伸びた針の曲げ強さ


 もう10数年前になりますが、チヌ針2号をボラに伸ばされました。 当時は伸びた針は弱くなることをさほど認識していなかったので、ペンチで針を元の形にに戻して釣りを続けたのですが、続けて掛かったボラにあっという間にまた針を伸ばされてしまいました。以降は伸びた針は絶対に使わないようにしていました。 ところが最近、釣友が同じようなことで魚をばらしてしまいました。 さらに釣りビジョンでもあの○○名人が・・・(特殊な仕掛けだったけど)。

伸びた針は曲げ強さが低下することを知らない人もいるようなのでどの程度低下するか?調べてみました。

1.測定方法

針はアブミ6号というチヌ針1号より小さいものを使用した。これは釣りの科学の「仕掛け、餌の沈降速度(EXクロ編) 」で登場した針である。尚、針の返しの引っ掛かりが測定値の振れに影響しそうだったのでペンチで潰して測定した。

ラインの強さを測定する引っ張り試験器を用いて写真のような状態で針を下に引っ張り、針が伸びてスイベルから外れるまでの曲げ強さを測定した。さらに一度伸びた針をペンチで元の形に戻して2度、3度、4度と繰り返して測定した。

ちょっと変な引っ張り方だが、針にラインを結び、普通に引っ張ると針が折れてしまい、今回の目的である伸びた針の曲げ強さが測定できなかったので仕方なくこのやり方を採用した。

 

2.測定結果

測定は4回行い、そのデータと図を示す。初回の曲げ強さに比べ、2回目以降は約3割程度曲げ強さが低下した。さらに詳しく見ると2回目で低下した曲げ強さが3、4回目は若干ながら回復する傾向が見られた。データの振れが大きいので誤差かもしれないが、変形による加工硬化の可能性があるとのこと。

  初回 2回目 3回目 4回目
実験1 2.11 1.55 1.76 1.86
実験2 2.45 1.15 1.26 1.55
実験3 2.35 1.86 針折れ -
実験4 2.55 1.74 1.72 1.64
平均 2.37 1.58 1.58 1.68
強さ比 100 66 67 71

3.結論

伸びた針の曲げ強さは大幅に低下します。伸びた針はすぐに交換しましょう!

 

4.感想

 最近になってラインや針の強さを測定していますが、再開する切っ掛けはよたろうさんからのメールでした。よたろうさんは金属熱処理の専門家とのことで、偶然にもメールをもらったほんの数日前に釣友が針を伸ばされたばかりでした。丁度良い機会と思って針の強さについてよたろうさんに色々質問しました。そしてメールのやりとり をしているうちに「では測定してみようか?」と思い、測定器の作製から始めた次第です。

針が伸びる現象についての専門家としての解説は以下の通りです。 よたろうさん、ご協力ありがとうございました!

針はその形に 成型された後、焼入れ・焼戻しという2種類の熱処理をします。焼入れで硬くして、焼戻しで粘りを出します。

金属を引張っていくと始め、荷重-伸びのグラフは直線を示します。ちょうど針を曲げようとして 放すとビヨヨ〜ンと元に戻るときの力の範囲です。この変形を「弾性変形」といいます。弾性変形の範囲内なら荷重を抜くと元のサイズに戻ります。

しかし、ある一定の荷重(弾性限界)を超えると荷重-伸びのグラフは上下にガクガクとした領域(降伏点)を経て上に凸の曲線を描きます。この時がちょうど針が伸びてしまったときの状態です。この変形を「塑性変形」といいます。一度塑性変形を起こしてしまうと元の弾性の状態には戻りません。

新しい針は荷重に対してビヨヨ〜ンと元に戻る弾性の性質のおかげで魚の引きに対してもフックの形状を維持してくれますが、一度伸びた針は塑性の性質のため、魚の引きという荷重に対して荷重の分だけ変形します。そのためまたすぐに伸びてバレます。

実際には材料にもよりますが、一回伸びた針は針金みたいなモノです。



5.今後

よたろうさんからは以下のようなリクエストをもらっていますので、そのうちやってみます。

・メーカー・型別の針の強さの比較たとえば同じ「チヌ1号」でも「がまかつとオーナーでは?」
・「伊勢尼とグレ針ではどっちが強い?」

でも針の引っ張り試験は針先が折れて飛び、危険なのであまりやりたくないです。