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Have we ever wondered how the story all began? 夢の内にも花ぞ散りける (紀貫之 古今和歌集 春歌 一一七) 桜の舞い散る夜に宿とれば 夢の中でもはらはらと ※ ※ ※ 山の調めは桜人 海の調めは波の音 また島巡るよな 巫が集いは中の宮 厳粧遣戸はここぞかし 緋赤 「青藍 そう言って、緋赤は舞いを始める。 その舞は多少癖があるものの、白拍子をしている青藍も納得する位巧みだった。 袖を翻して風に乗せれば、舞い落ちる花吹雪が再び舞い上がる。 「お前の舞いは、見ていて気持ちの良いものだ。決して飽くることがない」 風に逆らうことがなく、自ずから然として、風景に溶け込むような舞い。 舞い上がる花びらを思わず目で追っていると、風景にとけ込めない箇所がひとつ。 ひとつ。 薄桜色に染まる絹。 ひとつ。 紅の色がやけに艶やかで。 近寄ってみると、周りの桜より一際濃い紅色が、下向きに咲いているのが解る。 「これは…唐 花は釣鐘のような形をしており、独特の雰囲気を醸し出している。 この桜の見頃は、確かもう少し前であった筈。 けれども、目の前にある桜木は満開で、見頃をとうに過ぎていることなど、微塵も感じさせなかった。 「こうして緋色が下向きに咲くので、恋心を顕す桜でもあるそうだな」 何時の間にか黄櫨の後ろで、同じように桜を眺めていた緋赤が言う。 それに驚くこともなく、黄櫨は続けた。 「恋心か。京で数々の浮き名を流したお前に、親しみを感じて咲いたのかもしれんぞ」 「おちょくるな、黄櫨」 自分のあまりな言われよう。 それに、流石に少しむっとした緋赤が、黄櫨をたしなめる。 「それに、そのような事はとうに過ぎ去った話。送った文や歌など、もはや落ち葉一枚に等しい」 「そんなことは解っている」 僅かにむきになった緋赤の様子が可笑しいのか、はたまた、珍しいものを見ることが出来て機嫌が良いのか、黄櫨は満足そうに微笑みながら返す。 そして、更に近いところで見物したいと、もう一歩、踏み出す。 突然、黄櫨は腕一本で緋赤に後ろから抱き込まれた。 「緋赤?」 「この辺りの山には杉が多い。杉は霊木、我々の『力』の為にも、是れ以上近づく事はせぬほうが良い」 嵐山をはじめ嵯峨野に生い茂る杉は、神霊の宿る神樹、神霊の天降る霊木として崇拝されている。 緋赤や黄櫨の戦士としての『力』は、その神威とはまた異質のもので、両者が相対して生まれる事象は未だ計りきれていない。 何にせよ、己の力が必要な今、迂闊なことはしないに限るのだ。 「霊木か。……おい、いつまでこうしているつもりだ?」 それもその筈、黄櫨は未だ、緋赤の腕に抱き込まれたままの態勢で。 「もう少し、こうしていても良いか?」 緋赤特有の香の匂いに包まれて。 我侭ともとれる彼の言動に、仕方がないなと溜息をひとつ。 「ああ。かまわないぞ」 いたづらに ただただ降りし 春の戯れ 緋赤が抱き込んでいる黄櫨の白い首筋に、はらはらはらと花びらが一枚。 それに唇を寄せ、花びらを口に含む。 唇を離す瞬間に、ちょっとした戯れ。 ――首筋に、桜色の痕。 「恋心などという、下世話な言葉では括りきれぬ。我が心は」 2002.03.10. 脱稿 花粉症で苦しんでいるうみきんぎょ嬢に捧ぐ。 平安獅子鷲桜話その2です。前作と繋がっていると考えても良し、全く別の話ととっても良し。 緋寒桜は彼岸桜と間違われやすいので、現代では『寒緋桜』と名前を変えています。またの名を台湾桜。 沖縄で『桜』と言えばこの桜の事を指すみたいですね。 小ネタ満載の平安牙吠は書いていて楽しいです。 そして平安でも『素』!(笑) 緋赤が謡っている今様は、梁塵秘抄より三ニ三。 『花粉症の鷲に愛を捧ぐ獣医』というのが裏テーマだったので、平安にした結果、このようなこじつけとなりました。 雅(素)ばんざーい!! ああ…京都に桜見に行きたいなぁ… 円山公園、祇園の枝垂桜、清水寺のライトアップ…仁和寺ー…嵯峨野ー!! 花見ー…京都ー…(発作) ⇒戻る
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