家族会議〜美杉家の場合〜
byりか
一寸遅れたけども―
「俺って、どんな風に見えますか?」
そう尋ねてくる翔一に、美杉は少し考えてからにっこりと笑った。
「マメってことかな? 料理洗濯掃除なんでもマメで、そうだなァ。直ぐにでもお嫁にけるよ」
「お嫁ですか…」
はは、と力なく笑った翔一に、美杉は更に追い討ちを掛ける様に細かく聞いてきた。
「それで? どんな人が理想かね? 私が知っている人にこういったことが大好きな人がいてね、世話をしてもらえるよ」
「は…はぁ…」
「駄目よ、おじさん。翔一君にはもうちゃんと思う人がいるんだから」
「ほぉ?」
真魚がすかさず話に入ってくる。
「そうそう、あの警察の人? ちょっと間が抜けてるけど、悪い人じゃないよね?」
それまでマンガを読んでいたはずの太一も話に加わってきた。
「警察の人? うむ? アア、氷川君かね?」
教授も直ぐに、氷川の容貌を思い出す。
「アア、彼ねぇ。そうかぁ。翔一君は面食いだなぁ」
「私は、葦原さんのほうだと思うんだけどなぁ」
うんうんと頷く教授に、真魚は異論を唱えた。
「葦原? ん?」
「ほら、前に翔一君が家出をしてた時に止めてくれた人。覚えてない? ツンツンの髪が立っていて、ワイルドな感じの」
「あ、ああ。一寸怖い感じの人ね」
翔一に言われて家庭菜園の様子を見に来た時の涼の様子を思い出す太一。
「彼は…その、どうだろうねぇ。まだ大学生じゃなかったかな?」
「そうだけど、でも翔一君とは凄く相性は良いみたいよね?」
同じ『変身』能力を持っていると言うのを相性と言いきった真魚が、翔一本人の返事を聞こうとする。
「まぁ、相性って言うか…氷川さんよりは近い位置にいるというか」
苦笑しながら答える翔一。
「なに! まさか、もう深い関係なんじゃないだろうね! いかんよ、結婚前にそんな事をしては! ましてやうちには真魚や太一のような未成年も居るんだし」
「お、おじさん…」
真魚が慌てて太一を見ながら教授を窘める。が、当の太一は全く普通に苦笑いをしながら肩を竦めた。
「お父さんこそそれは古いよ。いまどき結婚前の二人が何も無いって言うほうがおかしいなんて、小学生でも知っていることだよ」
「太一…」
思わず絶句する大人達に、太一は更に爆弾発言をする。
「それに、そう言った意味ならやっぱり氷川さんより葦原さんのほうが手が早そうだよね」
「……太一、一寸そこに座りなさい」
流石にあまりにも大人な発言に、教授も父親として心配になってしまったらしい。
「すわってるよ」
「…あ、いや。その…なんだ、お前はまだ小学生なんだからこういった大人の事情にはあまり加わらない方が良いと思う」
「そうかなぁ? まぁ、翔一が誰の嫁さんになってもべつに良いけどね。それより結婚後に、翔一がどこに住むかだよ。翔一がいなくなったら、ご飯とか、洗濯とか掃除、大変だよ?」
「ううむ…」
「確かに、それが問題ねぇ」
本当はもっと重大な問題があるんです…と思う翔一だったが、言い出すきっかけが無かった。
丁度その時に、電話がなった。氷川からであった。
「あ、明日ですか? ここに? いや、俺はべつに構わないですけど…」
チラリと見ると、教授も太一も、真魚もうんうんと頷いている。他にお客が無いのを確認してから、翔一は氷川の訪問を承諾した。
「噂をすればなんとやら…ね」
「よし、太一、明日は少し遅く帰ってきなさい。真魚もだ」
「え?」
「なんで?」
「決まっているだろう、翔一君と氷川君を二人にしてあげるんだよ」
「そうか、進展の無い二人にきっかけをあげるんだね」
「ええ?! ズルイ! それじゃあ、葦原さんが不利だわ! 葦原さんにも、ちゃんと同じチャンスを与えるべきだわ!」
ムキになる真魚の言葉を聞いて、漸く翔一は先ほどからの自分の疑問を口にした。
「あの、俺…ちゃんとした戸籍が無いんですけど、良いんですかね?」
――基本的になにかが世間とはずれている美杉家の様だった。
END―
2001.11.28