で、わたしに遅刻をしろと?
うんうん。
嬉しそうに頷いて、当麻が腕に懐いてくる。
たまぁには、いいだろう?
もうろれつも回っていない。
しかしこのへべれけの状態が実は、半分以上演技だということを征士だけが知らない。他の面子はへらへら笑いながら傍観者にてっしている。
教えてやろう、なんて親切な奴は一人もいない。
わざわざ征士に教えて、格好の獲物を見逃す手も、馬に蹴られたくもないし。
だいたい、征士が当麻にだけは甘いのは今に始まったことじゃないし。
なんだかんだ言いながら、征士だって当麻に惚れてたりなんかすることは火を見るよりも明らかだし。
征士が自分の気持ちに気付いてない、なんてこともぜぇんぶ承知の上。知らないのは、本当に征士だけ。
そして、当麻が征士のことだけしか見てない、なんてことにも気付いてないのだから。後の面子は困ってるくせにたいへん幸せそうに輝く征士を黙って見つめている。
本当、馬鹿馬鹿しい。
その状態を惚れられてる当麻が楽しんでいたりなんかするのだから、もう救いようがない。
けして好きだなんて言わないで、じゃれついて遊んでいる。
もう少し、このままでいたいから。
どうせ今日も負けるんだろうな。
誰かが呟いた。
そりゃあ…そうだろうね。
当然の答えが返る。
もう少し変化があってもいいんじゃないか?
と、また別の誰かが。
くいっと杯を傾けながら、目の前の二人のやりとりを肴にして。
まぁ…あいつが現状打破しないかぎり、無理じゃない?
征士にそんなこと、できっこない。誰もそれを疑っていない。
そんな気、ないみたいだけど?
当麻に視線を送って、ぽつりとおとされた声。
気付いたら気付いたで楽しみがなくなるし…このままでいいのかもしれない。
残った面子それぞれが、まったく同じ結論にたどりつく。
じゃれついている二人は、周りのことなんて見えていない。
なぁってば。いいだろう?
ごろごろと喉を鳴らすようなお願いに、とうとう征士が折れる。
今度だけ、だぞ。
うん。
嬉しそうに破顔した当麻に、征士はそれ以上に嬉しさをにじませた笑顔を返す。
あららら。
学校、さぼらしちまうぞ、あいつ。
顔を見合わせて当麻を見ると、こっそり舌なんか出してみせる。
まんまと当麻の策にはめられた征士は、それでもやっぱり幸せそうで。
かーっ、やってらんねぇよなぁっ。
癇癪おこした誰かを置いて、当麻はさっさと征士をつれてご退場してしまった。
勝手にやってよね、もう。
すまない、と言い置いていってしまった征士ににっこり笑顔でこたえた誰かが、とうとうサジを投げた。
俺も一ぬーけたっと。
続いて誰かが。
泣き付いてきたって知らないからな。
いつまでおままごとする気なんだろうね。
まとまるんならまとまれば。
口は悪いけど、精一杯の祝福。
面とむかって言ってやんないけど、助けてもやんないよ。
もう関知しないから。二人だけでいちゃついてな。
クッションに顔を埋めるようにして眠りの淵から。
みんなの気持ちを代弁して。ぱたりとドアが閉まる。