● クロダイ釣りでの確率論  

*クロダイが釣れる確率の計算に間違いがありました。データを訂正し、考察の記載も一部変更しました。
 また、確率のグラフを追加しました。

黒鯛釣りは餌使いがむずかしい.餌取りとの戦いでもある.
私は状況に応じて,オキアミ⇒イソメ⇒練り餌⇒サナギと餌を変えるタイプであるが, 一方では一年中オキアミを使う人がいる. また,私は常々底釣りがメインであるが,一方では浅タナで浮かせて釣る人がいる.

最近,浮きや仕掛けで悩むことはあまりなくなったが,黒鯛つりで上記の点が釈然としないところであった. おそらく,オキアミで浮かせて釣れるのは餌取り状況が釣り場によって違い, チヌが浮きやすい釣り場での話だろう,と安易に考えてきた. 実際に深タナで釣れるし,わざわざ浮かせる必要性などあまり感じられないことから, あまり気にも留めていなかったが...

常々雑魚の中から選択的にクロダイを釣るには,クロダイの泳層に餌をなるべく長く漂わせ,また多くの雑魚をコマセなどで分離したり,狙うタナを分けるなどの作業が必要であって, これを私はフィルタという概念で捉えてきた.

ちょっと,大げさな表現だったからも知れないが,今回はこのような考え方をよりクリアするために,確率論的に捉え, フィルタ効果として捉えてみたら,どうなるかを考えてみた.

数字のお遊び的な話になるが,やってみるとなかなか面白い結果がでてきた.

 

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基本的な考え方として,黒鯛は底付近にいる確率が非常に高い. これに対し,オキアミは食いがいいが,餌取りに弱く底まで届き難い. サナギや練り餌は餌持ちがいいが, オキアミよりは食いは悪い.

そこで,分析の手法として, 餌取りの多い夏から秋で,釣り場にいる魚はクロダイ,メジナ,海タナゴがコマセに群がっている状態を想定し,

  • 各魚の魚体数の存在確率を入れる.
  • 使用する餌はオキアミ,練り餌,サナギとする.
  • 各魚の餌の嗜好の度合いを数値化して入れる.
  • コマセを撒いた状態での各魚の上層/中層/下層の魚の存在確率を入れる.

    ⇒ 魚の釣れる確率を求める. 餌の相違, 釣れるタナを分析する.

     

『条件設定: 餌の嗜好』
オキアミがどんな魚でも一番人気として, 以下のような嗜好値を設定した.
これはたとえば,クロダイで言えば,10匹のクロダイが居たとして,7匹がオキアミを,2匹が練り餌を,1匹がサナギを食べたという意味合いである. メジナ・タナゴはほとんどサナギを食べないのでゼロ, 練り餌で海タナゴがつれることも珍しいので0.1とした.

表1.
お魚の種類
オキアミ
練り餌
サナギ
クロダイ
0.7
0.2
0.1
メジナ
0.8
0.2
海タナゴ
0.9
0.1

『条件設定: お魚の母集団,存在確率』
全体で100匹のうち,クロダイが4匹だけいて,他はメジナ/海タナゴが半々づついるという仮定である.
かなりチヌが薄いという設定である.

表2.
お魚の種類
お魚の存在確率(母集団)
クロダイ
4/100
メジナ
48/100
海タナゴ
48/100

『条件設定: お魚の上層/中層/下層の存在確率』
ここでは,お魚達がコマセに群がっている状態を想定している.上層〜中層にメジナ,海タナゴが群がるが, 黒鯛は下層に多く分布していて浮いてはこない,と仮定する. まあざっくりと,以下の数値が常識的かと思う.
ここでは確率として捕えているので, 活性が上がってチヌが浮くなどの要素は,たとえ浮いたとしても短時間として,上層では10%とした.

表3.
お魚の種類
お魚の存在確率(タナ)...コマセで寄せた状態
 
中層
上層
クロダイ
0.7
0.2
0.1
メジナ
0.1
0.3
0.6
タナゴ
0.1
0.4
0.5

『条件設定: 餌が各層に届く確率を付加する』
オキアミなどのように餌取りに弱い餌は下層にいくほど,餌自身の存在確率が減ってくる.
サナギや練り餌は下層まで届く確率がずっと高い.
したがって, この要素を各層での存在確率として,重み付けをする必要がある.

表4. 餌の各層での存在確率
お魚の種類
餌がタナに届く確率の重み付け
 
下層
中層
上層
オキアミ
0.1
0.5
0.9
練り餌
0.5
0.8
サナギ

 

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『お魚の釣れる確率』

表1〜4までの設定条件で,それぞれの魚の釣れる確率を計算してみる.
計算方法は,表1〜4の掛け算である.

  • 釣れる確率 = (餌の嗜好) X (母集団比率) X (各タナの魚の存在確率) X (餌の存在確率)
  • 各餌での釣れる確率を上層/中層/下層に分けて,比較してみる.

結果は以下のようになった.(訂正箇所

表5. オキアミ の場合
お魚の種類
お魚の釣れる確率(オキアミ)
 
下層
中層
上層
クロダイ
0.0020
0.0028
0.0025
メジナ
0.0038
0.0576
0.2074
タナゴ
0.0043
0.0864
0.1944

表6. 練り餌の場合
お魚の種類
お魚の釣れる確率(練り餌)
 
下層
中層
上層
クロダイ
0.0028
0.0013
0.0008
メジナ
0.0048
0.0230
0.0576
タナゴ
0.0024
0.0154
0.0240

表7. サナギの場合
お魚の種類
お魚の釣れる確率(サナギ)
 
下層
中層
上層
クロダイ
0.0028
0.0008
0.0004
メジナ
タナゴ

図にまとめると次の通り.

 

 

 

 

 

 

 

 

『まとめと考察』

非常に単純化したラフな試算ではあるが,上表、図をよく見ると,おもしろいことがわかる.

  • 練り餌,サナギを使って下層を狙うか、あるいは中層をオキアミで狙うのが一番よく釣れる.
  • 餌持ちのよい練り餌・サナギは, クロダイの分布をそのまま反映して,下層でよく釣れる.
  • オキアミは,クロダイが下層に多く分布しているとしているにもかかわらず,下層〜上層にかけて釣れる確率が均等化しており,わずかだが中層〜上層の方が釣れる.
  • しかし中層〜上層の場合、オキアミは,メジナ・タナゴが釣れてしまう確率がクロダイより20〜80倍も大きい.(実際には餌を掠め取られているから,実際とそうずれてはいないだろう)

    オキアミの場合

上述したように,クロダイの釣れる確率は,クロダイが下層に多く分布していると条件設定としているにもかかわらず, 釣れる確率は中層〜上層の方がかえって高い. 逆に,餌持ちのよい練り餌やサナギを使った場合は, クロダイの分布を反映して底で釣れる確率が高い.

これは非常におもしろいことである.
おそらく,オキアミを使っている釣り人は中層〜上層の方がより多くつれるのだから,クロダイが浮いている,上ずっていると感じるはずだ. 逆に,練り餌やサナギを使っている人は,同じ状況下でも底の方で釣れるのだから,クロダイは底にしかいない,と感じていることになる.

これは以外な盲点だったのではないだろうか? チヌは浮く,浮かせて釣る..とよく言われるが, これはもしかしたら,錯覚なのではないだろうか? 餌取りのため下層での餌の存在確率が減り,上層の方が却って釣れるという逆転現象のために, “浮いてきている”,と錯覚することは,確率論的に大いにありえることだ.

中〜上層では他魚のヒット確率がクロダイより2桁近く高い. したがって,餌取り対策が極めて重要になってくることが,この表からも窺がいしることができる.


練り餌の場合

餌持ちがよいので,クロダイの釣れる確率は下層の方が高く, 餌の嗜好性を オキアミ:練り餌=7:2 としたが,オキアミよりもヒット確率が高い. 下層で メジナ,タナゴが釣れてしまう確率も小さいので,クロダイを釣るという選択性もよい
タナを浅くしてやると,メジナ・タナゴがよく釣れるようになる. 飽きの来ない,バランスの良い餌であるといえる. 夏〜秋に練り餌の人気が高いのもそのためだろう.

ただし,練り餌といっても万能ではなく,練り餌はカワハギ,フグ,シマダイなどには餌取り対策としての効果はあまり期待できないし, 冷温期には極端に食いが落ちてくる. やはり,季節や餌取りの状況に合わせた使い方が必要である.


サナギの場合

クロダイ釣りに徹するのであれば,やはりサナギが完璧が結果を出してきた.
餌の嗜好性は オキアミ:練り餌:サナギ=7:2:1と設定しているにもかかわらず,ヒット確率は練り餌と並びトップとなった. サナギ餌では,他魚のアタリがでる頻度が極端に下がり退屈なため,敬遠されがちであるが,クロダイがヒットする確率は高く, 練り餌に劣らないのである. ここの設定条件では選択性・フィルタ効果は完璧である.

結言
活性期でのオキアミ餌を使った黒鯛釣りでは,餌取りをかわすコマセワークが必須であり, クロダイに食いを立たせる必要があるため,コマセの工夫も必要になってくる. オキアミブロックが欠かせないのもこのためともいえる. 実際にクロダイが浮いてくるケースもあるとは思うが,下層に多く分布しているという定常的な状態でも,確率論的に 中〜上層でヒットする確率も高いことが裏付けられた.

一方,練り餌・サナギの場合は餌自身に選択性/フィルタ効果があるが故に, 底釣りが理にかなっていることが裏付けられた. オキアミの場合のように神経質なコマセワークも不要である. また, コマセ配合も ”食いを立たせる”より ”寄せる” ことを主眼にしたものでよく, 紀州ダンゴ釣りに使われるような ヌカ メインのコマセでも充分に釣りになるのである. コマセの打ち方もより単純でよい.

練り餌やサナギで釣果が上がるのは,極論をすれば,雑魚に人気のない嗜好性によって,フィルタ効果を発揮するからである. この意味においては,食いのよい練り餌というのは矛盾する. 餌取りが多い状況下では,より硬くより大きく,というように雑魚が食べにくくする方が良いのは,そのためである. ただし,非活性期においては,オキアミは底に届き,餌取りさえ突付かなくなる. このような状況下では,もっとも嗜好性の高い練り餌やオキアミを使う方が有利なのは言うまでもないことである.

以上のように今回の分析で,冒頭に述べた釈然しなかった部分が明確になったように思う.
私は 冬〜春の冷水温期以外,オキアミを使った釣りをしなくなってからもう何年も経った.
 「よくわからないフカセ論」でのべたようなここ数年来の疑問が,今回の分析で晴れたような気がしている.
そしてまた,これまで私がやってきた黒鯛釣りが理に叶っていたのだと,安堵している.