|
There's one thing for sure, I don't know it's true. 春に霞める世のけしきかな (式子内親王 『新古今集』) 薄桃色の桜。 決して快晴とは言えない天気。 生温い風に散らされて、はらはらと舞い散る桜の花弁。 それこそが、春の情緒。 ※ ※ ※ 「ッちっくしょー!」 「オルグ、待ってろよ!!」 そんな情緒からは一億光年かけ離れたところ。 ガオイエロー・鷲尾岳とガオレッド・獅子走は、春の町並みを疾走していた。 この町にある八幡宮にオルグ反応が出た。 しかし、ガオズロックで向かったはいいが、神社の側に駐車(?)する事もできず、反応場所からかなり離れた所に着陸し、反応場所まで自力で走って攻める事になってしまった。 どうやら中々素早いオルグのようで、それならば三方から追い詰めた方がいい。 そんなリーダーの提案に沿って、ブルーとブラックは町の西側から。シルバーとホワイトは東側から。 そしてレッドとイエローは南側から、町の最奥にある八幡宮に向かっている。 町の南側からは、八幡宮まで参道も兼ねた桜並木道が続いていて、どうやら其処を通るのが一番の近道らしい。 この春の陽気のせいか、満開になった桜で桃色に染まった景色。 そういえば、ガオの戦士となってもう二ヶ月近くが経つんだな。 前を走る背中の黄色を見つめながら、レッドはそんな事を考えていた。 イエローの背中を前にして走るのは何回目だろうか。 前を向いて、がむしゃらに突っ走るその背中。その姿は敵ではない、違う何かに挑んでいる様にも見えて。 そんなイエローの背中。 強い様でいて、ふとした事で揺らぐ彼の瞳と同じ位。 それ位、庇護欲を掻き立てられるのは何故だろうか。 否、庇護欲と言い切れてしまう程の感情ではない。 「あ!」 ふいに声を上げて、レッドは立ち止まった。 「なんだよ?オルグか?」 レッドの声に反応して、数メートル先を行っていたイエローもその場に戻ってきた。 立ち止まって、ある一本の木を見上げているレッドの横に立ち、視線を同じ方向に向ける。 「桜が…咲いてない」 満開になっているソメイヨシノに囲まれて、未だ蕾のままである一本の桜の木。 その蕾は五枚花弁の桜に比べてかなり大きく、一本の枝先に鈴生りになっている。 「八重桜…だろ?確か、ソメイヨシノよりも花が咲くの遅かった気がするぞ」 「そっか。八重桜か…俺、あの花好きなんだよ。ポンポンみたいで可愛くってさ」 「俺も好きだぞ」 「え?」 オルグを追っているこんな非常時に、立ち止まって会話をしてくれた事だけでも珍しいのに。 好きだ。 そう言ったイエローは、自分に向かって笑っていた。 「花の飾り。幼稚園とか小学校とかで作るだろ、ふわふわの紙で、真ん中輪ゴムで縛って。あれ思い出すんだ、八重桜見ると。」 ――――あれ? こいつの隣に立って、桜の木の下で話をする。 前にもそんな事があったのではないだろうか。 ――――『桜を愛でるなら……お前とがいい…』 そう言ったのは誰だっただろうか。 微かな既視感に襲われ、目を瞑って軽く頭を振る。 そんなレッドを不思議そうに見ながら、イエローは言う。 「一週間位したら、また来るか?そうしたら、きっと咲いてるはずだぜ」 言って、またあの笑顔。 「そうだな。一緒に見に来よう?」 「ああ」 肯定の返事を短く残して、再び走り出すイエロー。 翻るジャケットの裾を追い、地面を蹴るレッド。 そんな彼らの気持ちは不確かで、無自覚。 けれども何時か訪れるだろう。 不確かなその感情 それこそが、何よりも確かな事だと 何よりも、真実であるのだと 気付く そんな瞬間が。 END 2002.03.02. 脱稿 るい様からの1900リクで、お題は『獅子鷲』でした♪ …時間遡りまくりな上に(しかも季節先取り) ほんのり両想いという感じになってしまいまして…(汗) しかもこっそり平安獅子鷲とリンクしてます(どうやら書くつもりらしい) 八幡宮とは、鎌倉にある『鶴ヶ岡八幡宮』。桜並木は『段葛(だんかづら)』。 八重桜も本当にあります。地元ネタですみません〜(><) 獅子鷲、書いててめっちゃ楽しかったです★ るい様、リクエストありがとうございました! ⇒戻る
|