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BEWARE! Roving guard lion beyond this point! 我不見他乙是一千多年。 今天見了精神分外爽快。 久しぶりに作った天麩羅は、思いのほか良い出来で。 山芋の天麩羅を一口、また一口と味わえば、それと供にさくさくととても良い音がする。 「へぇ、山芋の天麩羅なんて初めて食べた。結構うまいんだな」 「だろ?」 料理を作った張本人、獅子走。 彼は、自分の向かい側に座って朱塗りの箸を上げ下げしている鷲尾岳と目を合わせ、にっこりと微笑んだ。 目を細めて自分の料理を味わっている相手の顔を見るのは、悪くない。 「まだまだ天麩羅あるから。残ったら明日は天麩羅蕎麦にしよう」 「俺は明日もここにいるのか?」 「今日は帰らないつもりでしょ?」 ※ ※ ※ 何週間ぶりに重なった二人のオフ。 たまには久しぶりに何処かに行くかという相手の提案を珍しく退けて、走は岳を自分の部屋へと連れてきた。行き付けの八百屋で秋野菜を買い、これまた久しぶりにと天麩羅を作り、今に至るというわけで。 「帰らない、じゃなくて、お前が帰らせないんだろうが」 「さぁね」 「…ったく。ほら、お茶煎れたぜ」 花茶の甘い香りが鼻腔をくすぐる。 先日上海から買って帰ってきたばかりというお茶は、走の部屋の戸棚の中にまだ大量に閉まってあって、緑茶や紅茶と供に、食後の一服に華を添えていた。 「サンキュ。あと、そこに置いてある赤い紙袋取ってくれる」 「ん……けっこう重いな」 「だって中身これだもん」 そう言って走が取り出したのは、華形の月餅。 包んでいるセロファンを広げて。走は手元にあったナイフを使って、それを八分の一ずつに切り分けた。岳は、それを面白そうに見つめる。 走は、その中の一つを摘まみ、岳の口元へと運ぶ。 「何しようとしてんだよ」 「はい、あーん」 「……結構甘いな」 「チョコより太らないよ」 「………」 「はいはい、怒らない怒らない。…そろそろかなー?」 時刻は夜の十一時を回るか回らないかといったところ。 やたらと窓の方を気にしだした走は、椅子から立ちあがり窓の傍へと歩いていき、おもむろに部屋の電気を消した。 「お前…何やって………ッて…!?」 瞬間。 暗いはずの室内が白く照らされ。 椅子やテーブルや、その他の家具の影が、部屋のフローリングに真新しい模様を描いていた。 その間にもてきぱきと作業を進める走は、ラグマットを敷き、その上に先程の月餅やらムーンクッキーやらを乗せた皿を置いて。カチャリとティーカップの音をさせて、全てを運び終わった時には、フローリングのリビングにちょっとした茶席が設けられていた。 「お月見しよ。今日は十五夜だからさ」 自分の足元から逃げる影を見て。走にそう言われて。 岳は、そういえばこの部屋の、この位置からは満月が拝めるのだと漸く思い出す事が出来た。 と、同時に。 過去に此処で走と身体を重ねたこと。 その肩越しに見えた月がとても綺麗だったことを思い出し、岳は知らず、身体の奥を疼かせた。 ※ ※ ※ 「問題。月から力を得る獣って何でしょう?」 「はぁ?何だよソレ。…狼じゃねぇの?」 「まあ月麿もいるしね。俺達的にはそれもオッケーかな」 「…お前さあ、『○○的には』って言い方やめろよ。もうすぐ二十五な訳だし」 「その前に自分が二十四になるクセに」 「同い年だな」 「そうだね…って違う!月の獣の話!」 「答えは狼じゃないんだろ?」 「まぁね。答えはね…」 そこまで言って、走は岳の後ろへ回り。 背後から抱きつくようにして、その首筋に唇を寄せた。 「ライオン」 「…ッ?」 「知らなかったでしょ。獅子って月神の化身なんだよ」 「な…?」 くすぐったさに堪えかねて、首を竦める岳を抱き締めて、走は猶も囁く。 「中東では月の事を『シン』って言うんだけど。…『シン』っていうのは同時に、獅子神の名前でね」 「…ん…っ」 「『シンガポール』の『シン』も月の、同時に獅子の神っていう意味」 「は…ぁ…」 身体の内部で燻っていた熱は、いとも簡単に引き出され。 ――BEWARE! Roving guard lion beyond this point!―― 数刻後。 ベッドへと押し倒された岳の脳裏には、そんな警告標識が点滅していた。 END? 2002.10.01. 脱稿 うみきんぎょ嬢、5000HITおめでとう! そんなわけで強引に押しつけ捧げSS。 (上海前の機内食お礼SSとも言う) 料理に夫婦にちょっとエロという、 ウチの獅子鷲の基本要素を抑えて基本に戻ってみました。 そして季節柄お月見も(笑) 月と獅子の話はマジな話。 なんだか色んな話の材料に使えるようなオイシイネタですな。 アジアばんざーい!中秋節おめでとう! 冒頭の中国語は魯迅の『狂人日記』のアレンジです。 ⇒ブラウザの『戻る』ボタンでお戻り下さい。
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