追 憶

 
 榎田ひかりの証言
 なぁに? 一条くんと五代くんのこと? それはもう、すっかり出来上がってるって雰囲気で、他人の入る余地なし、ってことじゃないかしら? もう、見たまんまよ、彼ら。
 で、なにが聴きたいのかしら?
 そうそう。未確認生命体にかこつけて、なんども会ってるって話ね。うん、そうね。もう、どうしてそんなこと電話ですまさないのかしら? って、首を傾げたくなっちゃうようなことでも、会って顔を見て話をしたいわけよ。まぁ、恋って、そんなもんかも知れないわよね。
 お互いの家を訪ねあったりもしてるかって?
 それはもう、頻繁に。なんじゃないのかしら? 別に見たわけじゃないんだけどね。二人の間に流れるあの空気よ。あれで、解らない人がいたら、よほど鈍感なんじゃないかな。
 で、五代くんの技の話ですって? そうね、なんか色々あるみたい。感心するのもあるし、それが出来てもほとんどなんの足しにもならないようなものまで、全部で2000個だって話よね。
 刺繍? それはもう、あのジャケットにしてたの見れば解る通りで、器用なもんよねぇ。お婿さんにもらって損のないタイプって感じかな。料理だって、バイト先が飲食店ならばっちりだろうしね。一条くん、幸せよね。
 とにかく、あの二人に関して語ってもいいって言うんなら、朝までだって語り続ける自信があるわよ。なに? もういいの?
 なぁんだ、残念。そう。だったら、またね。彼らの話をさせてくれるなら、いつでも大歓迎するからね!
 
 杉田守道の証言
 一条の彼女のこと? なに、彼女じゃなくて恋人のことが聴きたいって? それは、同じ話じゃないのか? 些細な言葉遣いの違いじゃないのか? まぁいいか。とにかく恋人のこと、な。
 いないはずはないだろう。最近、冷やかしても否定しなくなったし、心なしか誰かを思い出してるように幸せそうな表情を見せるようにもなったしな。最初は、無愛想な奴なのかと思ったが、よく見てると微妙な表情の変化も解るようになるもんだな。
 あんな色男だから、遊ぼうと思えばよりどりみどりだろうが、根が生真面目に出来てるからな。きっと一途に大切にしてるんじゃないか? 彼女のほうも、あれだけ見映えがよくても不器用で、そういう意味ではギャップの激しいタイプなのに、それでも一緒にいてくれるなら、よほど惚れられてるんだろう。よく、尽くすタイプじゃないかと俺は踏んでるよ。
 
 沢渡桜子の証言
 五代くんの恋人? そんなの私の口から暴露するわけにはいかないわよ。でも、誰でも見れば簡単に解るんじゃないかしら? 五代くん、思ってることすぐに顔に出るほうだし。
 でも、これだけじゃちょっと不親切かなぁ。ヒントくらいはあげちゃおうかな。
 だから、身近にいる人間のなかで、とにかく顔を見ただけで、土砂崩れ起こしてるような顔になる相手よ。
 あーあ、これじゃあヒントどころの話じゃないわね。まったく、回答をそのまま教えてあげたようなものだわ。
 気にならないかって? それは、全然。というか、幸せならいいんじゃないかな。今、色々と大変な時期だろうと思うけど、信頼できる相棒がいて、そのひとのことをとても愛してるというなら、祝福してあげる。
 五代くんの技の話? そうね、結構迷惑な壁のぼりなんてのもあるんだけど、でもたいていは他愛もないものばかりで、彼のキャラクターが生きてるって感じだと思う。ほら、なんにでも興味があって、挑戦してみたくて、いつだって前向きで目がきらきらしてるでしょう? だからこそ、いろんなことが出来るようになったんだと思う。
 これから? 第三者の出る幕はないんじゃないかな。もう、勝手に幸せやっててください。
 
 おやっさんの証言
 雄介の恋人の話? そんなの、いたかな? ああ、だけどあのコートぬいだハンサムさんのことを見る目は、本当にものすごく幸せそうだよね。自分の気持ちを偽ったり、取り繕ったりはしない奴だからね、雄介は。それが、今の本音ってことじゃないのかな。つまり、奈々には可哀想だけど、ほかの人間なんか眼中にないように見えるよ。
 技のこと? なんだ、特に刺繍が気になるのか? ああ、あのなんとかいうマークね。どうも、気に入ってるらしいけど、よく解らないよ、俺は。ただ、刺繍はホントに得意だよね。器用なもんだと思うよ。なんにでもしたがるから、ところ構わず落書きしたがる子供みたいなもんだけどね。
 そう言えば、雄介ほど子供の頃の純粋な気持ちをずっと変わらずに持ち続けてる奴もいないと思うよ。
 いつだったか、冒険に出たときもね。
 え? 冒険の話はいらない? そうなの? なんだ、これから面白い話になるところだったのに、残念だな。また、時間のあるときにゆっくり冒険の話を聴きにおいでよ。
 
 五代みのりの証言
 お兄ちゃんの恋人、ですか? 妹の私が言うのもなんですけど、いまいち色恋沙汰には疎いんですよね、兄は。でも、最近は、以前よりずーっと幸せそうに見えますよね。最初は、2000個目の技を手に入れた嬉しさから元気がいいのかな、とか、クウガになって、張り切ってるんだろうな、なんて思ってたんですけどね。どうやら、元気で幸福そうに見える理由はほかにもあるみたいなんですよね。
 真相は、本人にしかわからないことですよ。妹の私の憶測なんか、いらないでしょう。
 だけど、兄はけっこう、わかりやすい性格してると思うんです。だから、そばで観察してみたら、すぐに解ることなんじゃないでしょうか。
 兄が面食いだったとは、今まで気がついてなかったんですけどね。あの幸せそうな笑顔の源にいるのは、とても綺麗なひとだと思いますよ。
 嫌ですね。そんな、この歳になって兄の恋人に嫉妬なんかしませんよ。私も、ちゃんとした社会人ですから。おとなの気持ちで、兄の幸福を心から喜んでます。
 
 椿秀一の証言
 あの二人のことが聴きたい? 物好きだなぁ。もう、見たままでしょう。他にどうにも、言いようがない。
 一条の学生時代の話? あんまり面白いエピソードないよ。見てのとおりのカタブツだし。今とたいして変わってないんじゃないかな。生真面目で律儀で、とにかく一生懸命勉強してますって感じだった。正義感強くて、誰にでも公平で。どんなときでも毅然としてたな。とっつきにくい雰囲気はあったが、そういう誰にも媚びないところが、俺は気に入ってたよ。
 今は、それに比べたら随分やわらかい印象になったかも知れないな。それも、あいつのおかげかも知れないと思うと、なんだか業腹だがな。
 あいつのこと? どんな目に遭っても『大丈夫!』と言ってられるのは、強さなんだと思うよ。日頃どんな態度で接してようと、一目置いてるのは確かだな。どんな窮地に陥っても自分から笑ってられるところが、最大の武器だろうな。あの楽観的なところが、一条と対照的で、いい相棒だと思うよ。お互いに、足りないところを補いあって、言ってみりゃ、二人で一人前ってことなんじゃねぇかな。
 ところで君、いい鎖骨してるね? 食事でも? え、次が待ってる? それは残念。しかしな、他人の恋愛沙汰なんか気にしてるより、自分の恋愛楽しんだほうが賢明だと、俺は思うよ。大きなお世話? それは、失礼したね。
 
 夏目実加の証言
 一条さん? はい、覚えてますよ。警視庁の刑事さんですよね。とてもハンサムで、ちょっと見ないタイプだなって、それが第一印象でしたけど、でも、父のことをお願いに行ったときの対応は冷たくて、がっかりしました。
 警察に脅すような電話をかけて、それから海に行ったときのことですか? ええ、反省してます。子供じみた真似をしました。子供だけど、でも、父はもういないから。私は半分だけ早くおとなにならないといけないって今は思ってます。
 それで、あの海岸でのことが聴きたいんですね。どうしようかな。あんまり言わないほうがいいような気もするんですけど。
 私が一条刑事に謝って、泣いたときのことですよね。
 そうなんです。どんな場面でも紳士的な一条刑事は、白いハンカチを差し出してくれました。
 で、そのあとどうしたかって?
 私、笑いをこらえるのに苦労して、肩が震えてしまいました。でも、オンエアでは、泣いてるせいで強張ってるようにしか見えなかったみたいで、ラッキーでしたけど。
 なにを笑ってたかって?
 だって、一条さんの貸してくれたハンカチ、クウガのマークが刺繍してあったんですよ。
 あんまり可愛いので、私、あのお二人を見直したくらいです。それもあって、今ジャンさんのお手伝いをしてるところです。忙しくて精一杯頑張ってるひとたちの邪魔をするんじゃなくて、自分なりに出来ることから始めようって決めました。そうしたら、いつかは父を殺した犯人に、いきつけるんじゃないかって、今はそう信じてますから。
 
 
 そんなわけで、あの日、一条が夏目実加に差し出したハンカチは、微妙な角度で撮影された。
 ちなみに、インタビュアーが誰なのかは、作者にもわからない。
 

fin.2000.7.13