今ハ昔、時ニ一ト云ハレル巫、有リケリ





――神の託宣を取り次ぐ女たちを『巫女』とするならば…――


「紫殿」

青藍せいらん?」


背中を向けて花を愛でていた其の人は、振り向いて

そう言って振り向く姿さえ、音がついて見えるようで


白くたをやかなその髪が、曲線を描いてまたその背中におさまるまで

彼の人の動作には、全くと言うて良い程無駄が無い


「どうしたのです、青藍?」


黙ったままの俺に、其の人は不思議そうに首を傾げて

肩にかかった銀白が、さらさらと音をたてて滑り落ちる


計られた美と云ふものではなく

つくられた美と云ふものでもなく


白さとは、かくも美しきものなのか


人の心の美しさには白さには、まこと及ぶものなし



「また、舞いを教え授けて下さりますか?」



微笑んで



「はい」



※     ※     ※



昨日は、本当にとっても楽しかった。

イエローの作ってくれた大きなケーキ。
ブラックがアレンジメントしてくれた大きな花束。
皆でやった、七ならべやばば抜き。

色々なことを語り合って。
ふざけて、じゃれて、小突きあって。

そして、自分にとって何よりも大切な日。

其れを、皆はくれた。

その大切な記念日は、自分にとって一番大切な人達がいないと成り立たない。
自分一人では、記念日なんて呼べない。

そう。


一人じゃ、ない。


    ※     ※     ※


「ねぇ、本当にいいの?」

「俺が良いと言っているのだから、いい」


昨日、天空島で嬉しい出来事があったばかりなのに、今日の自分もこんなに幸せで良いんだろうか。

朝、シルバーの呼び出しがあって、ある小さな駅の前で待ち合わせをして。
神妙な顔つきで、『何処か行きたい処はあるか?』なんて尋ねてくるから、思わず吹き出してしまった。笑った顔のまま、一緒なら何処へでも、って答えたら、満足そうに微笑んでくれた。

改札口を出て真正面に、少し大きめの横断歩道。
それを渡って少し歩くと、交差点で信号待ちをする場所に、一本の小さな木があった。

「桑の木だな」

「そうね」

特徴のある葉でそれと解る。それは、千年前にも良く見かけた木。

「実、なるかな?」

「秋にまた見に来るか?」

「うん」


長い直線の道を歩いていくと、突き当たりに朱色の大きな鳥居。
半円と思えるくらい、急な形の太鼓橋を渡ると、広い参道が待ち構えていた。


「まだ、その癖が治らないのか?」

「うん、もう染みついちゃってて」

参道は神様の通り道。
巫女は、神につかえる者。
決して真ん中を歩いてはいけないというのが、紫おばあちゃんからの言いつけだった。
其れ以来、参道に限らず、こういった石造りの道の真ん中を歩いた事は無い。

参道の突き当りには、鳥居と同じ朱色をした大きな建物があった。

「舞殿だ」

その建物は、高床になっていて、屋根の下の空間が吹き抜けになっている。
床は建物の外側と同じく朱塗りになっていて、床板の隙間も殆ど無く。
多分、ここで奉納の舞など踊ったのだろう。


「紫おばあちゃんの舞いって、どんな感じだった?」

奉納の舞。
歌と共に、巫女は舞いが堪能でなければならなかった。

「紫殿は…青藍を師事するばかりで…あまり舞われる事はなかったからな…」

そういえば一度、と彼は言う。

「五節舞を見たことがある。俺も隣で舞っていたが…それはそれは、美しい舞いだった…あれでは、一度見た者はたちどころに魅了されてしまうだろうな」

「へぇ…いいなぁ…私も見たかったなぁ…」



     ※    ※    ※



今日は楽しかったなぁ。
あの後、方々にあるお寺や神社を見て、クレープを食べて、買い物もして。
途中で、シルバーが自動改札に挟まったり、エスカレーターでこけたり、ちょっとしたハプニングもあったけれど。

そして、今。
私達二人は、天空島に来ていた。

丘の上で、並んで二人、寝転がって。
何をするのでもなく、ただ、流れる雲を見ていた。




「ねぇ、シルバー」

「何だ?」

「ダンス、しない?」

「『だんす』…?」

「現代の舞のことよ」

「俺は、現代の振り付けなんて解らないぞ」

「大丈夫、体術は解るでしょ?」

「ああ、覚えている」

「身体捌きはそれと一緒だから。よし!おどろっ?」



    ※    ※    ※




…昨日の忘れ物を取りに戻っただけなのに、何で俺は藪の中から出歯亀なんてしてるんだ?
…隣には何故か、走せんせーと岳もいるし。
俺と同じ、忘れ物を取りに戻ったとか言ってるけど、怪しいもんだ。

って…大切なのはそこじゃなくて!


俺達は藪の中から出て行けない理由。
それは勿論、俺達三人の視線の先を見れば解る事。


…あんなに幸せそうな二人を見ちゃったら…ねぇ…?


それにしても、二人とも上手いんだよなぁ。ダンス。
俺もダンスやるから、上手い下手には結構敏感なんだけど。

テトムは巫女だから、舞いとかダンスが達者でも不思議はないけど…驚いたのはシルバー。
リードはされてるけど、ちゃんと様になってる。


息もぴったり。
楽しそうなテトムの顔を見てると、こっちまで嬉しくなってくるから不思議だ。


へぇ…ホント楽しそう。

今度俺もテトムにダンス習おうかな?





――敬愛する、大切な大切な其の人の幸せに。――


藪の中にいる三人で、にっこり笑ってサムズアップ。



    ※    ※    ※




「そういえば…ねぇねぇ」

「なんだ?」

「思い出したんだけど…『五節舞』って…女五人で踊るのよねぇ?」

「…!!」

「『隣で舞った』って…どういうこと?」

「…ッ!…そ…それは…」









              END?












2002.05.18. 脱稿

まんぢゅう、HAPPY BIRTHDAY!!
ギリギリアップですみません…
しかも小ネタばっかりちりばめられててすみません。
テーマは『W巫女様に愛を!』でした。
あと鎌倉デート(こっそり)
話しとしてはうみきんぎょ嬢のサイト『サンライズ!』にあるまんぢゅう誕生日記念SSの一日後です。
彼女のいない間にこっそりコラボレ。

平安青と現代青ビジョンで書いてみたり、ちょっと遊んでしまいました(笑)
しかももしかしたらこのSSにおまけがつくかも。
アレかもしれないしアレかもしれないです。ふふふ。

ホント、誕生日おめでとう♪
今年になって、やっと祝えましたよ。四人の中で一人ずば抜けて早いのにね(こっそり)
貴方にとって今年一年が、幸多きものでありますように。
これからもよろしく★
花開富貴!生日快楽!!