其乃弐  Chinese fight (仮)





ヒュォ…ッ!


ハイの右耳から一寸も離れていない軌道で、ユエの手にしていた長槍が空を切った。
『突き』という大技を打ちこんだ後の、その無防備な一瞬を見逃さず、両手のトンファーを唸らせる。
くるくるくると猛烈な回転運動をする拐を、遠心力と体重を使って全力で叩きこむ。
拐というと、一般的には硬木製なのだが、海の破邪の爪は金属製である。三尺余り程ある長辺には、海の守護獣である鮫の優美な姿態が象られていて、そこからほぼ直角に突き出した五寸程の短辺は、鮫の鰭を象ったものだ。

ガキィ…!!

金属と金属がぶつかり合った部分は火花を散らし、山吹色と海藍色の房が激しく揺れる。
金属製の拐をまともに受け止めた岳の槍の、黒硬木製の柄が悲鳴を上げる。そのまま半秒程力の均衡が続いた。しかし、力勝負ではいささか分が悪過ぎると判断した海は、岳の両腕が最も緊張する一瞬を狙って、虚空の速さでその身を引いた。

「お…っと!」

態勢を崩した岳の胸に、後方宙返りの要領で蹴りを入れる。

バキィ!!

岳の身体は、勢い良く三丈程吹っ飛び、地面に叩きつけられる――その瞬間、右手を地面につき、一回転して左手首を翻した。あれだけの速さの攻撃を受けながら、僅かな動きで直撃を免れていたのだった。

しかし、手負いの攻撃では、標的を仕留める事は出来なかった。
海が勢い良く右腕の拐を振って、岳の最後の攻撃を叩き落したのだ。


   ※   ※   ※


「やった♪今日は俺の勝ちだね、岳」
「ゲホゲホ…ああ…強くなったな、お前」



戦士として毎日かかさず行っている、一対一の実践訓練。ただし、使用して良いのは武術だけという制限付きである。
武術のみとは言っても、並の人間より全ての能力値に秀でている戦士達の事、その水準は相当な物だ。

「ねぇ岳、手加減しなかった?」
「するわけないだろう。お前相手に」
「わぁいっ!だから岳大好きー♪」


『大好き』

岳は、その言葉にやや引っかかりを覚えた。

「なぁ海、お前ツァオの事好きか?」
もちろん

間髪を入れずに答が返ってくる。

「どんな所が好きだ?」
「一緒にいると安心する所とか…一緒に寝るとあったかい所とか…って、恥ずかしい事言わすなよ!岳の馬鹿!」

勝手に喋ったのはそっちだろう。しかし、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった海を可愛いと思ってしまう自分を叱咤しつつ、真打の質問をしてみる。

「じゃ、俺の事は…好きか?」
うん。好きだよ?」

思わず頭の中で鐘を鳴らしそうになった岳は、思い止まり…

「どんな所が…?」
「え…えっと…ご飯が美味しい所とか…何か、草への『大好き』とは違う気がする…」




――――闘わずして負けかよー…ちくしょー…――――――


岳がその夜、宿営地に戻る事はなかった。






                        NEXT?




2002.01.04.  脱稿!
チャイナガオは小出しにしていく事にしました(笑)
そして多分書き足します。
だって…あまりにも岳が不憫で…
今回は何を書きたかったかというと…読んだ皆様お分かりですね?
あはははは☆バトルにきまってんじゃん!
是非頭の中で想像してみてくださいな♪
次回は(月岳)ユエユエ話になる予定(ホントかよ)
BGMはガオのサントラ17番(ガオアクセスBGM)エンドレスでした。
あ、念の為に。
設定はシリアスだけど基本はギャグです☆