ケルト神話はダーナ神族と呼ばれる者達の物語です。
 ダーナ神族はフォモール(「海の底から来た者」の意)族と抗争を繰り返し
 フォモール族の血を引くブレス王は悪役として扱われています。
 そして、フォモール族でも最強の武将・魔眼のバロール
 そのバロールの血を引きながら、ダーナ側に与した若者ルー。
 その二人の戦いはケルト神話でも見所です。
 そして、勝利者ルーは神として崇拝されるようになりました。
 

 しかし歴史は無常ものです。
 やがて、栄華を誇っていたダーナ神族も
 西からやって来たミレー族と戦って敗走し
 アイルランドはミレー族の治めるところになりました。
 そして、ミレー族はアイルランドをいくつかの王国に分けて統治しました。
 いわゆる身分制度も確立されていて
 国王から土地を預けられる貴族
 軍人として国王に臣従する騎士
 教師として重んじられるドゥルイド(「樫の木の知恵者」の意)僧
 ドゥルイド僧の一派として世評を握る吟遊詩人
 ・・・その他、色々な職業。
 その中で、今回のお話は騎士階級です。

 

 この時代、アイルランドの5王国の一つ、アルスター王国では
 騎士団は赤枝戦士団と呼ばれていました。
 そして、その頃の合戦は身内どうしの喧嘩のようなものですから
 国どうしのもめ事に白黒をつける決闘と言う要素が強く
 それなりの身分を持つ戦士でなければ参加が許されない儀式で
 それを受け持つ戦士達には誇りと美学が求められました。
 そして、そうした誇り高い戦士達の例に漏れず
 赤枝戦士団もまた己の生命よりも名誉を重んじる戦士達でした。

 

 当時、戦士達は馬の背には乗らず
 馬は馬車(「戦車」と言います)を引くために使われていました。
 この戦車は戦士達にとっては欠かせない武具で
 良い馬、良い車、良い御者、それらはとても大事にされていました。
 そして、この戦車の上から戦士達は盾を構えて
 槍を投げて戦いました。
 その様子は古代ギリシアの叙事詩「イリアス」とか
 古代インドの叙事詩「マハー・バーラタ」にも似ています。
 「イリアス」や「マハーバーラタ」でも現地の戦士達は
 御者の運転する戦車に乗るのを名誉にしていましたし
 投げ槍は代表的な合戦の武具でした。
 ただ、古代インドや古代ギリシアでは「弓矢」が大切にされましたが
 ここケルトの戦士達は「投石機」に通じていました。
 この戦士達の使う「投石機」とは
 石を紐で振り回して投げるための道具で
 彼らはかなり大きな石も振り回せたようです。
 他に、古代インドや古代ギリシアの戦士達の違いとして
 ケルトの戦士達があまり鎧を好まなかった事があげられます。
 これは彼らが己の肉体を誇っていたからとも考えられます。
 

 そんな屈強揃いの赤枝戦士団の中でも一きわ有名なのが
 ク・ホリン(「ホリンの猛犬」の意)です。
 彼はその肉体も、技量も、根性もこの当時では随一の猛者で
 その生まれも、生き様も、最期さえも戦士らしい男でした。

 

 それでは、この戦士ク・ホリンの伝説に移りましょう。

 


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