午後4時。 「ただいまー。」 と、玄関を開けようとしたソラはドアに鍵が掛かっていることに気づく。 「かあちゃん、まだ帰っとらんがか…。」 呟きながら、合い鍵を出す。ソラは母がパートに出るようになってから合い鍵を持たさ れるようになっていた。ソラの方が早く帰った時の為であるが、大体は母の方が先に帰 るので、ほとんど使ったためしがなかった。 「よいしょ…っと。」 鍵を開けて中に入る。居間の明かりをつけるとテーブルの上に紙が置いて有る。 「何じゃ、これ。えーっと…ソラへ…。何々?」 一気に手紙を読み終えてから時計を見る。 「帰りはいつになるかわからない…か。」 深い溜息をつく。 「かあちゃん…。」
そのころ母はある場所にいた。 家を出てからどのくらい時間が過ぎたのだろう。ふと腕時計を見る。 「4時…か。」 ソラが帰る前に家に帰って手紙を捨ててしまえば、何事も無かったように普段の生活が 戻ってくる。そんな事は母自身が一番良くわかっていた。でも、もう遅い。ソラがそろ そろ帰ってきている時間。今頃は置き手紙を見て驚いているに違いない。少し背筋を伸 ばして、前をぐっと見つめる。あの子はあれでなかなかカンが鋭いところがあるから、 きっと私が何処にいるか気づいているに違いない。 そう、私が今居るところは…。 「パチンコか…。」 居間のテレビをつける。 「パートどうしてんろ?まさか休んでまでパチンコしに行ったんか…。」 ソラがゲームに熱中し始めた頃、母は5連チャンの真っ最中だった。 そう、今日は某パチンコ店の開店日。店を建設している時から、ずっと心待ちにしてい た今日。出るとわかってて来ない訳にはいかないし、開店前から並ばないと座れないの よねー。などと考えている間にもフィーバーは続く。 あぁ、パート休んで来た甲斐があったわ。そうそう、景品にゲームボーイがあったから、 あれをソラのお土産にして…後はお金に換えてアトランタ行きの旅費に足せば、オリン ピックツアーも夢じゃないわー…などと考えている間もフィーパーは続く…。 春日幸子…根っからのパチンコ好きである。