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Living in the unity of pease. 暗闇で埋め尽くされた世界の夢 ただの暗闇ではなく 再び太陽が照らす、その時を 恋い焦がれて 恋い焦がれて 恋い焦がれて そして… 朝 風向きが変わり 潮流が変わり 夜が移り変わっていく 新しいはじまり 平和がもたらす調和の中で 暮らし 生き 祝福する …何を? 未来を… 未来を祝福すれば、夜と朝とが交差する 未来を祝福すれば ひとつに、なる ※ ※ ※ 乗りなれたシートに腰を下ろして、ダッシュボードに投げ出してあったCDを数枚手に取る。 隣では走がキーを回していて。 鈍い音を立ててエンジンに火がつく。 手元にあったCDから一枚を選び、プレイヤーに挿入すると、車内が静かな音楽で満たされた。 「で、今日は江ノ島だったっけ?」 「それでいい?」 「ああ」 走のアパートから江ノ島までは、車で丁度一時間といったところか。 夜。 夜のドライブは嫌いではない。 昼間よりもキツイ光を放つ信号機も、前を走る車の真っ赤なブレーキランプも。 目の眩むような、対向車の上向きの前照灯も。 真っ黒な夜を飾り立てる宝石のようだ、と、思ったことがある。 そんな事を考えていると、肘をつつかれた。 「岳、何ぼーっとしてるの?」 「え?いや…それより走、このフロントガラスちょっと汚れてないか?」 まさか、車の光が宝石みたいだなどと、詩人まがいの事を考えていたなんて言えずに、手近な事で誤魔化しておいた。 「あー、昨日風強かったからね。埃だらけかも」 言うと走は、ウィンカーを手前に軽く引いた。 ウィンドウォッシャー液が、フロントガラスの下部から吹きつけられる。 「そういやさぁ」 「ん?」 「俺、この液はなくなんないモンなんだってずっと思ってた」 「ッぶっ…岳、何それ」 そんなに吹き出すことねぇじゃねぇかよ。 ちょっとムッとしたが、俺は先を続けた。 「自分で補充してる訳じゃないのに、ずっと使っててもなくなんねーんだもん」 「点検の時に足して貰ってるって思わない?普通」 「や、雨水かなんかをどっかに溜めて置いて再利用してるのかなって思ってた」 そこまで言うと、走は声をあげて笑い始めた。 「ッははは…岳ってさ、皆が知ってる事意外と知らなかったりするよね」 そう、良く言われる。昔も今も…ガオズロックにいたときでさえもだ。 興味のない事は極力頭に入れないという性分なのか、そこまで器用な頭ではないのか。 とにかく、専門外の事となると本当に疎い。 「悪かったな…でも飛行機は詳しいぜ?」 「飛行機って…!……っあはははは!」 何気なく口にした一言が走のツボを突いちまったらしい。 仰け反って爆笑するその姿勢は、運転にはそぐわないのではないかと、ちょっと冷や冷やする。 「何でそんなに笑うんだよ…」 「だって、なんか幼稚園児みたいで」 「は?」 「ほら、あの位の子供って、車の名前やら電車の名前やら、興味のあることはやたらと詳しかったりするでしょ」 確かに、自分の飛行機好きもガキの頃からだったな。 ジャンボジェットから戦闘機まで、絵本を片手に次々と名前を言い当てては、親に頭を撫でて貰っていたのを思い出す。 「悪かったな…どうせ俺は幼稚園児レベルだよ」 「いやいや、いいんじゃない?岳らしくて」 そう言って黙り込み、何かを思い出しているような走は、また暫くして口を開いた。 「海」 「へ?」 「ガオズロックにいる時に思ったんだけど、岳って海に疎かったよな」 空飛ぶ鷲なだけにかな、岳と海ってあんまり結びつかない。 そう、奴は続けた。 確かに、子供の頃から、海とか、魚には疎かった。 しらすは釜揚げしらすみたいに、生きてる時から真っ白だと思ってたし。 もっと子供の時、目刺しは売られてるみたいに、棒で繋がって泳いでるなんて疑いもせず。 それに… 「金魚がさ…海にいるって信じてた」 透き通る水が、キラキラと輝いて。 その中で泳ぎまわるオレンジ色の輝きは、海藍色の水の中。 それはそれは、綺麗に映えることだろう。 そんなことを、思ってた。 ※ ※ ※ 深夜三時過ぎの江ノ島は、狭い海岸で馬鹿騒ぎをしているガラの悪い連中数人位しか見当たらない。 島の少し奥まった所へ車を止めると、誰もいない道を二人で歩き、テトラポットに腰を下ろした。 走のライターの火と、 僅かな外灯と、 向こう岸に見える百三十四号線の光だけが、俺達を照らしている。 「平和になったよな…」 ぽつりとそう漏らすと、走は咥えていた煙草を人差し指と中指で鋏んで、俺の方を向いてにっと笑った。 「何十分の一位は…俺達のお陰かな?」 「そうだな…」 戦いが終わり、もう二ヶ月が過ぎようとしている。 突然のオルグ反応に眠りを妨げられる事無く。 街中での唐突な呼び出しに、全力疾走する事も無く。 あの頃に比べたら、随分と穏やかになったもんだと思う。 …けれど、あの頃の感覚は、今でも俺の中に生きていて。 「夜の海も綺麗なもんだよな。なんだか黒曜石みたいでよ」 「うん」 綺麗なものを綺麗だと認める思考 「音も澄んで聞こえるし…平和の美しさっていうのかな…こういうの」 「うん」 美しいものを美しいと認める感覚 好きなものを好きだと、認める心 それは…まだ俺の中に、生きている。 「好きだぞ」 「うん」 そして走は、俺の肩に手を置き耳元に唇を寄せ… こう、呟いた ――『俺もいると思うよ…海金魚』―― 2002.04.06. 脱稿 うみきんぎょへ捧げます。 やはり貴方には獅子鷲(素)で★ 副題は『いつもいつもいつも甘えてしまってごめんなさい。キャパシティオーバーが悪いなんてことないないない!』(長) そして本タイトルも本当はちょっと長めで、 『Living in the unity of pease,one world as we celebrate the future.』 …です。後半部分は泣く泣く切り取りました。 そしてキャンペーンSSという事で、ちょっといやかなり甘めに仕立て上げました。 キーワードは『獅子鷲・平和』もう一つはもちろん… (私信) 5000HIT御礼SS三部作、これで最後です。 自分がSSを送ったこの三人がいなければ、青海波を開く事は出来ませんでした。 そんな感謝の意を込めて、いつもとはちょっと感じを変えたSSを書いてみました。 こんなものですがどうか、貰ってやって下さいませ。 そしてこんな私ですが、これからもどうか宜しくお願いします。 あと、この前の二つのSS、あとがきを少々付け足しました。 ⇒戻る
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