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プリキュアOPサビにおけるセカンダリー・ドミナント進行

2004/06/20

text by montague [テクスト経営システム主任研究員]


 わずか1分20秒の間に3回も転調を繰り返すなど、音楽的テクニックの密度の濃さで評価の高い名曲、『DANZEN! ふたりはプリキュア』。とりわけこの曲のサビの部分(「生命の花 咲かせて 思いっきりー」の箇所)は弾けるばかりにエネルギッシュでありながら、どことなくメランコリックなフレーバーを漂わせ、不思議な魅力を放っているのだが、その魅力の音楽理論的な根拠はこれまで謎に包まれていた。

 しかしこの度、当シンクタンクではクラシックの楽典理論だけでなくロックにおけるコード・プログレッション理論を援用することにより、問題の箇所のコード進行を理論的に解釈することに成功した。まずはスコアを見てみよう。


図1:プリキュアOPサビ部分スコア抜粋(MIDIファイル


 伝統的な和声理論に従うと、まずルート(幹音)が「D(Z)→G(V)→C(Y)→F(U)→Bb(X)」と4度ずつ上がっていることに着目し、これを単純な4度進行と解釈することになる。ところがそうだとすると、図中で赤く印をつけたノン・ダイアトニック・コードの説明がつかなくなる。

 ノン・ダイアトニック・コードとは、曲のスケール(ここでは変ホ長調(Es dur))に標準では存在しない音を含むコードのことである。上記コード進行ではG7の第3音(B)、Fの第3音(A)が変ホ長調のスケール音(Eb,F,G,Ab,Bb,C,D)に含まれない音であるから、G7とFがノン・ダイアトニック・コードである。

 和音進行は通常、ダイアトニック・コードによって構成され、曲にアクセントや特殊効果をもたせたいときに、ノン・ダイアトニック・コードが用いられる。伝統的和声理論にもノン・ダイアトニック・コードの考え方はないわけではないが、上図にでてくるG7やFの意味は説明できない。

 単純な4度進行では「Dm7b5(Zm7b5)」から開始するコード進行は、以後「Gm7(Vm7)→Cm(Ym)→Fm(Um)→Bb(X)」と展開する。試しにこのコード進行でスコアを書き直してみよう。


図2:単純4度進行に書き直したプリキュアOPサビ部分(MIDIファイル


 特に曲としておかしくなってはいないことがわかるだろう。ちょっと聞いただけでは違いが識別できないほどだ。古典理論的にはこちらの方が自然なのだから無理もない。

 だがよく聞き比べるとどうだろう。図2の方はどことなく物足りなくないだろうか。弾けるパワーとその裏にある乙女の憂鬱、こういったプリキュア独特の魅力が消えてしまっているように感じないだろうか?

 コード中の1音を半音ずらすことが生み出すこの微妙かつ重大な違いを説明するのが、ロックにおける「セカンダリー・ドミナント進行」理論である。

 一般的に、スケール中のX7の和音からIの和音に進むドミナント進行が曲に力強い進行感を与えることは良く知られている。その原因の一つはルートが完全5度下降することによる終止感に、もう一つはX7の(第3音−第7音間の減5度音程がもつ)緊張感と、Iの(第1音−第3音間の3度音程がもつ)安定感とのコントラストに求められる。

 セカンダリー・ドミナント進行は、ルートを完全5度下降させ、かつ減5度音程−3度音程間のコントラストを発生させることにより、スケール中のX7以外の場所から出発しながらドミナント進行と同様の効果をねらう和音進行である。具体的にスコアに図示して説明しよう。


図3:セカンダリー・ドミナント進行に沿ったプリキュアOPサビ部分(MIDIファイル


 最初のノン・ダイアトニック・コードであるG7と次の小節のCmは完全5度下降の関係にある。またG7の第3音(B)と第7音(F)の音程は減5度、Cmの第1音(C)と第3音(Eb)の音程は短3度である。この減5度音程→短3度音程の進行のうちに独特の哀愁感/たそがれ感が出る、とロックの音楽理論では言われている。

 要するに、わざわざ変則的なノン・ダイアトニック・コードが用いられている理由は、緊張感のある減5度音程を作り出し、それをセカンダリー・ドミナント進行で解決することによって、強い音楽効果を出すためなのである。

 この線にそって次のノン・ダイアトニック・コードであるFを解釈すると、これはもともとは減5度音程をもつF7であり、そこから第7音が脱落してFになったとみなすことができるだろう。そしてこの減5度音程は、次の小節でBbの長3度音程に収束している。ロックのコード・プログレッション理論によると、このような減5度音程→長3度音程の場合は明るく力強い進行感が出る。

 一方における哀愁感/たそがれ感と他方における明るく力強い進行感、これらはそれぞれ先ほど指摘した乙女の憂鬱と弾けるパワーに対応する。

 原曲にはない音を付け加えていることから、この説明に不信を抱く向きもあるかもしれない。しかし図3添付のサウンド(Fに第7音を加えたF7で演奏が行われている)を聞いていただければ、こちらの方が原曲の魅力をストレートに押し出していることを理解いただけるのではなかろうか。

 所詮は子供向けアニメの主題歌と割り切れば、図2のように単純4度進行を採用するのがイージーだ。だがそれでは物語の魅力を引き立てることができない。そこでロックの手法を取り入れて曲に個性をもたせ(図3)、次にその個性があまり露骨にならないようにF7からそっと第7音を外した(図1)……作曲者の試行の道筋はおそらくこのようなものではなかったかと推測される。

 第2クール終了を間近に控え、そろそろOPが変わってもよいのでは、という声が巷では聞かれ始めたところだが、おなじみのOPをあらためてじっくり聞いてみよう。われわれは底の知れない奥深さを発見し、プリキュアが一流のオペラやミュージカルに決してひけをとらない『総合芸術』であることを悟るだろう。


参考文献

 『ピアノ・ピース ふたりはプリキュア』(ドレミ楽譜出版社)

 安東滋『コード進行の掟』(リットーミュージック)