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天羽
それは、ただひたすらに自分のためだけの、免罪符だったのかもしれないけれど。
昨日まで普通だったヤクモの、狂った姿に。 たまらなくなった。 切なくて、でもどうしようもなくて。何もできない無力感に打ちひしがれて。 そうして悟空は気づいた。自分だって、いつああなるのか判らないのだと。 なぜだか判らないけれど、自分と仲間達は妖怪であるにも関わらず自我を保ったままでいる。いつまでこうしていられるかなんて、なんの確証もないのに。わけもなく、いつまでもこうしていられると信じていた。 その、愚かさに。 なにか見えないものの力に、不意に気づかされてしまった。 自我のなくなる恐怖は、制御を外された一件の後にも、深く感じたことだけれど。 目の当たりにしたその姿に、たまらなく不安になって、救いを求めるように三蔵に縋ろうとした。でも、その頼む内容の残酷さに気づいて、後に続く言葉は飲み込んだのに。 それでも三蔵は、わかってくれた。 そして、迷いもなく告げられた。 「殺してやるよ」 欲しかった言葉を。 ためらいもなく。 呆然と見返した悟空に、淀みなく繰り返される免罪符の言霊。 「殺してやる」 いつも通りの物騒な三蔵の言葉が、このときばかり似合わないほどに穏やかに優しく響いたのは、どうしてだったのだろう。 胸がずきりとして、そしてその一言で、泣きたくなるぐらい安堵した。 三蔵の言葉は、誰よりもなによりも、信頼できる。 この三蔵が、オブザーバーになってくれるのだ。 いつの日か、突然他の妖怪のように狂ってしまったとしても。 悟空は、銀の弾に射抜かれて、いずこかへと還ってゆくことを、約束された。 いま、この身を包むのは、酷く甘美な、優越感。 最期を、この綺麗な顔を見ながら迎えられることを、保証する言葉。 それを、手にしたのだ。 いまだ、陶酔めいたふわふわとした感覚に、全身が支配されている。 歩く感触もないまま、嫌いだった雪道を歩く。四人身を寄せあって。 言いようのないやりきれなさと、むなしさと不安と。それらは確かにまだ悟空の中に残っていたけれど。 出口のない闇の中に差し込んだ一筋の光のように。 確かに三蔵の一言に、救われているとつよく感じた。
ただ、狂った自分を撃ったあと、三蔵がどんな顔をするのか。 それだけは、いくら考えても想像できなかった。
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