過去からの手紙

―葦原パパ1―

byりか




 数日ぶりにマンションに帰ると、そこには実家の様子を見に行ってくれていた叔父からの郵便物が届いていた。郵便受けの下の落ちていて、最近まで気がつかなかったが、かなり以前に送られてきていたらしい。
 取りだし封を切ると、そこにはまた雨風に晒された様子の封筒が一通、入っていた。
 あて先は自分、差出人は…。
「親父…」
 亡くなったという連絡を受けてから結構な時間が経ったように感じていたがこうして彼の文字を見ると改めてなんとも言えない胸の痛みを感じてしまう。
 同封されていたおじの手紙によると 彼が実家の様子を見に行った時に発見したものらしい。消印を見ると、香川県になっている。あかつき号が座礁して救出されたのが確か香川だったので、そこから投函したものの様だった。
「…親父…」
 懐かしさと切なさを感じながら、涼は手紙の封を切った。中味は所々濡れてしまってはいるが文字が読めない事は無かった。彼の知る、父親の実直な性格そのものの文字が白い便箋に連なっていた。

涼へ

 お前に久しぶりに手紙を書く気になった。私は今、あかつき号という船に乗っている。これから香川県に向っているところだ。
 私は、この船の中ですばらしい出遭いをした。素直で明るくて、なんと言っても笑顔が良い。何事も前向きに考えていて、そうして優しい。
 料理学校に行っているそうで、料理も得意なのだそうだ。家事全般、お姉さんと二人暮しだった時期が長かったそうで全てそつ無くこなせるらしい。
 年齢的にも、お前の嫁にピッタリだと思ってしまって、思わず連絡先と名前を聞いてしまったほどだったよ。本当によい子なんだ。****君という。
 東京に戻ったら、連絡を取る事になっているので一度直にお前にも会わせてやりたいと思う、きっとお前も気に入るだろう。
 何よりも、私が太鼓判を押す、きっとお前も気に入るはずだ。彼ならきっとかわいいお嫁さんになるぞ。
 まずは楽しみに待っていてくれ、では。

**月**日 あかつき号にて
―父より


 親父…、と呟いたきり涼はその手紙を握り締めて唖然とした。記憶が戻ったという翔一の話から彼があかつき号の中で、自分の父に会っていたのは聞いていた。
 そんな中、他に乗り合わせた人物の背景を思うに、この父の手紙の中の「良い子」が名前は違うがたった一人のことだとはっきりと判った。

「親父…ボケてたのか…」

 出来れば、そうであって欲しいと思う、涼だった。

―END―
2001.12.1