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my doo―be―di―boy 「ブラック!ぶらーっく!!」 そう叫びながら泉の間に入ってきたブルーに腕を引っ張られながら、廊下を早足で進んでいる。 「ちょっ…ちょっと待ってブルー…?何でそんなに急いでるの?」 そう言っても、目の前の茶髪は振り返るそぶりも見せず。 立ち止まったのは丁度、ブルーの部屋の前だった。 「サボテン…」 「え…?」 「ブラックに貰ったサボテンに、花が咲いたんだ!」 ブルーの言葉が発せられたのと、扉が開いたのはほぼ同時だった。 だもんで、ベッドサイドの机の上に置かれた小型サボテンに咲いている桃色の花を簡単に発見する事が出来た。 「ああ、ホントだ!」 「だろー?♪」 隣ではブルーがにこにこと笑っている。 その笑顔がまぶしくて、後ろからそっと抱き締めた。 ※ ※ ※ 「ぶらーっく!」 「なぁに?ブルー?」 自分の部屋で、観葉植物の鉢を動かすのを手伝ってもらっているブルーが、突然、思いついたように声をあげた。 「俺にもさ、育てられる植物ってない?」 自分の部屋にグリーンを置きたいが、飽きっぽい自分では少々不安だと言う。 そんなブルーの性格も考えて、自分が差し出したのはサボテンの鉢。 「ブルー、これなら普段部屋に置いておいて、晴れてる時に屋上に出すだけだから、簡単だよ。水やりも毎日必要なわけじゃないし、丈夫だから」 ペレキフォラ属のサボテンで、俗名は『精巧丸』という。もう一つ俗名があるのだけれど、それを口に出すのは何となく気恥ずかしくて、ブルーには教えなかった。 「ありがとブラック。頑張って育てるな♪」 ※ ※ ※ それからずっとブルーの部屋に行く度に、そのサボテンを見ていた。 ブルーが何も言わなくても、頑張っている姿は、鮮やかに成ってくる色艶、膨らんでくる蕾を見れば解る。 自分が選んだサボテンを、ブルーが大事にしてくれる。 ブルーも、大事にされているサボテンも、愛しくてしょうがなかった。 「ブルー、頑張って育ててたもんね。おめでとう」 「ありがと。でも、言われた事やってただけだぞ?」 「それでも偉い。えらいえらい」 えらいえらい。そう言いながら腕の中の頭をぐりぐりと撫でていると、ブルーが不満そうな声をあげた。 「なんかガキ扱いされてるみたいだ…むぅ…」 怒らせてしまっただろうか? 「あ…ごめんブルー…怒った?」 いつもの条件反射でつい謝ってしまう。 「おこった!だからお詫びに…」 今度は、どんな『お願い』をされるのだろう。 でもその『お願い』すら、自分には嬉しい事のひとつなのだから。 惚れた弱みっていうものは恐ろしいな、なんて思ってみたりもする。 「今夜はつきあえ!!」 「へ?!」 「お祝い、しようぜ♪レッドの部屋からくすねてきた、CINZANOのスパークリングワインで♪」 「CINZANO…って、レッドのお気に入りの…?」 「うん☆シャンパン代わりにいいかなと思って。いちおう断ろうと思ったんだけど、レッドのやつイエローの部屋にいるんだもん。邪魔しちゃ悪いじゃん?」 ※ ※ ※ それから何回も繰り返し乾杯をして。 程よく酔いが回ったところで二人してベッドに雪崩れ込んで。 朝、ブルーより先に目が覚めた自分は、サボテンを見て「あ…」と小さく呟いた。 「ん…?ぶらっく…?もうあさ…??」 その声のせいか、はたまた自分の気配のせいか、隣でブルーが目覚めた。 大きな目をこしこしと擦り、自分の見ていた物に焦点を合わせているようだ。 「あ〜〜!!」 一糸纏わぬ姿でシーツの海から飛び降りると、机の上(落とすといけないので、昨夜はベッドサイド上から移動させていた)にある鉢を手に、戻ってくる。 「花…しおれちゃってる…」 「ブルー、サボテンの花ってすぐ枯れちゃうけど、大切に育てればまたすぐに蕾を付けるんだよ」 「そうなの…?じゃぁちょっとの間お別れだな、お前」 そう言って、ブルーはサボテンの花びらをそっと撫でた。 その動作が余りにも綺麗で、少しの間ブルーの手に釘付けになってしまった。 少し深爪気味の指先。大きめの爪。男にしては細い指。うっすらと手の甲に浮かぶ骨のライン。 親指の付け根の膨らみには、自分のつけた紅い跡が残っている。 「ブラック?何見てるんだ?」 「や、セクシーだなと思って」 「…っ馬鹿!」 いつ君に伝えようか。 このサボテンの名前を。 そしてそれは君の事だよって。 伝えたら君はどんな顔をするだろう。 『美男子』 そんな名前のサボテン。 END 2002.01.03. 脱稿 言わずもがなですが、『Youthful Days』ネタです(笑) 牛鮫〜牛鮫〜…絶対牛鮫だってばこの曲〜!! あ、レッドがチンザノ好きっていうのは役者ネタですな。 チンザノのスパークリングワイン、下手なシャンパン飲むよりイケてる。 丁度この時SS大量生産でした。 うみきんぎょがこの曲の一番で何か書いてくれるらしい…(わくわく) ⇒戻る
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