always  aside





「ブルー…ブルー…?」

目が覚めると、ベットサイドには草太郎がいた。あれ?手に何か持ってる。
起きぬけで焦点の定まらない眼をこしこしと擦って、それを見つめる。
蒼い花の、鉢植えだ。
「ブラック…?どしたの…?花なんか持って」
「今日、買い出しに行く途中の花屋で売ってて…ブルーに見せたかったから」
「俺…に…?」
草太郎が俺に見せたいというそれを、もう一度まじまじと見つめる。目覚めてから大分時間が経ち、頭も視界もクリアになってきて、ようやく見覚えのある花だという事に気付いた。
蒼い花…なんだけど、その蒼さが半端じゃなく深くて。花びらは先っぽまでぴんとしていて。
すごく綺麗で、潔い。

名前…知りたいな。

「えっと…なんていう花だっけ…これ」
俺の質問に、草太郎はその鉢植えをベット脇にテーブルに置きながら、答えてくれた。
「『りんどう』だよ」


  『りんどう』


その名前がやけに胸に響いて、何も言えなくなってしまった。
草太郎が、心配そうに俺の顔を覗きこむ。
「ブルー…?どうしたの…?」
俺の肩に手を置いたその仕草から、こいつが本当に心配しているのが判る。…愛されてんなぁ…俺…。
眼をつぶって、相変わらず肩の上にある草太郎の手の甲に頬を寄せて、呟いてみる。
「そーたろー…だいすき」
…あ、手がすごく熱くなってる。俺のほっぺたが熱いせいかな。それとも…
と、それまでほっぺたの下敷きになっていた手が裏返り、俺の頬に添えられた。
「…っん…」
そのまま、耳のふちを指先でゆっくりなぞられて、思わず声が出る。
「海…?」
ちょっと上から被せた感じの声。この声音で、草太郎が俺を呼ぶ時は、いつも特別。
そのまま、首を動かして、草太郎の手のひらをちろっと舐める。
そして、答えを待っている恋人の目を見つめながら、言う。
「しよう…?」


    ※   ※   ※


躰の輪郭すら不鮮明で、溶けてしまいそうで。
草太郎の体温だけを身に纏った自分の、下半身の疼きが、理性の糸を切ろうと押し寄せてくる。
「んっ…ああ…っ…そ…う…たろぉ…っ」
「…ッ…海っ…!」
「っんぁぁぁぁ…っ!」
弾けた草太郎を、中で感じながら…果てた。


    ※   ※   ※


「ね…俺の名前…呼んで?」
行為の後、草太郎に腕枕をされながら、ねだってみる。
「海…?」
「もいっかい」
「海」
二人きりの時は名前で呼べと我侭を言ったのは、いつだっただろうか。出会った頃の癖が抜けなくて、今でも時々、『ブルー』『ブラック』などと言ってしまうけれど。
そんな事を思いながら、さっき感じた妙な響きの原因を突き止めようと、草太郎にある要求をしてみる。

「なぁ…俺の事、『りんどう』って呼んでみて」
「…『りんどう』…?」
「うん…」
「…りんどう」

草太郎に『海』という自分の名前を教えて、初めてその名を呼んでもらった。その時と同じ、甘い痺れが心に残っている。
違和感なく俺の耳に染み込んでくる、その響き。やっぱり…俺は前に、この声でこの名前を呼ばれていたような気がする…

それを言うと、草太郎は俺の頭をなでて、目を細めて笑いながら、言った。
「それって、その時も自分は海のそばにいたってこと…?」
「ん…運命ってやつ…?」
前世とか運命とかは信じない性質だけど、草太郎とならいいかも。
半分おどけて答えてみせたら、瞼にキスが降ってきた。
瞳に、鼻の頭に、頬に、最後に唇に。
舌を絡ませながら、お互いの蜜を味わって。キスの合間にうっすらと眼を開けると、草太郎の頭越しに、りんどうが見えた。


潔いまでの、その蒼さ。

その蒼をしっかりと眼に焼き付けてから、また瞳を閉じて。


ずっとずっと…いつもいっしょ。


それがいいね。







…なぁ…ブラック?






                END




2001.10.22. 脱稿

例のシーンは割愛しました。
必要があればもっと増やしたんだけどねぇぇ…
りんどう。今うちにありますわ。
蒼がすっごく綺麗だったので、思わず。

ああ…牛鮫はいいなぁ…(悲しい病気)
ところで裏は作るべきなのか…むぅぅ…(悩)