One world as we celebrate the future.





嗚呼この春に巡り逢ひ

今日の誉をになへるは

これぞ師の恩友の援け

何時の世にかは忘るべき





『もしもし、走せんせ?今向かってる途中だから』

花のような、声。
ころころと弾むような響きから、彼女の足取りもきっと同じ様なものであろう、と想い。


『はいはーい。あと十分位で着くと思う。草太郎も一緒』

光声、鮮やかに。
真夏の太陽を思わせる声音から、元気な彼と、その隣りで優しく笑っているであろう彼を想い。


『心配するな、道は覚えている』

性格と、その話し方に比べて幾分か高めの声音。
何処にいても、何をしていてもきっと自分のスタンスを崩さない。
そんな、彼の不器用な頑固さに微笑み。


『かけてくんの遅ぇよ。俺はもうここにいる』

笑みの混じった低目の声が耳を擽り。
草の上に腰を降ろし、湖を独りで見つめている。
そんな、彼の姿を思い浮かべることは非常に容易く。



    ※    ※    ※


たった今閉じたばかりの、折り畳み式の携帯電話をぱたん、と開いて。
電話帳の、『wild force』というフォルダを探す。
その中に並んでいる『eagle』『shark』『bison』『tiger』『wolf』の文字。

一人ずつ、一人ずつ、ゆっくりと名前の表示を変えて、走はにっこりと笑った。


『あ、もしもし?』

番号を表示させて、通話ボタンをプッシュ。
ダイヤル音と着信音が、若干のタイムラグを創りだし、まずは第一声。

そして、彼らからの第一声はこんなものだった。



    ※    ※    ※


余りの返答の小気味良さに、つい昔の事を思い出してしまう。



――『皆、オルグだ!』


――『おう!』


打てば、響く。

そんな関係の心地良さに気付いたのは、若葉が萌ゆるあの頃だろうか。

跳ねっかえりの気分屋が、ちょっとだけ前に進んで。

惚れっぽい臆病者が、幾ばくかの勇気を手に入れて。

まだ幼いところのある小さな少女が、父への想いと強さを成長させ。


気むずかしく照れ屋のサブリーダーが、ほんの少し。
ほんの少しずつ、認めてくれるようになって。



四方の山々の霞む季節も終わり。

季節は変わり、乾麺の様に、真っ直ぐな太陽光線が注ぐ。


忘れられぬ、強敵との出逢い。

それは、古き戦士達の流脈が、千年経っても猶、途絶えていない事の証。


遥か昔、遠き世。


火の様に閃爍と。

風の様に峻しく。

水の様に流麗に。

土の様に優しく。

天の様に決して揺らぐ事なく。

都を護った戦士達の息吹が、千年の時を越え受け継がれている事の証明。


そして、月の化身である、六人目の戦士。


彼もまた、其の笛の音と供に千年の時を渡って来たのだ。


少し真面目過ぎるところのある六人目が、漸く皆に打ち解ける頃。

山々の木々が、すっかり紅黄に色付いていた。



    ※    ※    ※


「遅ぇよ」

その場所には、既に荒鷲が一羽、舞い降りていた。

「ご…」

「謝るなよ、別にお前が悪い訳じゃねぇんだから」

「…解った。で、岳は?」

荒鷲は其れには答えず。
ただただ、今までしていた様に湖を見つめるのみ。

「待ってた」

「え?」

何分かの沈黙が二人を包み込み。
ふいに、気難しい『元』サブリーダーは口を開いた。

「提出しなきゃなんねぇ書類が山積みでも、特務訓練で身体がガタガタでも…今日だけは、今日だけは絶対に此処に行かなきゃいけなかった」

「…だよね」

俺も同じ、と『元』リーダーは自分の膝を叩き。


あの時、この場所で。

使命を果たした、地球を守った、と舞いあがる気持ちとは裏腹に、極限まで痛めつけられた身体は痛み、想像以上に重たかった。

ぼろぼろに痛み、処々破けてしまっているジャケット。
もうすぐお役御免だという事に気付いて、袖口を握り締めながら歩いた。


「…あれから一年か。早ぇもんだな」

「欠点だらけの俺達が、よくもまぁね」

「確かになー。リーダーは能天気で頼りにならないしカリスマ性皆無だし」

「それって岳のこと?」

「俺は『サブリーダー』だっての」

「あはは。ホントに優等生居なかったもんね、俺達」



    ※    ※    ※


全員揃ったら、皆でその名前を呼ぼう。

戦士達を助け、導き、その歌声で癒してくれたかけがえの無い存在。



まるで、春のように笑う。

美しき巫女の、その名前を。






輝く玉の桂をば

手折る君こそめでたけれ




四方よもの山々霞みつつ



花咲く春の、帰り来ぬ

















2003.02.10. 脱稿

あれから、一年。

という訳で最終回から一年後の彼らの話です。
懐かしいな。50話を見て、カウントダウン始めて。
某嬢とコラボレ気味になったりして。
毎日アップがきつかったけど、楽しかった。

このお話は、去年の企画だったカウントダウンと微妙にリンクしております。
宜しければ、そちらと合わせてお楽しみ下さいませ。

微妙に獅子鷲…?あと愛され巫女。



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