Men with hearts gold,spirits made to soar.





丘に立ち、吹きつける風に身をさらしても誤魔化す事が出来ない程の熱さ。
衣の隙間から入り込む風を持ってしても、この熱をおさめる事は出来ないのか。
身体の横で握っている拳を胸の辺りまで上げて、もう一度握り直す。

双ヶ岡からは、京が一目にして見渡せる。

四神相応の地として、神威にも守られている美しい京。
しかし、今見下ろしているその地からは、禍々しい邪気が螺旋となって天へと昇るのみ。

それは、かつてない強大な鬼が、京へと兵を進めている証拠。
そして戦いは、ますます激しくなる事だろう。

守らねばならぬ者たち。

守らねばならぬうつつの全て。


そして…供に戦う仲間たち。


それら全ての幸福を、平安を、祈らずにはいられない。


※    ※    ※


黄櫨こうろ

名を呼ばれて顔を上げると、目の前に鮮やかな山吹が一輪。
否、それは花ではなく、花の形を借りた炎。

こんな事をする奴は、黄櫨が知っている中では一人しかいない。

緋赤ひあかか」

苦笑しながらそう呼ぶと、目の前の山吹が、ふいに三つに増えた。

「何を戯れている?」

黄櫨の後ろに立っていたであろう緋赤は、その問いには答えず、くすくすと笑って黄櫨の横に立った。
堅く握り締められたままの拳を両手で包み、ゆっくりとその指を解かせる。
そして、解いた拳の上から自分の両手をかぶせ、逆に聞き返した。


「何を考えている?」

「…此れから始まるであろう戦いの顛末を」


風を巧みに操って、軽々と鬼を片付けていく男、黄櫨も、今度の戦いが一層激しいものになるという事について、少なからず不安を抱いている。
今まで以上に危険だということは、重々承知している。
しかし、未だかつて受けたことのないような激しい邪気と相対し、全てが無事であるとは到底思えない。
その役回り故、自分より仲間の身を案じる癖のあるこの男が、まだ見えぬ未来に幾分かの不安を抱いてもなんの不思議もない。

「黄…」

先程握った手が、思った以上に湿っていた。たったそれだけの事で、黄櫨の心中を察していた緋赤が口を開きかけたその時、枝の揺れる音がして、二人の後にある森から一羽の鳥が姿を顕した。

「烏か?」

「ああ。そのようだ」

嘴の先から尾羽まで。漆黒の鳥は、見たところ烏であるようだ。
見上げる二人の頭上を旋回すると、一直線に降下して、黄櫨の肩へと落ちつく場所を決めた。

「お前…」

己の肩に止まった烏。
首を捻る様にして、その姿を見た黄櫨は、思わず息をのんだ。
切れ長の目を大きく見開いて、その烏を神々しそうに見つめる。

八咫烏やたがらす!?」

それは、沈着冷静、取り乱す事など殆どない緋赤が、珍しくあげた大声であった。



嘴の先から尾羽まで。

漆黒の瞳、漆黒の足。

美しすぎる程の、黒。


そしてその烏は、三本足だった。



※    ※    ※




八咫烏。

『古事記』や『日本書紀』には神武天皇の東征の途上、天から遣わされ道案内をし、吉野の山中を導いたという記述も残っている伝説の烏。
唐の国では古来から、太陽の中に三本足の烏が住むと考えられていて、太陽は三本足の烏によって空を運ばれるとも考えられている。陰陽五行思想では、二は陰数で太陽にふさわしくなく、陽数である三こそがが太陽に相応しいからだ。

太陽神の使いである八咫烏。
緋赤や黄櫨達程の者であっても、その姿を見たものは未だ嘗ていなかったのであるが。

「何だ?」

ようやく口を開くことが出来た緋赤が、八咫烏に向かって話しかけた。
神の使いであるならが、人語を解することなど容易であろう。

そんな考えが当たっていたのか。
八咫烏は、漆黒の瞳を緋赤の方に向け、三本目の足を差し出した。

「これは…」

差し出したのは足ではなく、その足が掴んでいたものだったらしい。

それは、真紅の色を湛えた一つの宝珠。
まるで、お前を待っていたとでも言うかの様に、それはすっぽりと緋赤の掌に納まった。

その瞬間。


緋赤が手に取った瞬間、宝珠は緋赤の力に呼応するかのように、激しく閃光を放った。

「…ッ!」


激しい光の洪水に目を開けられなくなった二人がようやく瞼を押し上げた時、八咫烏は黄櫨の肩から飛び去り、遥か彼方へとその姿を消してしまっていた。


※    ※    ※


「八咫烏、か」

「まさか俺達の前に姿を顕すとはな」

つきは、此方の方にあるのかもしれんぞ。
そう言って微笑んだ緋赤は、掌にある宝珠を転がして、感触を実感する。
つられて微笑んだ黄櫨が、その掌に自分のそれを重ねて。


しかし、そんな瞬間にも彼らは、己達を背後から付け狙う邪気の存在に気が付いていた。

「ふ。この宝珠の力を試す時が、こんなにも早く訪れるとはな」

「くれぐれもやり過ぎてくれるなよ、緋赤」

「黄櫨、お前もな」

お互いの手を重ね合わせたまま、視線をぶつけてにやりと笑い。




一瞬。



鋭い風に煽られた炎の刃が、辺りの空間を薙いだ。














2002.06.20. 脱稿

ワールドカップ日本代表お疲れ様突発SS。
ごめんなさいこんなに遊んでて…。

八咫烏。
日本サッカー協会のシンボルとして有名です。
(サイトはhttp://www.jfa.or.jp/)
ユニフォームにも必ず入ってます。
話中で八咫烏がとった、三本目の足で宝珠を差し出すポーズ。
日本代表の胸マークが丁度そのポーズなんです(笑)


真っ赤な宝珠。
鳥繋がりできっとガオファルコンでしょう。
強大な鬼とか言ってるけど百鬼丸じゃないです。
中ボスです。羅刹とか朱天とかみたいな。

日本代表、お疲れ様でした!

BGMは勿論『ANTHEM』(TVでもスタジアムでも流れている例のテーマソング)で♪