Don't you know what your kiss is doing (side BLUE)





「キスじゃ、恋愛は始まらないと思う」

事の起こりは、冴の持ってきた『朱粋』という銘柄の一升瓶。
この酒は、鹿児島で取れる赤色の米から作られた物で、紅い色をした日本酒なのである。
そのもの珍しさから、宴会を提案したのは誰であったか。気が付けば男女成年未成年入り乱れ、無礼講の宴に発展してしまっていた。

宴会の途中、海と冴は泉の間の端に寄って、二人だけで恋愛談義を始めていた。
ある程度のアルコールも手伝ってか、普段は話題に上がらないような内容―――初恋や、学生時代に付き合っていた相手の事、フリーターをしていた頃の経験など――を一通りネタにして盛り上がり、話題はキスへと移っていった。

男女の接近遭遇といったたぐいのものにまるで頓着しない海は、恋愛対象として見ていない相手ともキスをするなんて事は日常茶飯事で、『キスで恋愛が始まる』事など全く信じていない。

一方、冴は、まだ恋に恋する年頃である。
(一応)年上である海の話をあいづちを打ちながら聞いていたのだが、海がその話をとたん、びっくりしたように海の方を向き、言った。
「…っ男の人って…皆…そうなの!?」
「…え!?ちょっ…ちょっと!?ホワイト…落ち着いて…!?」
その余りの様子に面食らった海は、とりあえず冴を宥めようと彼女の顔を覗きこみ、その両眼に光る雫に気が付くと、はっと息を飲んだ。
そんな海を振りきり、冴は泉の間から走って出ていった。

   ※  ※  ※ 

「俺、何か間違ったこと言ったかなぁ…なぁガオシャーク、どう思う?」
あの後、去ってしまった冴に何も出来なかった海は、天空島に来て、ガオシャークに相談していた。
走、岳、草太郎に話を持ち掛けようにも、生憎3人は今ただの酔っ払いに成り下がってしまっている。ちゃんとした答が返ってくるのは、絶望的だと思われた。
海や湖など、水のある風景が好きな海は、気分が落ち込むとちょくちょく天空島に来て、ガオシャークが泳ぐ姿を眺めては、この可愛い友人と心を通わせ、」元気を貰って帰って来るのだった。
「なぁ…ガオシャークってば!もったいぶらないで教えてくれよ!!」
海の問いかけに、一向に答えを与えようとしないガオシャーク。水面からジャンプし、月光の下、一回転して水中に消えていった。
そのしなやかな動きと、飛び散った水飛沫が月の光に照らされてきらきらと輝くコントラストが余りにも優美で。声も出せずにいると、

「綺麗だなぁ…」

背後から、聞き覚えのある声がした。
「ブラック…」
そのまま、歩いてきた草太郎が海の隣に腰を下ろす。ふわり…と日本酒の香りが、海の鼻を擽った。
「ブルー…どうしたの…?」
「どうしたの…って…何でブラックがここにいるんだよ!俺、誰にも言わずに出てきたのに」
「自分たちが気が付いたらさ、泉の間にブルーもホワイトもいないんだもの。ホワイトは部屋にいるってテトムが教えてくれたけど…」
「うん…」
自分のせいでホワイトを泣かせてしまったと思うと、海の胸はちくりと痛んだ。
「ブルーは部屋にもいなかったし、もう夜遅いから、外に出てったんなら危ないと思って。ガオバイソンに聞いた」
「ガオバイソンに?」
つくづく、困った時はパワーアニマル様々だなぁ…と最後の言葉は音にせず、飲みこむ。

「で、どうしたの…?ホワイトと喧嘩でもした…?」
「実はさ…かくかくしかじか…」
隣にいる草太郎に寄りかかりながら、途切れ途切れに、あったことを全て話した。あたたかくて、心強いなぁなどと思いながら。


   
「ふぅん…『キスじゃ恋愛は始まらない』ねぇ…」
話を聞き終わった草太郎は、先ほどの海の言葉を反芻して、黙り込んだ。

  ※  ※  ※

どれくらいの時間が経っただろうか。沈黙の苦手な海が音を上げて、草太郎を呼ぶ。
「ブラッ…」

「海」

「…ん…?」

自分の呼びかけは、自分の名前で打ち消される。
名を呼ばれ、草太郎の方に顔を向ける。瞬間、視界が遮られ、唇と唇が重なる。
日本酒の香りと唇の感触が妙に印象的で、扇情的だった。
自分の感覚全てで相手の事を受け容れようと、海は無意識のうちに目を瞑っていた。

触れるだけの長いキスの後、海の唇から自分のそれを離した草太郎は、立ち上がり、

「おやすみ」

と、一言だけ残して歩いていった。


その場に1人残された海は、月光に照らされ歩いていく草太郎の、広い背中を見つめていた。

「…草太郎」
聞こえないように、彼の名を口に出す。
自分の顔が、躰が、心が火照っているのを自覚するのに、そう時間はかからなかった。


「ホワイト、ごめんな。前言撤回。」






                NEXT?







I think you're different from the rest. (side BLACK)




『キスじゃ、恋愛は始まらない』

そう主張する 自分の大好きな人


「綺麗だなぁ」

君は ガオシャークの事を指して言ったと思っているけど

本当は 違うよ?

月の光に照らされて きらきら光る大きな瞳

本当に 綺麗だと思ったんだ


自分に寄りかかる体温も

本当に 愛しい


黙り込んだ自分に合わせ 静かになる君

本当に 可愛い



そうだ 賭けをしよう


自分達の恋愛が 始まるかどうか

ねぇ…



「海」






                NEXT?




2001.10.18. 脱稿(と言えるのかどうか)

ふう…腐れポエム付きですわ。
「おお…(くるり)ポエムだ♪」(Quest32より)

ホワイトが意味深ですね。どうやら、イエローと何かあったらしいです。
こっち(牛鮫)サイドにイエローが出てこないのはそういうわけなのです。

鷲虎サイド、書けると良いなぁ…(遠い目)