It’s all things In time, Time will reveal. 〜ヴォイス〜





キスの時ほっぺたにそえられる左手や

抱き合った時に薫る肩口の匂いとか

その全てが俺だけのもの

これ以上無いくらいしっくりくる


コイツの隣は絶対渡さない




―――― 僕の名前を 呼ぶのは誰 ――――― 〜SIDE BLUE〜



親しい人達の元を離れて、戦いに明け暮れる毎日。
岳や冴とのコミュニケーションは上手く取れているものの、自分の位置付けが良く解らない。戦闘はからっきし。
自衛隊にいた岳や、武芸十八般を叩きこまれている冴と違って、自分は標準より多少運動神経が良い程度で、三人揃っての戦いとなると専ら先鋒担当だった。



戦いに疲れ、重たくなった身体をベッドに横たえ、うとうとと夢に落ちてゆく。

『…ぃ……かい…』

夢とも現とも解らぬ狭間で、その声は紡がれている。

『かい……海…』

それは呼びかけ。自分の名前を呼ぶ声。
その響きは水滴の様にささやかに。

『海…』

音は言葉を紡ぎ出し、言葉は呼びかけへと変わる。
その呼びかけはうねりとなって、自分の心臓を弾いていく。

『海…』



「名前は、捨てろ」
岳は有無を言わさずに、色名で呼ぶ事を義務付けた。
士気を高める為、ガオレンジャーとしての自覚を持たせる為…理由は尤もだと思いつつも、長年付き合ってきた名前を手放すのは、悲しい事だった。
ガオズロックにいる限り、自分はもう『海』ではないのだから。

だからこそ、自分を『海』と呼ぶその声が、とても愛しかったのだ。

それからというもの、自分が弱気になって眠りについたりする時などは必ず、その声が聞こえるようになった。
こんな状況でも卑屈にならずにやってこれたのは、自分の生まれ持ったこの負けず嫌いの性格と、『声』のおかげである。


『会いにいく…待ってて…』

「お前は…誰だ…?俺の名前を…どうして…?」

自分の発したその疑問は、夜の闇に吸い込まれていった。






―――― 君に触れる以上 大切な事を思いつかない ―――― 〜SIDE BLACK〜


宅配ピザなんて店の種類は数あれど、長く取っていると配達を頼む店はいつも同じになるもので。
「ちわっす!ピザをお届けにまいりました!」
帽子を浅めにかぶり、大きな瞳が印象的なその青年の胸にある名札には、「鮫津」と書かれている。ピザを頼んだ回数のうち、ほぼ半分位はこのアルバイトの手によっての配達であったため、顔見知りであった。
相手もそれは分かっているのか、自分に向かってにこっと微笑むと、
「ありがとうございましたッ!」帽子を取って、会釈する。
その動作はさながら、海を渡る風の様にさわやかで。
去ってしまった原付自転車を見送りながら、次こそは下の名前を聞いてみようと決心する。


…そう決心したのが、四ヶ月前。
彼に最後に会ってから、四ヶ月。
ピザを注文する度に、配達してくれる人間に尋ねようとも思うのだが、ただの顔見知りというだけで去就を尋ねるのは気が引けて、結局分からず仕舞だった。


いつからだろう。
自分は夢の中で、いつも誰かを呼んでいる。

「―――」

夢の中の自分が何と呼んでいるのかは、いつも解らない。

「―――」

ただただ、呼ぶのみ。
相手からの返事は無く、まるで音の無い夢のようだ。

「―――」

空気の振動が身体に届くと、自分の肌が粟立つのが解る。
自分が呼びかけたその先には、一体誰がいるのだろう。
誰が、待っていてくれるのだろう。


逢いたい…



失われた半身 片翼 愛した人…

そんな大層なものじゃなくていい

けれど逢えば絶対にしっくりくる



逢いに行く


待ってて








                END




2001.12.11.脱稿

曲を初めて聴いた時から牛鮫に聞こえてしょうがなかった、『ヴォイス』ネタです。
そして花ピザ。
牛鮫はオフィシャルなので何でも許されるような気がします…
ガンガンギギ―ン!(激違)