Metamorphose

 


 問題はタイムロスだ。これさえ、もっと短く出来れば、きっと被害者を今よりも多く救うことが可能になるはずだ。敵の出現の通報を受けて、Gトレーラーが出動し、それから現場に向かう間に装着する。装着にかかる時間が、まずもどかしい。トレーラーはあの巨体であるから、現場が狭い路地などであれば、とても入りこむことは出来ない。ここでもまた、タイムロスが生じる。
 氷川は、真剣に考えていた。
 このタイムロスをなくす方法が必ずあるはずなのだ、と。


 そんな折、彼が助けたあかつき号に乗っていた乗客のひとりに、超能力が発現したことを知った。あの不思議な海難事故は、救助しただけでおしまいではなかったのだ。怪異は、いまだ続いている。そして、それはあの場にいた者たちに降りかかってきている。
 あの場にいたのは、乗客だけではない。
 氷川自身も、彼らを助けるために単身、あの船に乗り込んだのだ。
 ならば、もしかしたら―――。
 それを試してみる機会は、案外早く訪れた。
 先日襲われた男性の兄を護衛していたら、アンノウンが現れたのだ。すぐにでも助けなければ、彼は殺されてしまう。Gトレーラーの到着を待つゆとりはないし、自分からトレーラーに向かうなどして目を離してしまったら、そのすきにとどめを刺されてしまうだろう。
 氷川は、意を決して叫んだ。
「変身!」
 すると、予想通り彼は一瞬にしてG3に変身していた。
 やった!! このときのために、変身ポーズも考え、なんども練習を重ねてきたのだ。その成果が、今実った。
 氷川は、心のなかで快哉を叫ぶ。やはり、自分にもなによりも望んだ超能力が備わっていたのだ。嬉しい。嬉しい。ものすごーく、嬉しい!!!!
 けれど、なんてことだろう。こんなにすごいことなのに、単独で護衛をしていたために、この姿を小沢さんにも尾室さんにも誰にも見せることが出来ないなんて。なんだかんだと、いちいち絡んでくるあの北條さんでもいいから見せたいのに、彼すらいない。
 G3には戦闘中のようすを録画する機能が備わっているのだが、それも相手を映すことは出来ても、自分自身を映すことは出来ない。
 氷川は、こうなったら自分自身がしっかりと記憶にとどめておくしかないと心に決める。
 そこで、じっくりと腕を眺め、足を眺め、器用に振り返って背中のバッテリーまで確認してしまう。ああ、なんて素晴らしいんだろう。
 どこからどう見ても、完璧なG3である。この姿を、自分はトレーラーのなかで装着したのではなく、『変身』して手に入れることが出来たのだ。
「うわーっっっ!」
 すっかり自己陶酔を極めていると、男性の叫び声がそれを邪魔した。
 こんなにいい気分を害するのは、誰だ? と、きっとなって振り返ると、護衛していた男性が、今にもアンノウンに殺されかかっていた。
 G3である自分に見蕩れている場合ではなかった。と、氷川はようやく思い至る。
 そして、男性を救出しようと一歩踏み出したのだが、それより一瞬早く、あぎとが現れてアンノウンを吹き飛ばした。男性は逃げ去り、あぎとは、あっという間に敵を退治した。
 去っていくあぎとのバイクを見送りながら、氷川はほっと息をついた。
 それから、もう一度、自分の姿を確認する。戦闘に使用しなかったメタルボディは、夕陽をはじいて、ぴかぴかに輝いている。氷川は、表情の変わらないG3のなかで、にっこりと微笑む。
 G3が汚れなくて本当に良かった。

 

fin.2001.6.11
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「そのうち氷川君も変身出来るようになったりして」と、しげりさんが言うので、こんなモノを書いてみちゃいました。ネタをありがとうvでも、氷川ファンのしげりさんには不本意な内容だったかも、ごめんなさいです_(_^_)_