『カレー』



ボーイ隊に上がって1年目の話です。
夏のキャンプを成功させるために訓練キャンプというものが何回かありました。
だいたい1泊で淀川河川敷での隊キャンプです。
当時ぼくはキャンプが大嫌いでした。
何が嫌だったか具体的には覚えていませんが
とにかく、あの場あの空気がおっくうで
おなかの中に重たい石がつまっているような気持でした。
今思うと、いやな事を指示され班長が自分より力の弱いものに押し付ける、
押し付けられたものはさらに弱いものに押し付ける連鎖
いちばん弱いものは1年目のもので
ぼくたちはなんともしがたい無力感の中でひたすら耐えていたように思います。

当時キャンプの晩御飯といえばだいたいカレーでした。
作りたてのカレーはシャバシャバでした
野外で食べる料理は何でもおいしいだろうと思うかもしれませんが
つらさに耐えながらではおいしいわけがありません。
テーブルとかいすもなく、暗い中でめいめい散らばって食べていました。
だいたい、カレーのあとの洗い物は大変で
コーティングもしていない飯盒はすすが取れず
中身も底はだいたい炭になっています。

あるとき、ぼくは自分が食べなければその分洗い物が少なくなるかも
実際はまったく状態は変わらないのですが
そんな気持から、食器も出さずみんなから少し離れた堤防にすわって
ぼーっとしてました。
少しでも嫌な場所から距離を置きたい気持もありました。

しばらくすると同期の秋山君がぼくを心配して横に来て声をかけてくれました。
彼は自分のカレーを箸で食べていました。
食べへんの? 
うん、食べたくないねん。・・・・
そんなこと話したと思います。
しばらくしたら彼は、トイレ行ってくるなといって川沿いの草むらに入っていきました
ぼくの横には秋山君が置いていったカレーがあります。
おなかがすいていたぼくは、黙って少しもらいました。

秋山君は戻ってくると、またぼくの事を心配しながらいろいろ話しかけてくれます。
ぼくは黙ってカレーをもらった後ろめたさからうまく返事ができません。
しばらくすると彼はまたトイレに行くと言って草むらに入っていきました
ぼくはまた誘惑に負けてすこしもらってしまいました。
今度はさっきよりたくさん食べてしまいました。
そんなことがあと2回くらい続いてたのですが、
おかしいと感じることもないままいっぱい食べてしまいました。

再び秋山君がもどってきたところで
少し落ち着いたので今度はぼくがトイレに行きたくなりました。
暗い草むらのなかで用を足しさらに落ち着いた後
戻ろうと後ろを向いたとき、はっとしました。
草むらより少し明るい秋山君のいる場所は丸見えだったのです。
彼はぼくがカレーを食べてるのをしってて何回もトイレに行ってたんですね
とてもはずかしかったです。

それからキャンプでシャバシャバのカレーをみるといつも彼のことを思い出します。
同じようにつらかったはずなのに
あんなにやさしくできた彼のようになれたらいいなと思います。