夢見る月
by光 月湖(1998.9.21)
夢を見ていた。
上にも下にもひろがる宇宙。
きらめく星と、輝く満月。
隣にいたのは当麻。
見つめると、綺麗に笑ってその満月をくれた。
手の中のそれを、抱き締める。
・・・さあっと、風が吹き抜けた。
ぱしゃ、と水がはねる。
森をぬけた夜の湖。誰もいないここは落ち着く。
足先を水面に浸して、軽く蹴る。ぱしゃんとまた水がはねる。
繰り返す。意識しないままにまた。
頭はもう昨日のことで一杯、だった。
当麻の想いを、言葉にされた。
きちんとした返事が欲しいと、言われてしまった。
もうずっと予感していた事だった。けれど否定もしてきた事だ。
そのはずなのに告白されて安堵した自分が、いた。
この手を取ってもいいのだと。信じても良かったのだと。
そんなこと・・・考えていなかった筈なのに・・・
「征士。」
後ろから声がかかる。控えめに、そっと。
不思議と驚かなかった。探しにくるとしたら当麻だろうと思っていたから。
さく、と草を踏んで当麻はそのまま歩いてくる。
「もう遅いぞ。戻らないか?」
「・・・ああ、すまん。」
立ち上がる。
戻ろうとした途端、小さく名を呼ばれた。
「何だ?」
「・・・悩まないでくれって、我侭か?」
「当麻?」
「勝手なのは承知の上だ。でも、俺は苦しんで欲しくない・・・」
悩んで、苦しむくらいなら忘れてくれていいからと当麻は続ける。
多分ずっと見ていたんだろう。
どのくらい、声を掛けずにいたのか。
どんな気持ちで、私の姿を見ていたのか・・・。
「・・・当麻。」
「・・・」
「月をくれるか?」
「・・・・・・・何?」
「月、だ。」
つき・・・・・・ゆっくりと当麻が呟く。
しばらく考えた後、当麻は湖水をそっとすくいあげた。
「揺らいでるけど・・・これも本物だから。」
差し出されたのは夢と同じ光る満月。
水という鏡に映しとった、月の光。
色々な思いが一瞬にして駆け巡って・・・気がつけば笑っていた。
私は、手を伸ばした・・・・・・。
夢の話
――――すこし懐かしい夢をみた、その晩の話。
「・・・またえらい夢見てくれるなーお前っ」
聞いた当麻が沈没する。
「私も、何故そんな夢を見たのか分からん。まぁ思い返せば二年経っているしな、なんとなく感慨深い気がして今話した」
「二年、か・・・そっか」
改めて数字にすると感動だな、と当麻が付け加える。
「つくづく夢に縁があるらしい・・・あの時もそうだったからな」
「あの時?」
「お前に随分無理を言っただろう?」
「・・・そういう訳だったのか。あれ」
隣から覗きこむような姿勢で当麻が言う。
今日の夢の――友人という関係だけでなくなった、つまりは告白されたその時の夢だったのだが――あの時も、夢を見たのだ。
その夢のとおりにくっついた訳だから愉快な話だが。
本当に無理を言ったのだ。けれど当麻は夢のとおりに答えてくれた。
「あの時に間違ったら、俺駄目だったってことだよな」
「そうなるな」
くすくす笑って見上げると、良かったぁ〜、と零す。
「お前は答えてくれた。――嬉しかった」
だからこうして一緒にいるんだ。
「ん、安心したかな・・・正直巻き込んだような気もしてたから」
「無理を言った、と?」
「そう」
「馬鹿・・・私を何だと思っているんだ、お前は」
「不安はどうしてもついてくるんだよ。修行が足りないから」
ぽふ、と布団の上に倒れてくる当麻を受け止める。
「あれ?怒んないのか?」
「怒ってほしいのか?」
「いや、そうじゃないけど・・・今日は甘いな」
「そんな気分だからな」
ほら、と目の前まで来ている頬に触れる。
その手をとって、当麻は嬉しそうに微笑んだ。
[ END ]
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