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2002年11月26日 秋生まれの君に。 冬が逼り、冷涼さの混じる秋の空に。 ひらひらと、山吹色の扇が舞う。 「散り際の銀杏とは、げに恐ろしきものだな」 緋赤は、己の袖に迷い込んだ扇を摘み、機嫌よくさくさくと前を行く男に声をかけた。 晩秋、嵐山。今は紅葉の盛りなり。このような日に公務など行ってはおれぬと、不真面目な殿上人が二人。 黄櫨 緋赤がその術に気付くか気付かないかのうちに、あたりに小さな旋風が巻き起こる。風の手に撫で上げられた落ち葉は中を躍り、一瞬のうちにあたりは山吹色に染まった。 「おそろしきもの?」 面白そうに小首をかしげ、笑いかけるその姿は、緋赤が思わず目を細めてしまうほどに艶やかだった。 「そうだ。黄櫨、上を見やれ」 「上を?」 「見た者全てを虜にしてしまう、この黄色。残りの生の全てを吐き出しているかのよう…」 乾いた葉擦れの音を響かせて、二人の足元にまた、扇が積もる。 黄櫨はさくさくと、履で扇を踏み締め、その場に立ち尽くした緋赤の元へと歩み寄った。 お互いの息がかかるくらいまでその身を寄せて、低く抑えた声色を使って尋ねてみる。 「して…そなたはもう、虜となったと謂う訳か?」 緋赤は答えず、ただ微笑むだけ。 「――謂う訳か?」 返り事を欲し、焦れて。黄櫨は緋赤の首に腕を廻して引き寄せ、耳元で、先程の声音を操った。 熱の篭った、熟した音色が緋赤の耳を擽り、一瞬、ぞくりと小さく身を震わせる。これは負けだと苦笑し、緋赤は黄櫨の冠へと手を伸ばした。 「今日は真に機嫌が好いな。…銀杏のせいか?」 仕返し、とばかりに、耳元に囁き。 先程から指先で玩んでいた小さな扇を、冠板に挟み込んでやった。 「さぁな」 扇が舞い散る音と、己の衣擦れの音。この二つが奇妙に調和し、二人の聴覚を刺激し… 「…黄という色は狡い。どのような季節でも、暦でも…この俺を惹きつけてやまないのだからな」 その言葉に、黄櫨は満足そうに微笑んだ。 機嫌の良いついでに、今日は相手の好きにしてやることにする。 琥珀色の扇の舞い散る最中。 緋赤は、黄櫨の白い首筋に唇を寄せていった。 ※ ※ ※ うみきんぎょ嬢!ハッピーバースディ! 何の因果か、今年も日記が自分の番でした。 記念SS貰ってやって下さい!(平安だけど) |