全く開けぴろげで、自由であった。みんな水を得た魚の如く、
澄んだその秋の中を徘徊していた。秋晴れのすがすがしい天気であった。
しかし登りの道中、大木の木陰に入るとひんやりと身が引き締まるような寒さを感じた。
山には、既に霜が降りたと見えて、日陰は白くなっていた。反対に日向は、
弱い光線ではあったが、それでも霜が解け始めていてうっすらと濡れていた。
登りの小径を歩く我々のところに届く陽は、やっと木々の間をすり抜けて来ているかの様であった。
時折、桜か何かの木の下を通るとそれが水滴になって首筋あたりに落ちてきては、
奇声があちらこちらであがった。紅葉しきった木々の葉も、もはや霜の重さに耐えられないのか、
風が無くともひらひらと散り始めていた。
昼近くであったが秋の陽は、すでに低い位置にあった。それでも登るほどに、
飲むほどに暑く(熱く)なって皆セーターや上着を脱ぎ捨てて首や腰に縛り付けた。
そして頂上につく頃には皆ほとんど出来上がって陽気な寮生になっていた。
昼食が終わり気がつくと、この遠足のクライマックスを迎えていた。皆円陣を組み、
寮歌を歌っていた。ある者は寮生が作る円陣の中心に位置したあの高い石塔のうえによじ登って、
指揮者気取りで皆を見下ろしながら例の手まねで調子を取っていた。
またある者は、更にウイスキーを注ぎ回っていた。円陣の皆はどうかというと手拍子をしたり、
肩を組み合ったりしていて、まさに歌声は今にも涸れんばかりで、最高潮に達していた。
青春期特有の恥ずかしさなどは、歌声に乗ってどこかに吹っ飛んで行ったようだった。
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