必要十分条件
                               





数学A 〜命題・逆・裏・対偶〜


「…p→qが真である時、qはpである為の必要条件…pはqである為の十分条件……って…あ゛ー!!訳わかんねーよー…」

…東邦学園高等部、寮の一室。
松山光は、クラスメートであり、ルームメイトである日向小次郎に数学を教わっていた。明日、中間テストの第一日目、一時限目に備えて。

「…ったく…しょうがねーなぁ……例えばなー…」
 数学は、日向の得意科目である。松山も、毎回平均点そこそこはいくので、隣の部屋でうんうん唸っている反町に比べたら、まだましな方なのであるが、今回の範囲には中々てこずっているようだ。そしてその面倒をみる日向も同様である。

「まず、『ab=1』と『a=1かつb=1』っつー二つの条件があるとするだろ」

「……ああ」

「この二つから『真』の命題を作るとするとー…」

「………ああ」

「ab=1はa=1、b=1である為の必要条件」

「……」

 段々、返事がぶっきらぼうになっていく松山。ついに、無言になってしまった。
 構わず、説明を続ける日向。
「a=1、b=1はab=1である為の十分条件」

「……わかんねぇ…」

「どうして、逆じゃダメなんだ?」

「…こっから先は、中坊でも解るぞ、お前、ホントに数Aのこの範囲弱いよなぁ…」

 この範囲とは、高校数学A、「式と証明」の「命題と集合」のことである。
「や、何だかさー…『必要』だとか、『十分』だとか言われると言葉の意味から考えちまうんだよなぁ…」

「ああ…なるほどね」

 国語――主に現代文―が得意な人は、得てしてこの罠に陥りやすい。数学で使われる言葉を、文学的に解釈してしまい、混乱するのだ。
「……まぁ、大体の基本事項は教えたから、このプリントのここんとこ…問2、やってみな。その上に、回答のポイントも載ってるし。」

「…『命題の真偽とその対偶の真偽は常に一致する』…」
 対偶とは、ある命題の逆の裏、もしくは裏の逆のことである。問題はこれを利用して、背理法で証明せよ、という物なのだ。
「…うー…がんばんねぇとー…教科書、教科書、と…」
 一心不乱に問題を片付けにかかる松山。

「…真と偽、裏、逆、対偶か…」
 ちらりと一瞬、松山の方に目をやって、日向は心の中で呟いた。

 自分との対角線上で、相手が自分と同じ気持ちを抱いてくれていたら、どんなに簡単だろうか。
 背理法で相手の気持ちが証明出来たら、どんなに楽だろうか。

――まぁ、そんなんじゃつまんねーしな。
…それに俺は、くるくる変遷を続けるこいつを好きになったんだ。それはずっと変わんねーわけだし――

 そう、心の中で結論付けた。


 現実の世界は、数学の世界ほど境界が明瞭ではない。









―――――――――――証明終わり。




2000.10.06.(2002.02.18. 改稿)   

ひぃぃぃ…
いつのですかこれ!?2000年!?
何だか昔に書いてたやつですね。しかも松小次。
今回サイトにあげるにあたって少々手を加えてありますが、あんまり変わってない…(笑)
まぁ、気分転換にはなったかな。
今考えると松小次でやる必要はなかったような…(言うな)