|
The stakes get higher getting wired got to move. 徴兵検査の結果は、第一甲種合格だった。 陸軍に放り込まれて、毎日往復ビンタと折檻の日々など御免被りたいところだったのだが、運命とはなんと皮肉なものだろうか。 しかし、そんな自分の朗報が転がり込んできた。 大学で法律や経済を学んだものに対して、直ぐに主計中尉になれる『二年現役生主計科士官』という、何とも都合よい制度があるというのである。 案の定、全国から志願者が殺到し、倍率は百倍程度にも及んだ。さぞ難しい試験でもやるのかと思ったら、これがまた海軍らしく至極あっさりしたもので、身体検査と口頭試問だけだった。 合格通知を受け取り、自分が海軍経理専門学校の門をくぐったその頃。 欧州ではナチスが電撃作戦を持ってフランスを降し、日本はというと北部仏印に進駐をし、まさに風雲急を告げる世界情勢だった。 入校の当日。 太い金筋の上に銀色の桜が二つ乗っている主計中尉の腕章を着けた。 運動部の合宿のような四ヶ月の講習も、まこと爽快に過ぎ去り、『俺』『貴様』の呼び方もすっかり板について、八十人の仲間と共にそれぞれ艦隊に配属された時には、年も変わり一月になっていた。 まさか、その年の暮れに太平洋戦争が始まることなど、思いもよらない事であったが。 太平洋戦争が始まった。 自分もある艦に乗る事になったのだが、元々海は好きなので、船がいくらガブっても酔う事はなかった。軍艦の中は塵一つなく、いつもペンキ塗りたての清潔さ。それに加えて新米のオフィサーである自分にも従兵が身の回りの世話をしてくれるという。 まぁ、自分ごときが他人に世話をされる身分ではないと思っているので、従兵に何かを言いつけたりすることは殆ど無かったが。 私室があてがわれ、昼食はスープに始まりデザートに終わるといった豪華版。 贅沢三昧の生活に、自分は三日にして早々と敬遠気味になっていた。 夜。 将棋の誘いを断わり、一人甲板に出て、士官室からかっぱらってきた葉巻煙草に火を点ける。紫煙というほど価値のある煙でもないが、煙をくゆらせて波の音に耳を澄ませば、やはりそれなりの安らぎは得られるものだ。 「おい」 聞きなれた声が広い甲板に響く。 「またここに居たのか…。獅子中尉、あんま付き合い悪ィと艦隊主計長に目ぇつけられっぞ?」 声の主は、鷲尾主計中尉。 自分と同じ経理学校の出身で、同期の桜だ。 「ああでもそれはないか。何せ、経理学校を主席で卒業した金の卵って奴だからな。お前は」 「そういう言い方はないだろう、鷲尾。第一、実戦訓練の成績はお前の方が良かったじゃないか」 「そうだったか?」 知らねぇなぁと頭を掻いて、奴もまた、持ってきていた煙草を口に咥える。 ん、と自分が吸っている葉巻の先を口元に近づけてやって、奴の咥えた煙草の火種とする。 「乗組員の士官連中は丁寧で、サロンもあって贅沢三昧。こればっかしは肌に合うと合わねぇとがあるよなぁ」 「そうだね」 「だよな。ところで獅子、今夜もやるんだろ?」 「ああ。部屋行ってもいい?」 「ああ。最近負けこんでっからなぁ。今夜は負けねぇぜ?」 「今夜も勝たせないよ」 「ケッ。言ってろ言ってろ」 煙草を海に落として、二人甲板を後にする。 この男と他愛のない話をしながらするポーカー。 それが、今の自分にとって一番必要不可欠なものなのではないかと、疑い重ねる毎日である。 END? 2002.05.29. 脱稿 パラレルもの…? 海軍にいる同期の獅子鷲です(笑) 煙草の火をもらう獅子鷲、名字で呼びあうってのをやりたかったのです。 獅子主計中尉の日記風にしてみました。 最初の方は色々妄想できるようにかなり詳しく書きました(何故) タイトルはこっそり自分に捧げてます(痛) 久しぶりに短いSS書いたなぁ… この獅子と鷲尾…二人のおじいちゃん…?(こっそり) ⇒戻る
|