To hold You and make sure that You’ll be alright.





「別れてくれる?」
聞きたくない言葉程、はっきり聞こえるものだ。
「一ヶ月何も連絡しなかったのは、悪かったと思ってるよ」
「あのね、そういう事じゃなくて。なんかね、気持ちを長い間ほったらかしにしといたら、冷めちゃったみたいなの」
例えるなら、冬のスープ。いつか帰ってきて飲んでくれると思い、皿に注いだそれは結局、朝まで手をつけてもらえず冷たくなっていた。そんな感じと彼女は繋いだ。
「ドキドキしないの、海に。もういらない」


胸が締め付けられて、苦しい。
自分の意志とは無関係に、眉間に皺が寄り。
心臓が身体の奥に沈みこんで、それを背中から取り落としそうだ。

「さよなら」

そう言って踵を返し、一歩一歩俺から遠ざかっていく彼女。
砂浜から百三十四号線へ上がる階段を上って、道路を渡っていくのを目で追った。
その姿は、足から見えなくなっていった。

恋愛の終わりって、なんてあっけないんだろう。言いたい事だけ言い捨てて、その上捨て台詞まで言い放って去った彼女も卑怯だ。だが、こうなる事が――破局を迎える事が半分くらい見通せていて、その決定的な瞬間を先延ばしにしていた自分も卑怯だ。

足も、頭も、腕も。
身体の全てが重い。
海からの湿った風も、スニーカーの上に積もってゆく砂も。
何もかも、全部が重い。

そのままそこに座り込んで、どれくらいの時間が経っただろうか。
ここに来た時南中していた太陽はとっくに傾き、西の空が紅に染まっている。
鳥達が塒へと急ぎ、その群れの影はまるで太陽の黒点のようだ。


バサ…ッ


鳥の羽音。それも、相当大きな鳥のようだ。
こんなに人の近くに降り立つ鳥なんて…

そう思ってもまだ振り向く気にもなれず。
ぼんやりと焦点の定まらないまま、寄せ返す波の音を聞いていた。


「おい」


声がする。
一ヶ月前、俺の生活を変え、一ヶ月間ずっと聞き続けていた声。
ガオイエロー、鷲尾岳。その人の声。

テンションの低い頭で、不自然な程冷静だ。
考えて見ると、イエローがここに来るのは当たり前なんだよな。
今朝、何も言わずにガオズロックを出てきたし。テトムの力とこいつの飛翔能力があれば、俺を探す事など、容易いし。

「ふられちゃったよ」
何か言われるのが恐くて、先に吐き出した。
重い身体とは反対に、その声は自分でも吃驚する程軽かった。
あれ?俺、落ちこんでた筈なのに…

「そうか」

軽いついでにもう少し自嘲気味になってみるか。
「『ふられて傷心の海くんに何をしたらいいでしょう?』三択ね?
 一、おいしい料理 ニ、つれ帰る 三、殴る」


「『四、抱き締める』」

「ッえ!?」


背中に、イエローの胸。イエローの腕が顔の下で交差されていて。
俺は、後ろからイエローに抱き締められていた。

多分、膝立ちになってるだろうイエローの鼓動が、背中越しに伝わってくる。それはひどく俺を安心させた。

『ふられた』事がショックだったのではなく、『自分の存在を否定された』事がショックだったんだ。

必要とされたかった。
求められたかった。

背中から感じるぬくもりは、イエローの存在を感じさせる。
と同時に、俺が必要だ、そう言っていた。


    ※    ※    ※


「帰るぞ」俺の首から腕を外し、立ちあがったイエローが言う。

「うん」




帰ったら、部屋にある、ハンガーにかけたまま一度も着た事の無いあのジャケットに、袖を通してみよう。








                END




2001.12.4.   脱稿

坦々とした感じが出したかったプラトニック鷲鮫話。
いや、鮫鷲…?
それにしても鮫は書きやすいです。自分に似てるからか?

鮫がガオレンジャーになって一ヶ月後の話。

最近は健全大量生産です。
えらいなぁ自分ー…