稲 妻
by Nina(1998.9.21)
好きでも、嫌いでもない。それさえ越えるほど、最初から、それは執着だった。
────稲妻の章────
結界を一回りして、光輪は、迦雄須一族の住まいに帰ってきた。大掛かりな仕掛けをしていても、結界というものは、所詮限界がある。特に、水や風のような、どこにでも存在し、欠かせては生きていられないゆえ、結界外に置くこともできないものから、完璧に防衛するのは、おそらく不可能だろう。
生きる為に、その生きることに必要な水や風を敵にまわるのは、あまりにも愚かである。戦っても勝ちやしない。
だからといって、人の思いは、どこに行くのだろう。
人間は、確かに、天空がいったように欲まみれて、水滸がいったように、自然の命を短縮しているが。
それでも、その思いはあまりにも純粋だった。
欲まみれになっても、共食いしていても、自分以外のものなら、どうなっても構わなくても。
生きたい、と、願う。
実際の声じゃないからこそ、真実だった。
道徳的には、あまりにも幼い。肉体的には、あまりにも弱い。自分自身を守る術をさえ、ろくに持ち合わせていない。人とは、そういう生き物だった。不完全な形でありながら、天界の自分達の運命を干渉できるほど、その精神だけは、何より強い。不平衡であるために、無意識に罪を犯した彼らが願うのは、単に生きるものなら、すべて共通する一つの望みだった。
感覚を限界まで押さえている天界にいる自分にでも、伝わってくる強い意志。それに、同調している自分。
人の痛みが自分のになって伝わってくる。光輪の能力は、そういう物だった。研き澄み過ぎている感覚は、普通に生きるのにあまりにも不適であるため、ほとんどの時は、使わないでいるが。
それでも、何度も何度も、間断なく聞こえている、単純にして純粋、生きている魂の願い。何に向かって発していいのかさえ分からないあどけなくて。それでも、止まることはなかった。
───生かしてほしい、と思う。
烈火には、自分達がいるが、人間には、だれもいない。
「ヒュウー」上からした音に、光輪は、頭を上げた。
目に入ったのは、天に旋廻している一羽の鷹だった。翼を広げて、傲然にして、その両の瞳の鋭さは、誰かを彷彿している。光輪が密かに好きだった、猛禽の目。
「来い」
光輪は手を揚げて、呼びかけた。その呼喚に応じて、鷹は、一つの円を飛んでから、光輪の手に止まった。
誰にも見られなかったのが惜しいほど鮮やかに、光輪は、微笑んだ。
この世がどう変わっても、変わらないでいるものは残る。大切な、何か。
鷹は、突然警戒する姿勢を取る。
「光輪」
声がした。
それを慰みながら、振りかえずに光輪は、答えた。
「迦雄須か」
「鷹は、確かに、天空の鳥だったな。」
翼ある一族はすべて、天空を主に仰っているが、鷹は、特に、天空に近い。今の状態からして、天空に情報を洩らすのは、けっして賢いとは言えない。
「別に、私に害するものではない。」
光輪は、しかし、平然としていた。
まだ何か言いたげな迦雄須を光輪は制止する。
「案じるな、天空なら、わざわざ調べなくても、我々の手の内など、お見通しだろうが。」
あまり安心していられない内容に、迦雄須は、苦笑した。烈火はまだ人界にいない。頼りになるのは、光輪一人だけだった。しかも、光輪が敵に回るのは、水滸だけではなく、誰より、光輪と共にいる天空をも。戦おうとは言ってくれたが、光輪は、戦えるのか。
迦雄須の不安は感じ取ったが、それを無視し、手にいる鷹に目光を落ちて、光輪は、淡く笑った。
人には、誤解されがちだったが、自分にとって、戦うのには、たいした理由はいらない。
すらっと一瞬、心に掠り過ぎた痛みだけでよかった。
人を取るかと、仲間を取るかと、選ぶのではなく。
どっちだと聞かれたら、全てだと答えるだろう。
全ての方がいい。それ以外の答えなどない。それ以外の答えなど意味ない。
欲が深いと、自分でも思った、勝手だとも。おそらく、誰よりも。それでも、そんな道を選んだのは、自分自身だった。
この思いは、誰かに分かってほしいとは思わないし、誰かに許してもらえるとも思えない。自分の行動は、元を辿れば、自己満足の現すだけだろう。ならば、この罪の重さを一身に負って、生きて行くしかあるまい。
そろそろ、天空と水滸は、行動に移るだろう、と、光輪は、淡々に思った。自分も何か準備をしなければ、と。迦雄須も、ずっと、側に、待っていてくれた。
「行け」
手を揚げると、鷹は空に向かって飛んで行く。自分は、戦場に戻る。
水滸とも、自分とも、戦うのが嫌だといった金剛。おそらく、彼の方が一番正しい。
...それでも、自分は、戦ってゆくだろう。
欲深きゆえに。
罪重きゆえに。
───優しさゆえに。
荊 棘
始まりがなければ、終わりは来ないと、彼は誰よりもよくわかっていた。
────荊棘の章────
地鳴りがする。
今度は、烈火ゆえではない。光輪の居城から戻ったから、ずっと荒っている地の長のせい。
「くぅそぉおおおおお!!!!」
広い居城の中には、金剛しかいない。いつもなら、賑やかすぎるほど人が溢れているのに。気さくで、面倒見が良くて、大らかな金剛に頼りに来る人、遊びに来る人、なんとなく、居心地がよくて、離れがたい人。城というよりは、市のようなとこだね、と水滸に評されたこともあったほどというのに。全ては、人たちの安全の為に、今から暴れたい金剛により、追い出された。
思いっきり拳を柱に当たった。それだけで、居城全体が揺られている。堅固と実用を誇っている金剛の居城ではの、済ませ様だが。ほかのところだったら、これだけででも、壊れかねない。
「すうぅごぉおのばかぁやろうぅっ」
親友の名を叫んで、本人に聞かれるだろうのを承知し、金剛は無遠慮に罵った。烈火大事とは、分かっているが、もっとほかのやりようもあるだろう!なにも、光輪と戦わなくても、いいじゃねーのかぁよ、と。
「おめーって穏やかっつっのだけが取柄なんだろー、いつもそれで血が昇りやすいねー、と俺をからかうってんのにぃ。人のこといえーのかぁよぉ!!」
沸き上がる怒りに止まる所がない。
「こうりんっ!おめーもおめーなんだぜ。そんなに戦うのが好きなのかー!冷静が売りもんなんだろうぅ!なんとかならねーかぁよ!」
もう一人の当事者にも、容赦なく罵声を浴びてやる。
「てんくうぅ!!!側にいりゃ止めてやりゃいいのにー!その頭は飾りもんかああああ!」
その絶叫の並じゃない大きさもあるが、空っぼの居城に、声はやけに大きく聞こえて、耳が痛くなる。
血が昇っているのが分かる。顔が熱くて、頭がくらくらする。体の震えが止まれない。
それでも、やめはしない。すぅと、大きく息を吸って。
「れっかぁのおおばぁぎゃろうぅー!!!!!!!」
いつも、一人で決める、この騒ぎの全ての、諸悪の根源。
はっはっはっと、金剛は喘いでいる。
「あああー、顔、あつっなー!喉、からからだぜー。」
一通り暴れたから、少しすっきりはしたが。
「俺は、許せ、ねーぞ。覚え、て、ろよ。水滸、光輪、天空...烈火。」
何時か、終わったら、一發くらいは、殴ってやるから。
でも、今、一番許せないのは、原地に留まってる自分。
「何、ぶつぶつ言ってんだろうー、俺様はっ。めーしくてありゃしねー。」
みっともない。
「落ち込むのも、くよくよしてんーのも、俺に似合わんだよなー」
そのはずだよなー。
とりあえずは、何とかする。考えるのが苦手だし、何とかならないかと悩むよりは、体を動かす。行動こそ、金剛の神髄。
「みてろーよ、一人でも、片付けやるぜー。」
覚えておくがいい。水滸、光輪、天空、烈火。また会う、いつかの日まで。
朔 風
厄介なのは人の心。
それは風よりも絡め捕り難いもの。
────朔風の章────
夜明けまでは、後一刻。
たとえ、結界の外ででも、川が近くに流れているのが分かる。水滸は水を率いる長であるがため。結界を通して操るのは、流石に無理だが、小さいな裂隙でもあれば足りる。
洪水を起こして、川から川へと、水ある所々に水溢れるようにしてやる。文明というものは、なぜか川の近くにいる。生物の全てが水なしでは生きて行けないのに、人間だけが、大きな顔して、川の恵みを独占している。
思うだけで腹が立つ...
が、この際には、都合がよかった。これで、人間以外の生物に被害が少なくなる。人間は自業自得だが、ほかの生物には、罪がない。
月が落ちつつ、闇が深くなる。予定の時間まで、すこしつつ近くなる。風を感じ、皮膚からでも伝わってくる緊張感。弓が満弦になって矢を放すのを待っている。
五、四、三、二、
いー!
何!!!
弓から離れた矢は、既定なところで、ではなく、中途に無理に止まって、次の瞬間、能源体になって、四散した。
水滸は声を荒げた。
「君っ!一体何をやってんだ!!」
天空の矢、それも既に弓を離れたものを、能源体に還すなんて。こんなことが出来るのは、天地に一人。天空自身だった。
振り返って目に入るのは、大地に単膝を着いた天空。無理矢理に、出した力を戻して、相当なダメージを受けている。
刹那の時間を過ぎて、夜明けとともに、光輪の結界が強くなった。せっかく自分が精密な計算をした計画を、自ら無に還した天空は、一体何を考えて...!
結界の中にいても感じられる、近づくもう一つの馴染んだ気配に、水滸は口から出ようとした質問を飲み込んだ。
「...馬鹿だね...君は...」
息が詰まって、どうしようもなく、切なくなった。代わりに呟いたせりふが、天空の耳に、届いているかどうかでさえも、もう重要ではなかった。
誰よりも、澄んでいる
───光輪の気。
懐かしい。
懐かしくて、胸が痛くなる。
光輪は、なぜここだと分かったのは、分からないが。もとから勘のいい人だった。が、いかに光輪とはいえ、天空と水滸二人を相手にし、分が悪いのは目に見えている。だからといって、戦いを避ける光輪でもない。
それを考え付いたのは、一瞬のことだった。既に離れた力を押さえたのも、咄嗟のことだった。
光輪を傷つけたくなど、なかった。
いや、そのように考えたというより、既に反射動作になったといったほうが正しい。と、天空は、この際になってようやく思い知った。
「まずいな」
小さく呟いた言葉は、風の中で、だれにも届くこともなく、散って失った。
五つの力の内の、一番、不安定な性質をしている、風。
五つであればこそ、仮初めの穏定を保っていた。
それが、何時の間にか、光輪一人だけに、依存することになった。
光輪の関心を、人間に奪われてほしくないのは、真実。人間を傷つけることによって光輪が心を痛めるのを、避けたいのも、また真実。
すでに、人間そのものには、関係などなかった。天空の選択は、はじめから、光輪だけに基づくのだった。
「...今ごろに気づいた、なんて、俺も、たいした間抜け、だ、な。」
どこからともなく来た痛みを押さえながら、天空は、自嘲した。
───光輪が不在な今。安定が崩れ、破滅がくる。
悔いは、ない。
こうなると仕向けたのは、誰でもなく、自分だった。
あの光に比べれば。安定が、正義が、理想が、世界が、なんだってよかった。
......ただ、何よりも、この思いを大切にしたかった。
朧 月
厄介なのは、人を思う心。
祈りを捧げ続ける思念。願って止まない想い。
────朧月の章────
風がなく。無規律に、無秩序に。
光輪は、かすかに眉を顰めた。
「馬鹿、者、が。」
誰がとか、何故かとかは、単語にないのに。聞いた人がいれば、この一言ですべてが分かる程、この言葉に重さがある。
自室の襖をあげて告げた。
「迦雄須。暫くの間、誰であろうと、私の部屋へ近づくな。」
結界の中で結界を張るのは、無理であるとも、とりあえずのことはした方が良いであろう。
人が去れ、周りが静寂に戻るのを待って、窓をあげた。月明かりが光輪に反応して、更に明るく輝く。
だが、流れてくるのは、何という冷たい風だろう。体の芯まで凍り付きそうだ。
来い。
声を出さずに光輪は言った。魂から魂への召喚。
来い、と。ここまで。
風の流れが強くなって、冷たくても、懐かしい気配は、そこにあった。意識無きにも自分に纏わり付く。触れた感情は、血を流れ、傷口が塞がらずにいる生々しさと似ている。
来い!光輪は、最後の砦を捨てた。
「!」
途端に侵入してくる魂は、狂喜と至福であり、慾と焦がれを感じ、独占と嫉妬を示す。愛しそうにも、切なそうにも。混ぜこんでぐちゃぐちゃで幾千にもある感情。強くて激しくて烈しい。
感情の押えに慣れた心は耐え切れずに、声無き悲鳴をあがった。
襲ってくるのは、自我さえ食い潰せる流。無遠慮にも魂の最深処まで。無理矢理に引き裂かれて、勢いに同調して、至福と悲鳴に巻き込まれ。揺れて、漂って、波の後には更なる波が続く。
───融合───
最後に覚えたのは、意識さえ焼け灼く、烈しい白い光の奔流だった。
癒せる銀の月光は周りを耀いた。
* * *
「え?」
一瞬にして凍る空気が消え、優しい大気に替った。
これは、自然現象であるはずもなく、水滸には、すぐ分かった。
...途端に和らぐ天空の気配。それに対して、格段に弱くなった光輪の結界。
「あんの馬鹿、捨てたらいいのに」
馬鹿にも、孤高にも、こうなるまでも、自分に弱みを見せなかった天空。
「それとも、君が弱音を吐く相手は、ただ一人だと決めてあったのかい?」
あの光でなげれば、嫌だというのかい?癒しの力など、水の主で自分にもあるというのに。
それを知らない光輪でもない。なのに、自分の身があやしくなるかもという道を選ぶ。確かに一番手っ取り早く方法ではあるが、自分の感覚が焼けるかもってのを知っていてするものか、普通。
「笑わせるな、戦えないくせに。」
戦えないのに、戦うしか選べない光輪の性。恨めしくても、いとおしい。
思わずに、手が顔を覆う。目頭が熱くなったのは、多分恥ずかしがることではないが。溢れてくる澄み透るものは、拭いても拭かなくても、変りはないだろうが。
「もういいよ。」
本当に、もうとうでもよくなった。こんなに簡単なことは、何故もっと早く気づかないのかが可笑しくなるほどに。
「もっと別の方法を捜そう。」
誰ととも戦わなくて済むように、誰かも傷付かなくて済むように。
烈火と、皆と、一緒にいる方法は、きっとある。
「だって、僕たちに不可能はないだもん。」
思わず水滸は笑った。
乱暴に門をあげた。
「天空!」
平和にも隣室の布団の中でまどろみつつ、至福であろう夢に浸っているお馬鹿さんを水だるまにする。
それでも睡眠を手放さないアホに、蹴りの一つや二つを入れた。
「???な!なにすんだよ!!」
目覚めさせたあまりな状態に真っ先に怒鳴ったが、二条槍の切先に声を失う。
「目が覚めたかい?さっさと行ってあの子を連れ帰るんだね。今じゃ、君なら結界に入れるんだろう。」
「え?」
間抜けにも生返事をする天空。残っているのは、夢の残骸。至福の余韻。寝る前のやばかった状況とは天地の差という事実。
「行けったら〜」
実力に訴えようとする水滸の手に届かない場所に逃げて、事態を悟った天空は、不敵な笑いを浮かべた。
「ああ、帰る前に、祝言の準備をしてくれたまえ。」
天空のあまりな言葉に眩暈を起した水滸は、頭を抱えた。
「寝言は、寝てからね。」
遠くから伝わった天空の笑い声に水滸もつられて笑みを覚えた。
こんな暖かい気持ちになったのは、久しい。後は烈火さえ戻れば、元と同じ。
「水滸」
「え?!」
この声は、まさか?
おそるおそる、振り返らない人にもう一度、声をかける。
「...水滸?」
このためらいがちのやり方は、何か自分を怒らせたときの、ある人の喋り方と同じ。
パシ!
「げ!」
見てるだけでまだましだな〜と、金剛は、呑気に考えた。
振り返ったなりに痛烈な一撃をくれて、挙句息が出来ないほど自分を抱きしめて盛大に泣いた古からの友をどうやって慰めたらいいのか、と。
───烈火は悩んだ。
鬱 金
───当たって砕けよ。
これが自分のモットーだと知った時、あいつは呆れ返った顔をしてたっけ。
「まあ、いいけど。別に期待なんかしてないからね。」
と薄情な感想をくれたりもした。
けどよ。ほかに何ができるっての?そりゃ考えがたりないとか、無謀だとか俺だって思わないわけじゃねーが。考えても何もならない時だって有るんだぜ。そこの所、おまえらより俺の方が良く知っている。
なによりも、俺らしくていいだろう。
......なー、お前らは知ってるか?人が人でいられるのは、これのほかには、何も要らないんだよ。
────鬱金の章────
中央にいる烈火の居城は、薄膜のような赤金な結界に囲まれている。
それは、その存在を隠す気などなく。自分を主張するように、周りを燃えるように熱くする。
存在そのものが有りのままで姿を現すのは、その主の気性だった故か。それとも、火というのは、元々から激しい、身を隠す所か、自分自身さえも燃え尽きるしか出来ない故か。
「もっと早く来れば良かったなー、こりゃ。」
やはり思った以上にショックを食らったのだろうか。世が始める時から、初めて仲間とのいざこざに動揺してんだなー。無理もねーとは思うけど。
「えっと、俺ってそんなに繊細だったっけ?」
そりゃ知らなかったよなー。
───天空あたりが聞いたら、腹を抱いて笑い転がるかもしれない思考に、一瞬、真面目に考えた。
悔しい。そのために浪費した時間が惜しかった。
思えばあの時から、ろくなものがなかった。悩む時は別に食欲を影響するわけじゃねーし、むしろやけ食いに走る質だが、何を食べてもおいしく感じることがねーなんて。
「生きる甲斐が半減したよーなもんだぜ。」
そりゃー、烈火と繋がっている光輪だったし、物事を判じるのに右に出るものがない天空なんだからなー。まあ、仕方ねーか。
もっと早く来れば、すぐ分かったはずなのに。
だって、烈火は、まだ、こ。こ。に。い。る。ん。だ。よ。
烈火は今、人界との狭間にいると判断した天空。そうだと肯いた光輪。そりゃ、光輪と天空の能力を疑うわけじゃないが、その言葉をそのままに信用したのがいけなかった。
ここが、まだ、これほど、烈火の色を強く受け継いだ、ってんのに。
狭間にいようか、いないようか、烈火はここにいるんだよー。この地に留まる思いが、そうだと、自分にうるさくほど訴えて来た。
残留思念というには、強すぎる。
思えば、烈火は自分達にも繋がっているんだ。そりゃ、光輪じゃないし、同質じゃないけど、それでも繋がっているはずだった。
心の一番深い所、に。
それが、結界に邪魔されようか、距離に妨げようか、当人に一時に否定されようとしても、変ることなどないのに。
「いるんだよー」
手を伸ばして、あえて防護せずに結界に触れた。
「っ痛」
結界の攻撃に、鮮やかな血が噴いて来た。
......紅い血。赤い結界。
流された鮮やかな血の為に、結界が揺らいだ。
「そりゃ、わかるんだよなー」
ずっと一緒だったから。仲間だと、分からないわけがない。
「俺も馬鹿だろうけど、お前はそれ以上馬鹿だったんだぜー。俺たちに手を出せるわけないだろうー」
....いないけど、伝わっている意識。繋がっている思いにからして、いないわけがない。
金剛は三節棍を構えた。
「まったく世話を焼かせやがって。おめーがいないおかげで、こっちが大変だったんだぜー!まさか知らんとはいわんだろうなー!!!」
「起きて自分自身で決着をつけろーってんのな!!!!烈火っっっ岩ーーー鉄ーーーーー砕ーーーーーーーー!!!!!!」
さっさと起きねば、狭間ところか、地の果てにまでだって追うんだ!!!
──────地の長が誓ったからには、その通りにするんだろう。
終 章
横たえる体を抱え起す。...この前抱きあげた時よりも、さらに軽くなったような気がする。
「まったく。一人でじゃ、ちゃんと食べるかどうかさえ怪しいもんだ。」
天空は、小さく舌打ちをした。元々食物にはあまり頓着する質ではなかったが、この軽さでは本当に病人なみだ。
窓から漏れた月明りに、光輪の白皙な顔が青白く照られた。
......それなのに、穏やかな表情をする。
────天空は、何故か心臓が鷲掴まれたような思いがした。
彼の人の冷たい頬を自分のに当て、部屋を出て、迦雄須の前に現れる。
いないはずの人の登場に迦雄須の息を呑む音が聞こえた。
説明するのを避けるのはたぶん単に面倒だろうから、天空は二文字を吐いただけ、背を向けた。
「来い」と。
......それは、すべての終わりを告げていた。
────終章────
「えっとね」
金剛の太い声がする。
「俺は...」
「好きだよなー」
が、句が終わる前に続きを烈火に奪われた。
「あぁー烈火ーおめーは〜、人のせりふを奪うんじゃないー!」
金剛は不平そうにいった。
「大体なー、今度だって、ぜん〜ぶ〜おめーが悪いんだ〜」
「うん。」
素直が取柄か、いや、単なる開き直っただけだろうと天空は思う。
「俺がちゃんと言ってなかったのが悪かったんだろう?だから、今度はちゃんと言うんだよ。好きなんだって。」
この屈託なき笑顔をみるために、今の今まで生きて来られたのだった。と、水滸は妙に納得した。
「わかるよなー、好きだよなー」
金剛と烈火がハモル。
「ああーうるさいな、お前らは。」
天空の小言は合唱の中に消えた。
「仕方ないね。」
水滸が嘆息した途端に、烈火の顔が引き攣った。金剛は気づいていないようだが、水滸が泣いた場面にいた証人は自分達だけなのだ。これは、結構後が恐い。
「ん?なんか?」
...かなり妙な表現だったが、烈火は、無神経な金剛の神経を尊敬している。
「嫌いなものは嫌いさ。今でも嫌いで嫌いで仕方ないけど。」
嫌そうな表情の水滸はなぜか拗ねている子供のように見えて、妙に可愛かった。
「仲間同士で戦うのはもっとっもっとっっ嫌だったからね。守ってやるよ、君たちの為に。」
そうだろう、と水滸は上目遣いで光輪の方を見た。
光輪は、ただ淡く笑っただけだった。
「俺は嫌だぜ。」
答えたのは、なぜか天空の方だった。
「守る所か、いつかこの手で滅ぼしてやりたくなるかもしれないぜ。」
えええっ、と驚く烈火と金剛の前に、手をひらひらして、
「まあ、そうならないように、せっせとかんばりなー。」
わめいて騒ぐふたりに天空はまったく気を止めない風情だった。
「へえー、それで光輪の気を引こうとするのかい?まったく、馬鹿なんじゃないの。」
水滸の一言で詰まる天空をみると、図星だったのようである。
「大丈夫だ。こき使ってやる。」
かなり素気ない返事だが、光輪の標準を考えると、かなり恐ろしいことが聞いたような気がする。
「えっとっ、光輪は?」
烈火が熱心に聞いた。
「...今更。言う必要あるのか?」
......見守っている迦雄須は、背を向いて、その場を離れた。
──────残ったのは、運命、......そして、シャラシャラと、錫杖の音だけだった。
[ END ]
後書き
……だから、この話は当征じゃないって(−−)いや、隠れ当征ですが……どうも、ラブラブロマンスのようなものは書けない質でございます。
読んで下さってありがとうございます。
最初と終章は、はじめから決めましたもので。本当は、天空が光輪を迎えにいった所など、いれないつもりだったんですが...当征の方々には悪い気がしてしまうので...え?いれてもあまりかわらんって?ごもっとも(m−−m)。
なんか、私の書く話は、段々長くなる気がするな〜天使の話の倍はあります....これは、次の話が心配になります。
心配といえば、征士ファン以外の方の感想が気になります。私は一人しかみえない(笑)質だったので、征士至上主義を地にいってると、ほかの四人は、書いて、違和感ないかな〜性格出せるかな〜とか、いろいろ悩んでます。が、やはり、こういうのは、自分ではよくわかりませんので、みんな、御感想をお待ちしております(m−−m)。
しかし、初めて五人とも出しましたね。やはり難しいな〜
光輪...もう何も言うまい。作者の煩悩を一身に浴びている人...ってこういうと結構不幸な気がしてきます(^^;)この話は、稲妻の章のためにあるようなものですから。(あとは、朧月の章...笑)
天空...この話の中では、結構純粋な気がします。おいしい場面もあることだし(笑)。前作のせいも有るし、もっとかっこよく書いておこうと思ったら、妙にひねくれてるようになりました。やはり玉砕かな(;
;)...(yu-yaさん、あなたの感想を頼りに気を落とさずに済みました)......当麻ファンの方々、どう思いますか?
水滸...出番のわりに、水滸の縁ある章はないぞ。これは、やはり伸を怒らせた、かな(^^;)と、思って、かわりに天空を人身御供に出しました(爆)。どうぞ、そいつで憂さ晴らししてください(死)...しかし、伸!あなたはいつこんな可愛い性格になったんだ!!!暴れたり、泣いたり...(以下続く)
金剛...かなりおいしい役割ですね。秀はやはりかっこよくなくちゃー。
烈火...話の流れではどうしてもこうなりました。一番損な役ですね。でもって、遼は好きですよ。書くのは苦手ですけどね。
稲妻の章。征士はこんな人だったらいいな〜と思ってます。純粋だけじゃない征士。誤解されやすいですけど。ちなみに私の書く征士と光輪とは、あまり違ってません。違う経験によって違う反応をしても、そことなく、やはり征士(光輪)に違いない...と。うまく書けたらいいな、と思います。
朧月の章。裏や○い(爆)せりふだけ見るなら、や○いと同じ...や○いは書けないから、こうなものにしようかと思いました。やはり玉砕ですね(^^;)。まなさんの御感想をもらって、とてもうれしかったです。
この話の裏設定で、SFを書いても面白いな〜と思ったりします。テレパシーの征士、瞬間移動の当麻、透視の伸、秀は...気づいた方いらっしゃいますかな...物から記憶を読み取る能力。遼はどうしようかな。發火能力でもいいし、純粋なPKでもいいですね。
では、いつかまた会いましょう。
by
Nina(1999.2.26)
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