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The privilege of the head of the breeding committee 〜A series of 12 years before〜 「はい、これで綺麗になったよ」 掃除の終った餌箱に、からからと新しいラビットフードを入れ、もう一つの入れ物にはレタス,にんじん,きゅうりを山盛りにし。 それらを掃除の済んだ兎小屋の隅に置きなおして、少年は膝小僧についた土をぱんぱんと払う。 『いつもありがとう』 「いやいや、俺の仕事だしね」と少年は言い、足元に寄ってくる母親うさぎをなでなでして、にか、と笑う。腕白そうな邪気のない笑顔。その頬にはバンドエイドが貼られていて、それは少年の印象をいっそう元気の良いものにさせる。 『そのきず…』 「あ、これ?」 『メリーとオリーのじけんのとき?あのときはほんとうにどうもありがとう』 メリーさんとオリーさん。 冗談みたいだが、これでも、この小学校が飼っているれっきとした羊夫婦の名前だ。 三日前の昼休み。 この二匹が突然暴れだし、中庭で遊んでいる子供達に次々と頭突きを繰り返すという事件が起きた。羊の頭突きは見た目より何倍も強力だ。病院送りにされてしまった子供達も二、三人では済まなかった。 そして放課後、クラブ活動の時間に事件は起きた。 中庭から子供達が全て逃げ出してしまうと、この夫婦はそれだけでは飽き足らず、中庭の中央に建てられている飼育小屋へとターゲットを代えた。 飼育小屋とはいえ、二年前に建てなおしたばかりのものだから、そう簡単に壊れるものではない。 しかし、窓の代わりに付いている金網が見かけよりも脆いことと、中にいる動物達のストレスを思うと、一刻も早くやめさせなければならない。 しかし、相手はあのメリオリ夫婦。 教諭や用務員がモップやらほうきやらを持って尻込みしていると、一人の少年が中庭に現れた。 野球クラブの助っ人を切り上げてきたらしく、野球帽をかぶっている。 飼育委員会委員長、獅子走である。 「メリー、オリー、恐がらないで!」 まずは、飼育小屋への攻撃をやめさせるのが先決。 1m程の高さがある、水飲み場の上に飛び乗ると、少年は、十一歳にしてはいくぶん高めの声を張り上げて、夫婦の注意を惹いた。 「めぇぇぇぇ!」 その声に向けて、二匹が突進してくる。 飼育小屋から離れたこの場所ならば、説得に適していると思ったのか、少年は水飲み場のコンクリートから飛び降りて二匹の前に立ちはだかった。 ――「心配しないで、俺は君達を傷つけたりしないから」 目を閉じて、羊達に語りかける。 ――「落ちついて。…え?わき腹が痛いって?」 ――「あー。この間のあの時だね。後で治療してあげる。先生にも謝らせるから」 周りの大人達は、あんぐりと口をあけて、その光景を見ていた。 獅子委員長が羊達に語りかけると、羊は忽ち大人しくなったのだから。 まさに『あっけにとられた』という表現が相応しい。 羊達はすっかりしおらしくなり、「めぇぇ」と走少年に擦り寄ってきた。 動物と会話をすることが出来る不思議な能力を持ったこの少年は、のちに地球をも救うヒーローになるのだが、それはまた別の話。 ※ ※ ※ 『わたしたちのおうちもあぶなかったから…ほんとうにかんしゃしてるわ』 「へへ。どういたしまして。あ、これは二人にやられたんじゃないから、心配しないで?」 そう言うと、少年は照れくさそうに鼻の頭をかいた。 「でも、あんまりメリーさんとオリーさんを責めないでくれよな」 『あら、どうして?』 「この間毛刈りされたときについた傷が痛かったんだってさ。言ってた。ったく先生ヘタクソなんだもんなぁ」 『そうなの…ひつじってたいへんなのね』 「毛皮だったら、俺はうさぎさんの方が好きだけどなあ」 『あら、ありがと』 「おせじじゃないよ。一度でいいから、真っ白いふわふわのうさぎさん抱いて寝たいよ〜」 『じゃあねてみる?』 「へ?」 途端に、飼育小屋の隅にある巣穴の下でがさがさと煩い物音がする。 『ひとばんだけなら、いいわよ。うちのむすこつれてかえっても』 お母さんうさぎはウインクをするかわりに、片方の耳をぴこん、と動かした。 『ガク、いらっしゃい』 …………。 『ほら、はやくでてらっしゃい』 何秒かの沈黙の後。 ぴょこん、と。 うさぎ部屋の隅に掘ってある小さな穴から、真っ白い耳が飛び出した。 観念したのか、一目散にお母さんうさぎのところへ駆けて来る。 こうさぎは、お母さんうさぎの横に並ぶと、自分達の前にしゃがんでいる少年を見上げて、言った(正確には『心に語りかけた』というところか) 『おお、いいんちょうじゃねぇか。ひさしぶり』 「ガク、ひさしぶり」 このうさぎ、名前をガクといい、走と一番仲良しのうさぎなのである。 種類はドワーフホトト。耳の先からしっぽの先まで真っ白だが、ジャパニーズホワイトのように瞳が赤いわけではない。瞳の色は綺麗な黒。大きな瞳の周りは、アイラインのように黒く縁取られている。 走は、ガクをそっと抱き上げて顔を近づけた。 短めの前足が、走の胸に届くか届かないかのところでひょこひょこと動いている。黒耀のように煌く瞳がまた愛らしい。 ぽってりとした身体を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。 「今夜一緒に寝てくれるの?」 走は、たった今お母さんうさぎに貰ったばかりの提案をふっかけてみる。 すると、ガクはうさぎにしては短めの耳を寝かせてそっぽを向いてしまった。 (ホントに…素直じゃないな) 走は知っていた。 この仕草を人間の行動に例えるとすれば……そう。 『照れ』 (全く、可愛いんだからなぁ) 短気は損気。暫くの間、辛抱強く黙ってみる。 案の定、こうさぎは走の顔を見ないまま、こんなことを言った。 『…かあちゃんからのたのみだかんな。こんやはいっしょにねてやる』 「やったぁ!」 嬉しいついでに、この真っ白なこうさぎにちょっとしたちょっかいを出してみることにする。 抱いていたガクの背中を、毛並みと逆方向になでなでし、ふわふわの柔らかい毛皮をわざと逆立ててやる。 と、ガクは付き合ってらんねぇ、とばかりに、走の手の中から飛び降りてしまった。 「ごめんごめん」 笑みの成分が多分に含まれた声音で一応は謝った走の、その足元で、小さな塊がほてほてと動いている。逆立ったままの背中の毛が気になるのか、時々動きを止めては軽く振りかえり。 振りかえるたびに、小さな、綿の花のようなしっぽがぴょこんとはねる。 「ごめんって。今なおしてやるから」 小さな身体を掴まえて、再び抱き上げると、ふわふわと逆立った毛をなぜて元通りにしてやり。すると、こうさぎは前途多難、といった表情(?)で、軽く溜息をついた(ようにみえた) 『つぶすなよ。にんげんってやつはでかいからな』 そして、ぽす、と前足で走の胸を叩く。 ほっこりと暖かい身体を抱きしめて、走少年はうん、とにっこり笑った。 ※ ※ ※ 「で、その後どうしたって?」 「それがさー、抱き上げて飼育小屋出ようとしたら先生に捕まっちゃって」 「へぇ?」 「お母さんうさぎの許可貰ったからとか言っても駄目でさあ」 「まぁそりゃそうだな」 「結局駄目だった」 「ご愁傷様」 いつものように週末、走の部屋にて。 走が話して、岳がそれにちゃちゃをいれるという、いつものコーヒーブレイク。 ベッド脇にあるローテーブルに置かれた二つのマグカップからは、いい匂いのする湯気がふたすじ、天井を目指していた。 「あーあ。真っ白ふわふわぽっちゃり系のこうさぎちゃんとランデヴーできるチャンスだったのになー」 「ぬかせ」 「やっぱ飼育委員長だったからー。皆が真似するとよくないからってさー」 「あーはいはい」 「だからさぁ…なぁ?」 「は?」 「俺はこっちのうさぎさんとランデヴーってコトで」 「…って…ちょっとま……」 「カーテンは閉まってるし、ね?」 「そういう問題じゃ……ってこのエロ獣医!…ん…あぁ…っ」 悪口雑言の限りを尽くしても力は緩む筈もなく…… END? 2002.10.30. 脱稿 『十二年前シリーズ』第一段は、獅子飼育委員会委員長でした。 次は小学校五年生の鷲尾くんでしょうか。 っていうか、これ、某U嬢に指摘を受けたのですが、 小学校六年生の癖に委員長がそこはかとなくやらしい。 まぁね、獣医だしね。しょうがないよね?ね? そしてこの話は『獅子鷲(うさぎ)シリーズ』の一欠けらでもあります。 うさぎのガクちゃんと獣医のふれあい(?)をご覧になりたい方は、 是非『いただきもののページ』へ! ちっちゃい系、丸ぽっちゃり系のかっわいいうさぎのガクちゃんがいます(病) このあとうさぎエロをいれるつもりでした(こっそり) ⇒ブラウザの『戻る』ボタンでお戻り下さい。
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