To get a bit of your attention.





「イエロー」

「イエローってば」

「…ああ、わり。コーヒーそこ置いといて」



※    ※    ※



皆が寝静まったと思われる深夜。
ふと、コーヒーが飲みたくなってキッチンへ足を運んだ。
こんな夜中にコーヒーなんか飲んだら眠くなるだろうとか思ったけど、むしょうにあの香ばしい匂いが恋しくて。
お湯を沸かして、めんどくさいからインスタントで我慢して。…ホントはイエローの煎れてくれたヤツが一番うまいんだけどね。

「おい」

「イエロー?!」

丁度思考の中心にいた人物に、後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはジャージ姿で台所の入り口に凭れているイエローがいた。その色素の薄い金髪が、台所の中途半端な照明に当てられ、今はオレンジがかった色になっている。

「コーヒー、俺のも」

「インスタントだよ?」

「何でも」

それだけ言うと、イエローは踵を返して向こうへ行ってしまった。

ちぇ。何だよ。
あっついコーヒーがいっぱい注がれたマグカップ二つ持つのって、結構大変なんだぞ。二つっきりじゃお盆使う気にもならないしさ。人の気も知らないで。



※    ※    ※



スプーンとマグカップが触れ合う音をカチャカチャとさせながら、コーヒーの注文主の部屋の前まで来ると、ドアがうっすらと開いていて、そこから――どうやら若干明るいらしい――室内の光が漏れている。

薄く開いたドアを足で開き、身体を滑り込ませると、イエローはベッドの上に座りヘッドボードに寄り掛かって、何か本を読んでいた。部屋の電気は真っ暗に消され、ベッドサイドにあるランプだけがイエローの手元を照らしている。

首を曲げて、少し俯き加減で。
ランプに照らされて、伏せられた濃く長い睫毛が目元に深い影を落とし。


オレンジ色の光。

台所の光と、色彩もルクスもそう変わらない筈なのに、何故かとてもやらしくて。そして、そんな光に照らされたイエローと、この部屋のベッドを見て、この間の夜のことを思い出して。…そういや、あれ以来ヤってないな。

俺がそんな際どい思考に陥ってしまっている今この時でも、イエローは相変わらず俯いてページをめくってる。会話といえば、マグカップをどうするか俺に指示を出しただけ。…ってそれって会話って言えるの?

あーもう。折角二人っきりなのに。
部屋に置かれてる椅子に逆向きに腰掛けて、背もたれに顎を乗っけて足をぶらぶらさせる。あーあ。手持ち無沙汰。

「ねぇ、何読んでるの?」

「何だっていいだろ」

もっと構って欲しいのに。

「ねぇってば」

「…『ズッコケ三人組』とか『クレヨン王国』しか読まないガキンチョに言ってもわかんねーよ」


…うわ、ちょっとそれひどくない?

いくら俺でも『ズッコケ三人組』はもう読まないっての。
そういや、小学校の夏休みの宿題で読書感想文書かされたっけな。主人公のハチベエとか言うヤツが俺に似てるとか言って、担任の先生が笑ってた。
『クレヨン王国』は、好きだった女の子が良く読んでたから、どんな話かは知らないけど、本自体は知ってる。

「それとも『ぐりとぐら』か?」

「うるさいな。俺だって文庫本くらい読むよ」

「へぇ?」

面白そうに語尾を上げるクセに、顔はまだ上げてくんないんだな。

「信じてないだろ」

「何読むんだよ?」

「へ?」

「だから、何読むんだって聞いてんの」

聞き返したのは、意外だったからじゃなくて。
すぐに答えようか…どうしようか…迷ってた。

………。

よし…言っちゃおう。


「…M上春樹」



やっと顔を上げてくれたイエローは、にやり、と笑い。


「へえ?お前でもそんなん読むんだ」

読むよ。
読みましたよ。
読むようになったんだよ。


イエローの好きな作家なんだって聞いてから。



月並みな言い方だけどさ。
イエローのことをもっともっと知りたかったんだってば。

どんな目で世界を見ているか知りたくて。
けどそんなの解るはずも無くて。

だったら、活字を追うことで。
イエローの思考の切れ端かなんか、掴めないかなって。

『お前でも』って言い方、正解。
もー文庫本読むの辛くって辛くって。やっぱマンガのがいいや。

性に合わないって、まさにこの事だね。

でも、最近あんま構ってもらえなかったからさ。

だから…


…あーもう。俺ってすっごい健気。



とかなんとか考えてたら、イエローの白い指先が動いてた。
黄色いしおりを本に挟んで、ぱたん、て閉じてベッドサイドのテーブルの上に置く。

「何、もう読まないの?」

「ん。キリの良いとこまで読んだから…それにさ、お前」


「俺?」

へ?俺?


「構って欲しかったんだろ?そりゃあもうもう、似合わない事する位に」

「…コーヒー、冷めちゃうよ?」

「何、冷めるような事シたいの、お前?」






む。




………ちっくしょ。

今日も俺の負けかよ。








                    END?







2002.07.15. 脱稿

鮫っ子誕生日(6月27日)に何もアップ出来なかったので。
この鮫鷲は鮫っ子BD記念SSとさせて頂きます(強引)

鮫鷲。ウチのサイトは鷲鮫(リバ可)です。
っていうか鮫は攻属性です。鷲は受属性です。
牛鮫は牛鮫ですけれども(笑)


鷲の好きな作家さんはモロ役者ネタです(苦笑)
でも、ちょっと納得できる感じ。
うちの鷲さん結構本読んでるしね。


小ネタに付き合って下さってどうもありがとうございました★
久しぶりに鮫っ子が書けた上、書きたかった鮫鷲書けて自己満足です(笑)