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Lesson 3. ピカルディーのT

Date:2001/03/31 Text:トレバー・ワイ 初級用フルート教本 上 p.46

「今日の曲はキャロル(聖歌)です。拍子は4分の3拍子。3拍子系というとワルツがよく挙げられるけど、落ち着いたキャロルにもよく用いられるのよ。まずはさらってみましょう。」

「うん、吹き方はいいわね。ではここで和声の勉強をしましょう。この曲はイ短調(A-moll)だけど、スケールから外れた音がひとつあるわ。どれだか分かるかしら?」

「ソに♯が付いているのは和声短音階になっているためだからスケールから外れているわけではないな……となると最後の14小節目のド♯ですか?」

「正解。結論から言うとこの曲は最後の小節で同主調のイ長調(A-dur)に転調しているのよ。」

 先生はホワイトボードに最後の2小節の譜面を書き込んだ。

「これはフルート2重奏用に編曲されているけど、原曲では下のパートのラ、上のパートのド#に加えてミの音が追加されていると考えてちょうだい。すると『ラ−ド#−ミ』というイ長調のTの和音が現れるわ。」

「このように、短調でありながら最後はTの和音の第3音を半音上げて曲を結ぶことを『ピカルディーのT』、または『ピカルディー終止』と呼ぶの。」

「『ピカルディー』ってフランスのピカルディー地方のことですか?」

「そうよ。中世ヨーロッパ教会旋法の考え方によれば、短調は人間の世界、長調は神の世界を象徴するもの。聖歌のピカルディー終止は、神の世界への救済を予感させるために当時頻繁に用いられたのよ。」

「ふーん……、そう言われるとたしかにどこか癒されるような曲想になっていますね。」

「カタルシス(浄化)を感じるわね。そういえば『ネスカフェ ゴールドブレンド』のCM曲もピカルディー終止を用いているわ。聞いたことあるでしょう?」

 ちょっとおどけたように、彼女は肩をすくめた。

「きょ、今日はそういうオチですか……」