Lulamile ukubiya,lulamile (The gentle wind)





「テトム」

「なぁに?ブルー」

「テトムはさぁ、俺達の呼び名とか関係なく、どの色が一番好き?」


「色?そうねぇ…白かな」





春は梅の

夏は太陽の

秋は月の

そして…冬は雪の、白。


昔から、遠い遠い昔から


何よりも好きだった、色。



たなびく白銀色の髪

清廉潔白と言うに相応しい立ち振る舞い


彼の人と同じ飾りを身に付けて

彼の人と同じ様に歌を紡ぐ度


彼の人に少しでも、近づけたのだろうか


そう、思う



※    ※    ※

 


春が来て、夏を迎え、秋へ変わり、いつの間にか冬へ。

冬が春を連れてきて。

そして、また一年が廻る。



「っくしゅっ!!」

年中恒温に保たれているガオズロックの中でも、冬の寒さはそれなりに身に染みる。
特に自分は、レッド達の様にジャケットを羽織っている訳でもなく、巫女としての服装――ノースリーブのワンピース――しか許されていないのだから。

「風邪か?テトム」

「ううん。大丈夫、ちょっと鼻がむずむずしただけだから」

他のメンバーは皆とっくに自室に引き上げていて、台所で一人作業をしていたイエローが顔を出した。どうやら彼の仕事も終ったらしい。ジャケットを肩に引っ掛けて、テーブルに向かっていた私のところへやってくる。

「あんまり根詰めるなよ?考えすぎも良くねーぞ」


先代のガオレンジャー達が残した膨大な量の文献の解読。それが、夜の私の仕事になっていた。
オレンジ色の光の中で明るく照らされる、黄ばんだ古い紙の山。
そこに突っ伏して、答える。

「あーっ!つかれたー!今夜はこれくらいにして私も寝るわ」

余り夜更かしをするのも良くないし、それに、毎朝恒例のユニットの事もある。

「ああ。明日も早いんだろ、無理するなよ」

バサッと音をたてて、ジャケットを羽織りなおしたイエローは、くるりと身を返して部屋へと戻っていった。
その背中にある『NOBLE EAGLE』の文字に、ふと目を留める。



――『孤高の荒鷲』


果たして彼は、大空を自由奔放に飛びまわる荒鷲になれているのだろうか。
私は、彼の自由を奪いはしなかっただろうか。
運命と、さだめと称して、空飛ぶ鷲を打ち落としたりはしなかっただろうか。

あのままパイロットとして、広い大空を翔ける。

そんな『鷲尾岳』は、今よりも幸せなのではないだろうか。


それはイエローだけに限ったものではなく。

ホワイトも、ブルーも、ブラックも…レッドも。


私は、忙しくも楽しい彼らの日常に介入してはいけなかったのでは…ないだろうか。





――運命は、本人達の意志を無視して一人歩きをはじめている。


     ※    ※    ※



寝る前にそんな事を考えてしまったせいか、夢見が良くなく、起きてもあまりいい気分ではなかった。


パシャリと音を立てて泉から泉の間へ出てくる。
朝は、一日の内で一番冷える時期だ。
冬の澄んだ空気に浸るのは嫌いではないけれど、この格好ではいささか薄着過ぎる。

寒さに身を震わせて辺りを見渡すと、テーブルの上の様子が昨夜とは違っている事に気付く。


テーブルの上には、真っ白い布のような物と、その上に置いてある手紙。
そしてその横に置いてあるのは…

「ホットチョコレート…?」

ココア色の液体が、真っ白のクリームの間からほんの少し顔を出しているそのマグカップからは、白い湯気が立ち昇っている。

「あつ…っ」

私が起きてくる時間を見越して作られたようなホットチョコレート。
口に含み、胃に流し込むと、身体が芯から温まってくる。


マグカップをテーブルに置いて、二つ折りになっている紙を開くと、そこには五人五様の字が書かれていた。

『テトム、いつもご苦労様。風邪ひいたら直ぐに俺のとこに来いよ!』

『No problem.Take care of yourself.』

『何色が好きって聞いたのは、このためだったんだよ〜♪』

『夜更かしのしすぎは身体に良くないです』

『テトムの格好に合うなと思って皆で選んだの。良かったら使ってね♪』



手紙の下にある布を広げてみると、それは真っ白いショールだった。



     ※    ※    ※




貰ったばかりのショールを羽織って天空島へ赴くと、いつもの場所に、見慣れた長身の影。

「シルバー!おはよう!!」

「テトム、おはよう」

近づくと、シルバーは持っていた紙袋に片手を突っ込んだ。

「テトム、手を…」

「手?」

何の事か解らずに両手を胸の前に差し出すと、そこにぬくもりが、ぽんと一つ。

ほかほかの肉まんだった。


「肉まん…?」

「ああ…来る途中に『こんびに』に寄って買ってきた。最近寒くなってきたし、何か暖かいものをと思って」

「嬉しい…ありがとう」

そうして二人で肉まんじゅうを頬張る。

それは、今まで食べたどれよりも暖かく、柔らかく、そして美味しかった。



ふわりと一陣の風が頬を撫でていく。


「テトム」

「なぁに?シルバー」

「あまり…一人で無理をするな。お…俺もいるのだからな…」

彼にしては珍しい物言いに、驚いて顔を見やる。
すると、目を逸らせ横を向いたシルバーの、その頬。

それが、ほんのり朱に染まっていた。



※    ※    ※



彼等は自分で選んでここにいる

自分の意志でここに留まる

それこそが、彼等にとっての自由だとしたら



だとしたら、自分は



自分は、彼等が自由であるように、ただ祈るのみ


運命に、素直に流されてやる筈もない彼等と、ただ供にあるのみ



それで


それで、良いのだと


胸の飾り、その石が


一瞬、白く、煌いた




――私は優しい風となり、彼等と供に――










2002.04.05. 脱稿

まんぢゅうへ捧げます。
鷲巫女&銀巫女。巫女に愛を注いだお話です。
鷲さんはやはり中学英語で★
副題は、『総司令官殿、まんぢゅ、これが私の答えです』(長)
ここのコメント、一作前と同じく二、三日したらもうちょっと付け足します。


(04.06.)
と言う事で、キーワードは『鷲巫女&銀巫女・白』もう一つはもちろん…
5000HIT御礼SS、第ニ作目はまんぢゅう嬢へ。
あのメールはそういう事だったのですよ(だから鮫に聞かせてみたり)
もちろん、巫女一人称にしてみました★
この三つのSSは、それぞれ縁の人の一人称で書かせて頂きました(ほくそ笑み)