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Now, it's time to dancing along..So hold on.. 竹の梢とか 海に帆かけて走る船 空には浮雲 野辺には花薄 松風や音羽の滝の清水を むすぶ心は涼しかるらん 春にしては生暖かい風が、袖口から入り込み身体を撫でてゆく。 今年の桜ももう終わりであろうか。 暗闇に飛び散るは、桜花。 音羽山の錦雲渓に囲まれて。 暗闇と、月明かりと。 哉生明が照らす夜桜の白だけが、目に訴えてくるのだ。 時は丁度子の刻。 白銀 何をすることもなく、ただ腰掛けて、周りをとりまく桜花に瞳を寄せるのみ。 何をすることもなく、ただ腰掛けて、音羽の滝の水音に耳を寄せるのみ。 白銀は時々、こうして一人静かな場所で夜を過ごす事がある。 それは決まって、満月が過ぎ月が痩せはじめてからの事。 ――月の満ち欠けに左右される己の力。 己が力の未熟さを羞じるように、白銀はぎり、と拳を握った。 ――今日も、鬼を仕留め損なった。 目を瞑らずとも、昼間の戦いを思い出すのには、この暗闇は十分過ぎる程だ。 緋赤 しかし、刃は鬼に届く事無く… 翔けつけた青藍 月が満ちゆく時には、誰よりも力を発揮する事が出来る自分の身体。 しかし、月が欠けてゆく時、仲間達の足手纏いになってしまうのは、今までの戦いからして火を見るより明らかである。 それに加えて、今日の自分の失態。 鬱々とした気持ちは膨れ上がり、今にも白銀を押しつぶしてしまいそうだ。 「いっその事、大原へでも姿を消そうか…」 そう呟くと、白銀の頭上から聞き覚えのある声が降りてきた。 「大原へ?…隠棲でもするつもりか?」 「っ青藍!?」 「そんなに驚かずとも…」 そう言って、白銀の頭上にある、清水の舞台に立っていた青藍は、舞台の床をとん、と一蹴りし、白銀の隣へ降り立った。 「青藍…お前はどうしてここへ…?」 「舞っていたのだ」 春の宵とは春の酔い、とは良く言ったもの。 肌を掠る春の夜風だけを身に纏い舞うのは、何ものにも換え難い。 それを良く知る青藍は、時々この音羽清水の寺へ赴いて、人知れず舞っているのだ。 「舞いを?」 「ああ、この舞台の上は俺の気に入りの場所でな…それに…」 青藍が扇を広げると、瑠璃色の飾り紐がしゃらりと揺れる。 左方で二度三度と扇を翻すと、左下に見える音羽の滝から銀色の糸が昇ってくる。 否、糸のように見えたのは、細い細い水柱。 それを扇で受けとめると、さらりさらりともてあそびはじめた。 「こやつ等と、たまには遊んでやらぬとな」 くすくすと笑いながら、青藍ぱちりと扇を閉じる。 と、それが合図になったかのように、水糸は龍の形へと姿を変えて、白銀と青藍の周りを飛び回り始めた。 その様子を愛しそうに眺めながら、青藍は白銀へ問いかける。 「昼間の事…まだ悔いているのか?」 「………」 俯いたまま答えようとしないのを見やると、青藍は閉じた扇を再び広げた。 「ふむ…白銀の心の雲天が少しでも晴れるよう、この青藍が一肌脱ぐとしようか」 そして、広げた扇で白銀の頭を軽く撫でると、横柱から飛び降りた。 「せ…青藍っ!?」 白銀が思わず声を上げた。 それもその筈、清水の舞台の真下は、池である。 そのまま飛び降りれば、水の中に落ちてしまうのは必至、しかし… 「縹 音も無く。 ふわりと水面に降り立った青藍は、未だ横柱の上に座ったままの白銀を見上げて、楽しそうに声をかける。 両手を横に大きく広げると、池の水が何本もの糸になり、青藍の周りを取り巻いた。 細い細い透明な銀糸が月明かりに照らされる様。 それは、薄絹よりも繊細な仕立の羽衣のようで。 その水達を連れて、青藍は舞いはじめる。 濃き紫に違はるべくも 此処にしもわきて出でけむ岩清水 神の心を汲みて知らばや 岩清水 深き誓の流には 幾せの人か渡されぬらむ 扇の飾り紐と同じ、瑠璃色の平緒が風に揺れて。 青藍が水面を滑ると、水面に散らばっていた桜の花びらが流紋を描く。 青藍が纏っていた水達も、舞いに同調するかのように、しゅるしゅると舞い遊ぶ。 それに更に同調するかのように、少し強めの風が渦を巻いてやってきた。 風の手に撫でられた桜が、耐え切れなくなったかのように白い欠片を零す。 頭上から降りそそぐ桜吹雪の中で、青藍は呟いた。 「黄櫨!?」 戯れていた水糸を一本の太い綱のようにして束ね、それを巧みに操って、白銀の元へ戻ってくる。 「黒黎 そう言い残すと、青藍は御堂の屋根に飛び移り、たんたんと拍子の良い音を響かせながら去っていった。 その慌てた様子が可愛くて、可笑しくて。 嵐が去った後、白銀は一頻り笑いつづけた。 笑い疲れて夜空を見上げると、そこには先刻より、ほんの少しだけ傾いた月が座っていた。 自分の心が切なくなるのは如何すればよいのか。 ――その答えが出るのはきっと、そう遠くはないだろう―― 2002.04.07. 脱稿 シルバー誕生日記念SSです。 しかし出来あがったのはなんと平安牙吠連者…誕生日とはかけ離れてます(笑) しかも白銀と青藍しかでていない有様…(でも何気にオイシイのは黄櫨だ) 今様はいつもの通り梁塵秘抄から。(採用順に三七三,五一〇,四九六,四九七) 『松風や音羽の滝の清水を〜』は西国三十三所観音霊場第十六番の札所としても有名な、清水寺の詠歌です。 なんか平安なら何でも許せるような気がしてきたぞ…(笑) この話の元ネタは、先日京都に赴いて、清水寺の夜間ライトアップで境内を散策中、供に旅行した吉田じょにぃ。嬢との萌え会話によるものです。 因みに、タイトルの『hold on』は一般的な意味合いじゃない方です。 ともあれ、シルバー、T山氏(こっそり)。誕生日おめでとうございます。 平安ばんざーい!雅ばんざーい! 祝いごとらしくJava使ってみました。 重くてすみません…IE4.0以降で見れるはず。 ⇒戻る
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