■ミッフィー 〜白うさぎ番外編〜

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プロローグ

1991年11月3日
西鉄久留米駅前にある喫茶店「ミッフィー」。
ここに、あるカップルがコーヒーを飲みにきていた。
ひょろりとした長身の男が店の一番奥の席についている。
その男の前には、24、5歳に見える女性。
肩まで伸ばした髪型は、ストレート・ボブ。
ザックリと編んだセーターにタイトなミニスカートをはいている。
いかにも休日のOLといった感じだ。
ふと、女性が立ち上がった。
お手洗いに行くつもりらしい。
席を立ち、通路を歩いていく。
祭日だからだろうか、店内の客はカップルばかりだ。
二人が座っているすぐ後ろの席にも、カップルが座っていた。
OL風の女性はちらりと二人を見た。
男のほうは大学生だろう。
なかなか体格がよく、スポーツでもやっていそうな感じだ。
女のほうは女性というよりも、少女といったほうがよさそうだ。
まだあどけなさが残る。

エピソード1

「ごめ〜ん、佳子。待った?」
フリフリのピンクハウスの服を身をまとった少女が、待ち合わせの少女に声をかけた。
「大丈夫。私も今着いたとこ。」
ニッコリ微笑んで答える。
こちらの少女は打って変わって、トラッドな格好をしている。
白いブラウスにアーガイルのベスト。
ミニのプリーツスカートにハイソックス。
足元にはローファーといった、オーソドックスな格好だ。
JR久留米駅前で二人の高校生が待ち合わせをしていた。
二人はK高校のクラスメート。
これからK高専の文化祭に出かけるところだ。
いつもより気合を入れた服装をしているのもうなずける。
「確か、ここからバスだよね。
あ、来たみたい。真由美、走るよ!」
二人は、はやる気持ちを抑え、バスに乗り込んだ。
「高専っていえば、殆ど男子校も同じ。
その上、電子科ならエリート!
必ず彼氏見つけようね!」
「おうっ!」
二人の女子高生は野望に燃えていた。

K高専は5年制。
生徒の殆どが男子だ。
高専の中でもK高専は偏差値がかなり高く、卒業後は一流企業の就職が約束されている。
硬いイメージとは裏腹に、校風は自由で特に文化祭は盛り上がる。
さて、バスに揺られること10分、ようやく二人が校門に到着した。
「わぁ〜!すご〜い!」
真由美は目をキラキラさせてあたりを見回す。
「とりあえず入ろう。」
佳子が促す。
校門を入ってすぐ、男子生徒に声をかけられた。
「ねぇねぇ、すぐそこでゲームやってるんだけど、やってかない?
景品も出るし。」
あまりにさわやかに話し掛けられたので、そのまま付いて行ってしまった。
「二人連れてきたぞ〜。」
さわやか少年はここで受付係にバトンタッチした。
「じゃ、ゲームの説明をするね。
まず、この紙に自分の特徴を書いて。
どんな服装をしているとか、髪型とか。
で、これを見た別の参加者が、君たちのことを探すから。
見つかったらまたここに戻ってきて、クイズに答えて。
見事正解したら、豪華景品プレゼント!
わかった?」
「は、はぁ。」
二人は受付係の迫力に押されて、言われるままに自分の特徴を書いた紙を渡した。
「ありがとう。楽しんでいってね。」
受付係に見送られながら、二人は構内の奥へ進んでいった。
ちょうどいいベンチを見つけて、つい座り込んでしまう。
「なんか、訳わかんないうちに参加しちゃったけど、いいのかなぁ。
見つかったらどうする?
バラバラになっちゃうんじゃない?」
真由美が言った。
「ん〜、どうしようか。」
佳子も考え込んだ。
と、そこへ一人の少年が近づいてきた。
「すいません、これ、あなたじゃないですか?」
見せられた紙には真由美の特徴がしっかり書いてあった。
「は、はい。私です。」
「じゃ、行きましょうか?」
そう言うと少年は強引に真由美を連れて行ってしまった。
一人取り残された佳子は唖然とした。
「どうしよう・・・」
すると頭の上から声が聞こえてきた。
「これ、あなたですよね。」
うなだれていた頭を上げると、そこには少年から青年に変わろうとしているくらいの男が立っていた。
サーモンピンクのモヘアのセーターにベージュのチノパン。
彫りの深い、繊細そうな顔に実に似合っている。
佳子の胸は一気に高まった。
「はい・・・」
そう言って二人は受付へ戻った。
そこで早速クイズを出された。
「五千円札に描かれている人物は?」
「え・・・」
二人揃って絶句してしまった。
財布を覗くと運良く五千円札が入っていた。
〜新渡戸稲造〜
佳子は読み方がわからずにいると、男が受付係に答えた。
「ニトベイナゾウ」
「おめでとうございます!はい、これ景品です。」
景品を受け取り、取り敢えず歩き出した。
「はい、これは君にあげる。」
「ど、どうも・・・」
佳子は遠慮なく受け取った。
「開けてみてよ。なんだろう、中身。」
言われるままに包装紙を開く。
中から出てきたのは、キャラクターがついたフォークだった。
「ま、景品なんてこんなもんかな。」
男がつまらなそうに言った。
「でも、買おうと思っていたからちょうど良かった。」
佳子は正直に答えた。
「ねぇ、これからどうする?中見ていく?
うちの学校の学祭つまんないでしょ?
毎年ワンパターンなんだよ。」
〜ラッキー!高専の生徒なんだ!
〜全員私服だったから見分けつかなかった。
「ん〜、でも友達と一緒に来たんだけど・・・」
「お友達も捕まっちゃったんでしょ?
探してみる?」
内心真由美には悪いがさっさと二人でどこか行きたかったが、一応探すことにした。
が、さすがに校内は広すぎて見つけられなかった。
佳子は内心ニッコリしながらも、残念そうな顔をして
「もう諦めます。ごめんなさい。引っ張りまわしちゃって。」
「気にしないでよ。じゃ、これからデートしてもらおうかな。」
甘いマスクでこんなこと言われたら二つ返事でOKしてしまう。
「とりあえず、ここ出よう。
休みの日まで学校に居たくないよ。」
そう言って学校を後にした。
「どこに行くんですか?」
佳子が恐る恐る聞いた。
「どこかでゆっくり話をしたいな。
そうだ、西鉄の駅前にいい喫茶店があるんだ。
ミッフィーって言うんだけど、そこでいい?」
佳子は男の顔に見とれていて、もうされるがままになっていた。

喫茶店に着くと早速自己紹介に入った。
男の名前は佐藤守。高専の4年生だ。
佳子が狙っていた、電子科だ。
二人ともすっかりリラックスして、話に花を咲かせていたら一組のカップルが入ってきた。
佳子の席の真後ろに座った。
カップルは注文を済ませ、少し話をすると女性が席を立った。
どうもお手洗いに行くらしい。
佳子の横を通り過ぎる時、チラリと自分たちを見ていった。

女性は窓際にいるカップルに目をやった。
どうも深刻な話をしているようだ。
男は切れ長の目でかなり整った顔をしている。
女は後姿で顔は見えない。
茶色いロングヘアーだ。


エピソード2

「もう終わりにしましょう。」
女が唐突に話を切り出した。
男の名前は謙吏。
鳥栖警察の刑事だ。
今日は久しぶりの休暇で、彼女とデートしていた。
いつもなら、黙って彼女の別れ話を聞くところだが、今回は違っていた。
「どうして・・・他に好きなやつでもできたのか?」
謙吏はタバコに火をつけながら尋ねた。
女はゆっくり頭を横に振って答えた。
「もう疲れたの。
謙吏はいつもクールで、感情を表に出さないから、何考えてるかわかんないんだもん。
私のこと、まったく興味なさそうだし。
もう冷めてるんでしょ?」
「・・・」
思わず黙り込む。
謙吏が付き合う女は皆同じことを言う。
「好きじゃないなら、久しぶりの休みに会ったりしない。
俺は・・・美紀のこと愛してる。
冷たくしてるように見えるかもしれないけど、これが俺なんだ。
でも、それが嫌なら・・・」
謙吏は大きくタバコを吸い込んだ。
次の言葉を発しようとすると、女の頬に涙がつたい落ちた。
謙吏は言葉を飲み込んでしまった。
いつもなら、鬱陶しく思う女の涙が、何故か今日はいとおしく思える。
謙吏は女の横に席を移し、涙を拭った。
そしてそっと口付けをした。
女はビックリして目を開けたままだ。
謙吏がまさかそんなことを人前でするとは、夢にも思っていなかったのだ。
いや、謙吏自身もビックリしている。
「結婚しよう。」
〜俺はいったい何を言っているんだ。
謙吏は自問していた。
しかし、謙吏の本心とは裏腹に次々と言葉が出てくる。
「本当に?」
「ああ、本当だ。」
〜一体どうしたんだ俺。しっかりしろ!
自分を制御しようにも、暴走している。
〜だめだ、もう。
〜取り敢えず店を出よう。
そう思い、店を出ようとすると奥の席から女性が歩いてきた。
どうもお手洗いに行くらしい。
OLに見えるが、謙吏の勘だとまだ未成年とみた。
さすがは刑事。
鋭い観察力だ。
女性はチラリと謙吏を見ると通り過ぎていった。

女性は更にとなりの窓際のカップルに目をやった。
キャピキャピとした、いかにも高校生のカップルだ。
いや、カップルというより友達同士だろうか。


エピソード3

「すいません、ちょっと時間いいですか?」
美和の目の前に、男が立ちはだかった。
手にはアンケート用紙を持っている。
美和はこの日、アルバイトでためたお金を手に、以前から狙いをつけていたコートを買いに来ていた。
小郡から急行電車で、久留米駅に着いたところだった。
ここ西鉄久留米駅の構内は休みの日になると、キャッチセールスや宗教の勧誘が繰り出してくる。
十メートル歩けば一人は声をかけてくる。
この男もその一人だ。
美和は大きく肩で息をした。
「時間ありません。急いでいるんで。」
そう言って立ち去ろうとすると、男はしつこく食い下がってきた。
「そんな事言わずにいいじゃん、すぐに終わるから。」
美和にくっついてきて離れない。
〜もぅ、どうしよう・・・
〜あ、あれは・・・
美和は顔をほころばせた。
「馬場君!お待たせ!」
クラスメートの馬場を目ざとく見つけ、駆け寄った。
馬場はきょとんとしている。
すかさず腕を組み、足早にその場を立ち去る。
「ごめんね、話合わせて!」
小声でささやく。
馬場もすぐに状況がわかったらしく、話をあわせてくれた。
宗教の勧誘の男は呆然と見送った。

「本当にごめんね、お詫びにコーヒーでもおごるよ。
時間ある?」
美和は手を合わせて謝った。
馬場はニッコリ笑って
「お詫びはいいけど、コーヒー一緒に飲もうか。」
と答えた。
馬場は美和の通う高校でもかなり人気がある方だった。
バスケ部のエースで頭もいい。
女子にもやさしいので、下級生の間ではファンクラブがあるくらいだ。
ちなみに二人は三年生なので、部活はもう引退して受験勉強に勤しんでいる。
「この先にミッフィーっていう喫茶店があるんだけど、知ってる?
女の子に人気のパフェがあるらしいよ。」
馬場が気を利かせて言った。
「へぇ〜、馬場君詳しいんだね。
彼女とよく行くの?」
さりげなく探りを入れてみる。
実は美和の親友の早苗が馬場にゾッコンなのである。
「いや、雑誌に載ってたんだよ。」
微妙な返事だ。
〜チッ、失敗したか。
心の中で舌打ちする。
店内に入ると、ちょうど窓際が空いていた。
「わぁ〜、本当に色んなパフェがある!
あ、このトロピカルパフェがいいな。
馬場君は何にする?」
「僕はキリマンジャロ飲もうかな。」
〜コーヒーといわずに銘柄を指定するなんて、高校生のクセにかっこいいぜ!馬場君。
馬場はウェイトレスを呼ぶと注文をした。
「感じいい店だね。
雑誌に載るのも納得。」
「そうだね、僕も初めて来たんだけど、ここはアタリだね。」
美和に微笑んだ。
〜くー!早苗が惚れるのもわかるな。いい男だ。
〜ここは一気に確信に触れてみるか。
「馬場君、」
「大坪さん、」
同時に声を出してしまった。
「あ、ごめん、馬場君からどうぞ。」
「いや、大坪さんから・・・、いや、こういう時は男の方から言うべきかな?」
頭をかきながら馬場は話しだした。
「大坪さんって彼氏いるの?」
「え・・・」
思いもよらない質問に美和は言葉を詰まらせた。
「いや、いないけど・・・」
〜ハッ、この勢いで聞くのよ美和!
「馬場君は?彼女いるの?」
タイミングが悪いことに、ちょうどパフェとコーヒーが運ばれてきた。
〜クッソー!タイミングわるぅー・・・
が、すぐにパフェに目を奪われる。
「うわっ、おいしそ〜」
そんな美和を見ながら、馬場は微笑んでいる。
「ん?なに?」
「いや、女の子って甘いもの食べる時、本当に幸せそうな顔するな〜って思って。」
「そうよ、幸せだも〜ん!」
美和は頬を膨らませた。
「ねぇ、大坪さん。僕のことどう思う?」
美和の心はもうパフェに奪われている。
心ここに在らずといった、気のない返事をする。
「そうねぇ、頭もいいし、スポーツも出来る。
顔もいいし、女子の人気の的。
まぁ、欠点がないのが欠点かな。
なんか欠点がないのってつまんないよ。」
〜ハッ!つい本音が出てしまった。
恐る恐る馬場の顔を見てみる。
馬場は相変わらずニコニコしている。
「なるほどね。かわいい顔をしてハッキリ言ってくれるね。」
「あはは・・・私口悪いから気にしないでね。」
笑いが引きつってしまう。
「ねぇ、僕と付き合わない?」
あまりにストレートな問いかけに、口に運んでいたパイナップルを落としそうになった。
「・・・いくらくれるの?」
「へっ?いくらって・・・君のこと買うわけじゃないんだけど・・・」
美和はパイパップルを頬張って、一息ついてから口を開いた。
「知ってるのよ。男子の間で賭けてるんでしょ?
私のこと誰が落とすかって。」
図星を指されたのか、馬場は顔がカッと赤くなった。
美和はかまわず話し出す。
「この賭けに勝ったらいくら入るの?
7割で手を打とうじゃない。」
高校生にしてはかなり強かだ。
最初に高めに設定して、ある程度のところで手を打とうとの考えらしい。
「ははは・・・何言ってるんだよ。
僕はそんな・・・一体誰がそんな賭けを・・・」
もう、しどろもどろになっている。
「ふふふ、冗談よ。
お金もらっても付き合う気ないわ。
でも図星だったみたいね。」
馬場はもうお手上げといった感じで
「まいったな。大坪さんにはかなわないや。
確かに男子の間ではそんな賭けが流行っているよ。
美人なのに誰とも付き合わないから。
でも、僕は賭けとは関係なく大坪さんと付き合いたいんだ。」
美和はしばらく考え込んだ。
そして口を開こうとしたとき、店の奥の方から女性が歩いてきた。
どうもお手洗いに行くらしい。
この寒い日にかなりのミニスカートをはいている。
すれ違いざま、こっちをチラリと見ていった。

女性は通路を右に曲がり、お手洗いを目指していく。
曲がってすぐのコーナー席に垢抜けたカップルが座っている。
女はいかにもキャリアウーマンといった感じだ。
男は童顔で、年齢不詳。
中性的な顔をしている。


エピソード4

「ねぇ、君。ちょっと時間ある?」
信号待ちをしていた茂に、後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、女性が立っていた。
恐らく四十代前半だろう。
だが、年を感じさせない若々しい雰囲気をもっている。
茶色に染めた髪はデザインが効いたショートカット。
ダークなパンツスーツを着ているが、服の上からもスタイル抜群なのがわかる。
茂は一瞬のうちに相手を値踏みしてから返事をした。
「僕ですか?どういった御用でしょう?」
年上なので、丁寧に受け答える。
茂は24歳の大学院生。
だが、童顔のせいか大体高校生か大学生に見られる。
少しクセ毛の髪に、長い睫をした大きな瞳。
色素が薄いのか、髪も瞳も茶色い。
身長も高く、180cmはありそうだ。
色が白いせいか、華奢に見える。
「そう、君。ねぇ、モデルやらない?」
そう言って、女性は名刺を差し出した。
ジュエリー・ブリリアント 代表取締役 小笠原雪乃
〜ジュエリー・ブリリアントって言ったら新進のジュエリーショップじゃないか!
〜女共に何度ねだられた事か!
「あの・・・僕男なんですけど・・・」
確かにジュエリーショップのモデルが男っていうのはちょっとおかしい。
いや、今では普通のことだが、なにせ10年前では考えられないことだ。
「わかってるわよ。でも私のイメージぴったりなのよ!
お願い、話だけでもきいてくれない?」
そう言って女社長は強引に喫茶店『ミッフィー』に引っ張りこんだ。

「ねぇ、このイラストを見て。」
手渡されたイラストには、男とも女ともつかない人物が描かれていた。
シルバーのストレートのセミロングヘアーに紫の瞳が印象的だ。
「これは・・・」
「うちのイメージモデル。
こんな感じのモデル探してるんだけど、君がピッタリなのよ。」
「え・・・」
確かに目鼻立ちは茂そっくりだ。
「君、いくつ?大学生?」
「いえ、大学院生です。24歳。」
女社長はちょっと意外な顔をして
「そっか・・・でも名前もプロフィールも未公開で出そうと思ってるのよ。
問題ないでしょ?」
女社長は茂を使うことを決め込んで、話をどんどん進めていく。
「ちょ、ちょっと待ってください。
僕はこのお話受けると決めたわけでは・・・」
あまりに強引な話に茂は戸惑う。
「まあまあ、いい経験になるわよ。
あ、もしかして君、どっかモデル事務所に所属してるの?」
「いえ、そんなことはないんですが・・・」
どうも、女社長のペースにはまってしまう。
「もうすぐ、担当の広報の人間とヘアメイクさんが来るから、試しにメイクしてみましょう。
絶対イケると思うのよ。
ジュエリーショップのイメージモデルが男なんて、ちょっと面白いでしょ?」
女社長の迫力に茂はタジタジになってしまった。
ふ、と通路を見ると女性が歩いてくる。
どうもお手洗いに行くところのようだ。
女性が茂のほうに目をやった。
目が合ってしまったので、おもわず視線をそらす。

女性がお手洗いに向かっていると、ちょうどカップルが入店してきた。
買い物帰りのカップルらしい。
男は大学生っぽい。
さわやか系だ。
女はスラリとした長身で大人っぽいが、顔のラインにまだあどけなさが残る。
恐らく高校生だろう。

エピソード5

「ねぇ、健ちゃん。どっちがいいと思う?」
ブティックでワンピースを試着した彼女をまぶしそうに見つめる。
「う〜ん・・・さっきのほうが亜有美ちゃんに似合うかな。」
「そう?じゃ、そうしよっかな。」
亜有美はうれしそうに試着室に戻る。
今日は前々から約束していたデートだ。
亜有美は上機嫌だ。
一方、健一は亜有美に散々引っ張りまわされ、お疲れモード。
正直、どっちのワンピースも大して違いがわからない。
亜有美は言われたとおりのワンピースの精算をして戻ってきた。
「ごめんね、健ちゃん疲れたでしょ?
コーヒーでも飲みに行こうか?」
「そうだな、そうするか。」
健一は努めて明るく答えた。
喫茶店に向かう途中、健一が話を切り出した。
「実はね、亜有美ちゃん。
就職が決まったんだ。」
うつむき加減に話しだした。
「え、おめでとう!
どこに決まったの?」
「富士友物産。」
「わぁ、一流企業じゃない!
すごーい!」
だが、健一の顔色が冴えない。
「どうしたの?健ちゃん。」
健一は意を決して伝えた。
「実は、東京に行かなきゃいけないんだ。
来年の3月から・・・」
「・・・」
気まずい空気が流れる。
亜有美が健一と付き合い出したのは一年前。
高校一年の夏だった。
健一は来年就職。
大手の商社を希望していたから、こうなることはわかっていたが、さすがにショックを隠せない。
沈黙を破ったのは亜有美のほうだった。
「そっか・・・そうだよね。
大丈夫だよ、亜有美は。」
わざと笑顔を見せる。
が、頬には涙がつたっている。
健一は思わず抱きしめた。
「ちょ、ちょっと健ちゃん!
こんなところで恥ずかしいよ!」
確かに、人通りが一番多い、西鉄駅前の横断歩道の真中ですることではない。
「と、とりあえずお店に入ろう。ね?」
亜有美は何とかこの場を立ち去りたかったので、健一を店へ促した。
「あ、ここでいいや。
喫茶店ミッフィーってかいてある。」
雑居ビルの4階にある喫茶店を目指した。
エレベーターの中で健一は亜有美をきつく抱きしめた。
「一緒に連れて行きたい。」
亜有美はその言葉を聞けただけで十分幸せだった。
「健ちゃん、亜有美はまだ高校生だよ。
変な事言わないで。」
健一をなだめる。
「そうだな・・・ごめん。
でも、東京行くからって、別れたりしないよ。
亜有美、ちょっとの間我慢してくれよ。な?」
亜有美は心の中では否定したが、
「うん。」
と、答えた。
エレベーターが4階を告げる。

「いらっしゃいませ〜。」
店内に入るとなかなか雰囲気がいい。
すると向こうから女性が歩いてきた。
恐らくお手洗いに行くのだろう。
亜有美はチラリと女性に目をやった。
女性はそのままお手洗いに入っていった。

エピソード6
「久しぶり、元気してたか?
今から会わないか?」
電話の向こうからそんな言葉が聞こえてきた。
智恵子は気が乗らないが、会うことにした。
相手の名前は康弘。
一年前に友人の紹介で知り合った。
全く好みではなかったのだが、金持ちの息子だったので付き合うことにした。
と言っても、一度も手を握ったことがない。
どうも、生理的に受け付けないのだ。
だが、康弘は智恵子に献身的に尽くしてくれる。
お腹が空けば呼び出して、レストランでご馳走になる。
学校帰り、駅まで歩くのが面倒くさくなれば呼び出して、車で送ってもらう。
友人とディスコの帰りに呼び出して家まで送ってもらう。
かなりおめでたい男である。
しかし、さすがに鬱陶しくなり、友人のさおりに紹介して、誘惑してもらうことにした。
智恵子は別れ話が嫌いだ。
というか、恋人になったつもりはないので、どう話を切り出せばいいのかわからなかったのだ。
さおりも金を持っている都合のいい男と聞いて、話に乗ってきた。
ここ半年、康弘は智恵子とさおりに二股をかけていると思い込んでいる。
こっちはこっちで、鬱陶しさも半減した上に、利用するときは利用している。
実に都合のいい男だ。
智恵子にはちゃんと本命の彼がいた。
最近彼とばかり会っていたので、康弘に会うのは久しぶりだ。
つい三ヶ月前、康弘に
「誕生日に彼から銀の指輪をもらったら、幸せになれるんだって。」
と、ハッパをかけたら、案の定、デザイナーズブランドのリングをくれた。
実はこの話は、彼氏以外の男からもらったら、というのが本当である。
それ以来会っていない。
今回は珍しく、康弘のほうから場所を指定してきた。
西鉄駅前の喫茶店『ミッフィー』。
今、目の前に深刻な顔をした康弘が座っている。
智恵子は息苦しくてたまらない。
「どうしたの?何か言いたそうだけど・・・」
恐る恐る聞いてみた。
「実は・・・智恵ちゃん、ごめん!
俺さおりちゃんともつきあってるんだ。」
智恵子は胸をなで下ろす。
〜なーんだ、そんなことか。
〜でも、ちょっとはショックな顔したほうがいいかな・・・
「でも、やっぱり俺は智恵ちゃんのほうが好きだ!」
〜おいおい、ちょっと待てよ。
「さおりちゃんにはちゃんと断った。
俺の彼女は智恵ちゃんだけだ!」
〜ちょっとー、さおりに合わす顔がないじゃん!
〜考え直せ、康くん!
〜って、いうか、彼女になった覚えないんだけど・・・
智恵子は具合が悪くなり、お手洗いに行くことにした。
〜どーしよー・・・お手洗いで考えまとめなきゃ・・・
智恵子は席を立って、お手洗いに向かった。


エピローグ

2000年12月
「かんぱーい!」
今日は忘年会を兼ねた、白うさぎ結成記念飲み会である。
メンバーは管理部の智恵子、亜有美。
技術部の謙吏、茂、美和、佳子の6人。
管理部の二人と技術部の男性二人とは初顔合わせである。
いつもはメールやチャットでやり取りをしているので、フロアが違う4人は顔を合わせたことがない。
「ねぇ、なんで『白うさぎ』なんですか?」
グループ名の命名をした謙吏に佳子が尋ねた。
「うちの子供が白いうさぎのキャラクターがお気に入りなんだ。」
さらっと、答える。
「白いうさぎ・・・」
一同考え込む。
すると、亜有美が思いついたように言った。
「それって、もしかして『ミッフィー』のことですか?」
「・・・」
一同納得・・・
「はぁ〜・・・ミッフィーねぇ・・・
ま、いいか。もう定着しちゃったし。
ホームページも開設しちゃったしね。」
その時、全員にある思い出がよみがえった。
今はもうなくなってしまった、駅前の喫茶店、「ミッフィー」。
美和がポツリとつぶやいた。
「あれからもう9年か・・・」
外は冷たい冬の雨が降っていた。

おわり。