文字化以前の指導の実践例


1.言葉の誕生を促し、言語活動を育てる段階での指導


指導内容

情動的なコミュニケーションの成立(ふれあう)
空間認識と世界観の誕生
一語文の前段階
一語文(要求から言葉へ)
名づけの一語文
二語文
単語と文の形式の整備と語彙の拡大





指導例1 ふれあう(運動から言葉へ

 ことばの発達は、全体的な発達の一部であり、言葉以前に生活があり、体の発達があり、情緒の育ちが大切となります。
特に、発達の遅れた子ども達には、大人との関係をしっかり作り、全身を使った運動や遊びを通して、大人の行動や発声に注意を向け、模倣する力を育てていってほしいと思います。


実践例

怪獣ごっこ 先生は、ある時は段ボールをかぶった恐怖の大王、ある時は、ジャージで首を隠した首なし男。
そんな先生を見て、子ども達はプレイルームをパニック状態になって逃げ回ります。
時には泣きだしてしまう子も・・・
怪獣に捕まった子は、恐怖のくすぐりが待っています。
かくれんぼ 校庭をマラソンしていて、突然先生が隠れます。
「今がチャンス」とフェンスに走って外の車を眺めている子もいれば、
「せんせい、どこだ・・・」と、探しにきてくれる子も。
そんなことから少しずつ、かくれんぼ遊びに発展していきました。
三輪車あそび プレイルームの人気は三輪車。プレイルームに積み木や段ボールを使って、サーキット場を作ります。
人気は、何にもぶつからずに上手に1周できたら、スタンプを押す教習所ごっこと、三輪車を2台使ってレースです。
みんな乗りたくて、けんかや衝突も起こりますが、「順番」や「待つ」ことのよい勉強にもなります。
手遊び歌 教師が覚えるのが大変ですが、努力してます。
今教室では「八ベエさんと十ベエさんがけんかして・・・」とやっています。


この段階では、教師が教壇に立って、子どもはいすに座ってなんていう普通の授業形態は成立しません。

ちなみに、そうした授業が成立するためには、
1.母親以外の人とコミュニケートできるようになること。
    (情動的なコミュニケーションから、一語文の段階に移ることによって乗り越えられる) 

2.目の前の世界の他に、教師の話す世界をイメージできるようになること。
    (二語文が成立すれば乗り越えられる)

3.自分の立場と相手の立場の関係を理解できるようになること
    (人称代名詞とこそあどの使用の理解で乗り越えられる)

一般的には、以上の3つの獲得ができて、ようやくいすに座った学習へと入っていけるそうです。


2.文字化以前の段階での指導

指導内容 指導例
音の認識 歌遊び・手遊び・音まねなど
音節分解 (ことばの聞き分け) 名前・指示と行動・単語の聞き分け・2音節の分解・3音節の分解
音節抽出 2音節の単語・3音節の単語
実物・絵の認識 仲間集め、実物の認識、絵と実物、絵と絵
線の認識と手指訓練
形の認識と手指訓練


指導例1 音の認識

だれの声? テープから流れてくる鳴き声を聞いて、何の動物かなどをあてさせます。
ペープサートなどを使って、指さしで答えさせます。


指導例2 実物・絵の認識

絵の指さし 絵カードや実物を使って、「○○はどれかな?」の問いに指さしで答えさせます。
最初は、教室にある実物(ランドセル、うわぐつ、バケツ、ボールなど)で始めました。
その後、デジカメで撮った写真や市販の絵カードなどへと変えていきました。
課題の出し方も絵の一部を隠すようにします。
ドラえもんのポケットの部分をくりぬきそこから絵カードの一部が見えるなど。
友だちの名前 子ども達一人一人の写真を前と後ろからとります。
コンビニのカラーコピーで拡大して、裏表をはりあわせます。
後頭部の写ったカードを見せて、「これはだれかな?」とあてさせます。
表出ことばのない子には、机の上に、子ども達の写真を置いておき、その中から正解を選ばせるようにしました。


指導例3 線の認識、形の認識と手指の訓練

描画の発達段階は、なぐりがき期から出発し、系統性をもって発達していきます。
文字を書くようになるためには、ただ鉛筆を持てばよいということではなく、視知覚面から見た発達も促す必要があります。
視知覚の訓練については、フロスティッグが視知覚能力促進法(日本文化科学社)を出しているので、それを参考にしたプリントなどを作って、子ども達に取り組んでもらっています。

視覚−運動の協応 はさみで直線を切る、指で線の上をなぞるなど、目と手指の連係動作を確実にできるようにしていきます。
トーマスの大好きなA君には、紙を細長く切って、まず、模型のトーマスをその紙からでないようにしながら、終点の駅まで走らせてもらいました。
その後、始点と終点にトーマスを描いた線の練習プリントなどをしました。
図形と素地 弁別〜教室の中の丸いもの、赤いもの、木でできたものなどを指さしさせます。
これは突然やってもできません。
その前に校外に散歩に出たときなどに、「白い家が見える?」とか、「あの木に小鳥がいるね」とか、「あの看板は丸いね」などと問いかけを繰り返したり、クレヨンのケースから特定の色を出してもらうことなどができるようにしておきます。
分類〜2種類以上のものの中から、それぞれを分類させます。
鉛筆と消しゴムをたくさん置いて、その中から鉛筆だけを集めるなど。
図と素地〜交差した線でも混乱せずに引けるようにさせます。
2本のひもを1カ所で交差するように置き、1本のひもを端から端までなぞらせる。
プリントで交差した箇所を意識するような課題をたくさん作って練習させました。


その他、知覚の恒常性(円、三角、四角などをいろいろの角度から見ても同じ形であることを知らせる)
空間における位置(前後、中・外、左右、逆転と回転などの関係)など。


この段階の学習は、工夫することでいろいろと考えられます。

色の違う○シールを使って、指定されたところに指定された色のシールを正確に貼る。
模造紙をつなげた大きな紙を教室の床に広げ、道路や町を描く。道路からはみ出さないようにミニカーを走らせる。
絵シールなどを使い、同じもの同士を線で結ばせる。
子ども達が興味を持ってくれるもの(ポテトチップの空き袋、機関車トーマスやあんパンマンの絵、おもちゃの空き箱など)をボール紙などの厚紙に張り付け、2ピースから10ピース程度のパズルを作って、取り組んでもらう。

線のプリント 線の練習プリント
トーマスをコピーして貼り付けて、
線路を走らせます。



教師の柔らか頭が試されます。


参考にしている図書

「ことばの力を生きる力に1〜3」江口季好著 民衆社
「障害児学級の国語(ことば)の授業」江口季好著 同成社
「障害を持つ子ども達の国語教育」(こくごのほん)江口季好著 あゆみ出版
「段階式/発達に遅れのある子どもの国語1・2」 学研
「学習レディネス指導シリーズ1・2」 コレール社
「ことばを育てる」 コレール社
「国語指導12か月」 学研
「かたち・ことば・かずのあそび」 黎明書房
「認識とことばの発達心理学」 ミネルヴァ書房
教材としては「公文」で出しているいろいろなカードも役に立っています。

     back            ホーム
     国語のページへ      トップのページへ