Schadenfreude
                               





 数学B 〜ベクトルの内積〜 番外編


――『…と、いうことは、お二人の仲は…』
  『一体どういうこと何ですかー?説明して下さいー』
  『…あ、ちょっと止まってー話聞かせて下さーい…』――

作り笑いを浮かべる当事者。
個人の人格やら、権利やらを全く無視して、余りにも露骨なインタビューを行う記者達。


「おう、松山!…何観てるんだ?」

聞き覚えのある、しかし、今ここで決して耳にすることは無いであろうその声にびっくりして振り向くと、そこには…

「…わっ若林!?」

「久しぶりだな、元気そうだし」

「なっ…何でお前がこんなとこにいんだよ!?」

「里帰り途中」

お前や日向のいる東邦学園が一番空港から近かったからだ。と、続ける。静岡には夜着けばいいのだからとも。

「…っつったってなぁ…突然…」
「まぁ、いいじゃねーか。最近どうだ?」

二人で、お互いやお互いの周りにいる人間の近況を報告しあった。


ふと、松山はつけっ放しになってなっていたテレビの方に目をやり、口を開く。

「…人の不幸とか、苦しみは蜜の味ってか?」


 テレビでは、ワイドショーをやっている。丁度、スポーツ選手とアナウンサーの密会が記者会見で叩かれているところだった。


そんな台詞を自分自身苦しそうに吐き出す松山を見ながら、若林は呟く。

「…シャーデンフロイデ…」
「…え…?」

「や、『損失から得られる喜び』ってことだろ。ドイツ語には、それ自身をさす言葉があるんだ。それが『Schadenfreude』」
「…へぇ…流石だな…」
「や、別に大した事はないさ」
「…何だかさ、こういうのって興味本位で観ちまうんだよな…。…人が、苦しんでいるってのによ…」

仲間の人間に不幸が押し付けられるのを見て、何かの境遇が面白いと感じる時がある。
例え、苦難が自分にではなく、他人に起こるようにと指示したのが単に運命の女神のいたずらだけである場合でも、他人の困惑を喜ぶのは一理あることである。

自嘲気味に言葉を紡いでいくその姿が苦しそうで、『ああ、これは何かあったな、何とかしてやりたい』と思い、若林は話を聞く体制をとった。

「で、お前の近くに、苦しんでいる誰かがいる訳だ」

「何だか…最近落ちててよ…元気が無いとかは、あからさまに外に出す奴じゃねーんだけど…何だか、見てると解るんだ…。…俺、ちょっと前から、一応付き合ってる彼女がいるんだけど…あっちが強引にくっついてくるから、切れなくなってるだけだし…その子がいつもひっついてくるから、そいつに話聞いてやろうと思ってても…出来ないまんまだし…」


更に、言葉を探るように綴る松山。

「第一、その子と一緒にいても、そいつのことばっかり考えちまうんだ…そいつの方ばっかり気になるんだ……何なんだろ…興味本位、だなんて思いたくねーのに…」


…ああ、なるほどね。…ふと、松山の肩に手を置いて、若林は言った。

「…そういう訳か…。松山、それはSchadenfreudeじゃねぇと思うぞ、俺は」

「……え…?」

 立ち上がって、上着を抱えなおす若林。

「…さてと、俺は若島津を探しにいってくるわ…。…松山…」

「…なに…」

「とりあえず、彼女と別れろ。そんで、そしたらそいつんとこ行って、話聞いてやるんだな」

「…ああ…解った」


「…早く行ってやれよ、日向のとこ」


「………ッ!!」








                  NEXT?




2000.10.16.(2002.02.18. 改稿)   

ひぃぃぃ…
しかもフォローしてます(笑)
大っぴらにラブラブとはいかない松小次ですが、そこが良し★
自分の中での源三はガオレンでいうイエローです。
困った時の若林頼み〜♪
ね…もう松小次でやる必要はなかったような…(しつこい)