきらと街頭の灯りで光っていた。
それから一ヶ月が経った。 優哉は未だに現実を受け入れられずにいた。しかし新しいプロジェクトを任されている以上それを失敗させるわけにはいかないので、なんとか吹っ切ろうと仕事に打ち込んでいた。それでもまだ、悠子の事を時折考えては、ぼんやりすることが多かった。
〜「ちょっと誰かと勘違いしてませんか?私、あなたのこと知りません!」 あ〜、悠子・・・なんだよその目は・・・。俺達はあんなに愛し合った仲じゃないか、そんな他人を見るような目で俺を見ないでくれよ・・・・ ・・・・ ・・ダさん?・・川田さん?」 ん?誰か俺を呼んでる? 〜 「川田さん?」春佳が優哉に何度も呼びかけていた。 「あ、春佳ちゃん・・ごめん、ボーッとしてたよ、何?」 「あの、このホームページのトップに入れるアニメーションを作ってみたんですけど見てもらえませんか?」 「もう出来たの?うん見せてよ」 春佳のパソコンの画面上で、依頼主の会社のマスコットキャラであるワニがトコトコと歩き回っていた。 「ははは、可愛いね、それ。うんいいんじゃない」 「ありがとうございます」 春佳は嬉しそうに笑顔を見せたが、すぐに真顔に戻ると優哉の顔をうかがうように見つめた。 「あの・・川田さん?」 「ん?何?」 「・・川田さん最近時々元気がないようですけど、何か心配事ですか?」 「え?俺そんなに元気ないように見えた?ごめん、ごめん何でもないんだ。でもありがとう心配してくれて」 「そうですか、何でもないならいいんですけど、あたしなんかで良かったらいつでも相談に乗りますからね。あ、そうだ今度二人でパーッと飲みにでも行きません?この前安くておいしい居酒屋見付けたんですよ、ね、行きましょう!」 〜はは参ったな。この春佳って子には叶わないや。でも俺を気遣ってくれるなんて結構優しいんだな。落ち込んでるのは事実だし、たまには気分転換するのもいいかもね〜 「そうだね、行こうか」 優哉は春佳になんだか押し切られたような気がしていたが、同時に楽しい気持ちになってもいた。春佳の明るく天真爛漫な性格は周囲の雰囲気まで明るくするようだった。 優哉は自分でも気付かぬうちに、まるで春佳に引っ張られるかのように段々と前向きに現実を歩き始めて行くのだった。
一年後.. 時の流れは早いもので、優哉と春佳が一緒に仕事を始めてからもうすぐ一年になる。二人は夢中で仕事に打ち込み、その結果、プロジェクトは軌道に乗ってスタッフも今や5人に増えていた。 クリスマスイブを明日に控えた夜。優哉は一人自分のアパートで携帯電話を緊張した面もちで見つめている。 〜 それにしても悠子との出来事は一体なんだったんだろう。最近はどんどんと思い出の記憶が薄れてきてるのを感じる。あれからも殆ど毎日通勤電車の中で悠子は見かけるけど、今じゃ全く他人同士で、もちろん話すことなんてない。確かに・・悠子と一緒に仕事してた記憶は残ってる。でも具体的にどんな顧客のどんなページを作ったかという点がどうしても思い出せない。ということはやっぱり悠子とのことは全て俺が見た、長い長い夢物語だったのだろうか?それともやっぱりタイムスリップ? 確かに俺と悠子は運命的な出逢いをした。悠子はこれ以上無いほど相性のいいパートナーだと思っていたし、一番大切な存在だった。 でも・・・でも今は違う・・そう、俺が今一番大切に想っているのは春佳なんだ。たった一年でころころ大切な人が変わるなんて身勝手に思われるかもしれないけど、それが今の正直な気持ちだ。偶然にせよ何にせよ、今は春佳と出逢えたことを神様に感謝してる。 人と人の出逢いなんて本当にちょっとしたことでがらっと変わってしまうものだ。 運命的な出逢いは確かにある。でもそれだってきっと偶然の産物なんだ。それでも、偶然でもいいじゃないか。今は春佳と一緒に人生を歩いて行きたい・・・それが俺の一番の望みだ 〜 優哉は意を決したように携帯電話を手にすると春佳の番号を呼び出した。 「もしもし、俺だけど・・春佳ちゃん?」 「はい、どうしたんですかこんな時間に」 「・・・明日、大事な話があるんだ。いつもの場所で待ってて欲しい」 「大事な・・話?」 「ああ・・・」 「・・・分かりました、じゃ明日会社が終わった後、七時でいいですか?」 「うん、じゃあ七時に、それじゃお休み」 「お休みなさい・・プツッ・ツー・ツー・・・」
春佳のアパート。 春佳はちょっと上気した顔で優哉からの電話を切ると、満面の笑顔になり大きく両手を突き上げた。 〜やったー!大事な話だなんてきっとプロポーズに違いないよね♪作戦成功って感じ? 明日は最高のクリスマスイブになりそう、どんな服着て行こっかなー〜 春佳はとても上機嫌でベッドに入ると意外にもすぐに眠りに落ちた。
翌朝、春佳は珍しく寝坊した。 〜うーん、良く寝た。って今何時?8時じゃん!大変早く行かないと遅刻だ〜 春佳は急いで顔を洗い、手早く身支度を済ませると化粧もそこそこにアパートを出た。
春佳はなんとか始業時間2分前に会社に到着することができた。 〜ふーっ。ぎりぎり間に合ったわね。あれ?川田さんまだ出社してないや。相変わらずぎりぎりにしか来ないんだから。ん?誰よ、あたしの机の上に段ボール箱なんて置いて!もう!〜 春佳は段ボール箱をどけると自分の席へと座った。そうこうしているうちに始業時間のチャイムが鳴る。 すると部長の塩田が春佳の方へ歩いて来た。 「あの、君、坂口さん?」 「あ、おはようございます」 「君、最初は総務部に行くように言われなかった?」 「は?」 「ま、いいや、先にみんなに紹介するからちょっと来てくれる」 春佳は塩田の言っていることが理解できなかったが、取りあえず従うことにした。 「ちょっとみんな集まって」 部長の塩田がみんなに向かって呼びかける。 「え〜、今日からみんなと一緒に働いてもらうことになった坂口春佳さんです。川田優哉君と一緒にホームページ作成プロジェクトを担当してもらう予定でしたが、先週川田君が病気で入院したので、平井君に代わりにプロジェクトリーダーをやってもらいます。じゃ坂口さん、一言挨拶を、」 〜えーっ!一体何がどうなっているのよ、先週川田さんが入院?だって昨日あたし電話で話したよね??〜 「坂口さん、何ボーッとしてんの?さあみんなに挨拶して」 〜えーい訳が解らないけど、もうどうでもいいや〜 「さ、坂口春佳です。みなさんのお役に立てるよう頑張りますのでよろしくお願いします。」
おわり..。
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