1999年 川崎記念ヲ見ニ行ッタトノコト
川崎記念を見に行ってきた。トゥナイトUで、とものしんのレポートがあったが、ちょうどゴール前で陣取っていた俺の後ろの方でTVカメラが来ていたのでそこで取材をしていたようだ。とにかく寒い一日だった。カメラを持って行ったものの、手がかじかんだのとバッテリーの消費を気にして撮らなかったくらいだ。北の牧場でシャッター一枚に賭けた人には、お笑いな草な話だが。
とにかくそんな激寒の中でも、放映された番組を見たら結構人が入っていたので驚いた。メイセイオペラのGTフェブラリーS勝ちが効いて、メイセイよりさらに強いといわれるアブクマを見に来た人も多かったのかもしれない。アブクマの単勝は、締め切りまで画面ではは1.0倍のままだった。そしてレースでは、期待通りの強さで鋭い脚を繰り出し楽勝した。前がふさがってほんの少しヒヤっとしたのだが、あのメンバーならば無事に回ってくれば勝てる、という桁違いのレベルだった。
中央地方問わず、強いスターホースがいるのは良いものだが、地方に中央馬を負かすほどの馬がいるのは大きい。お金の無い地方とそこの馬に対して、中央の馬がエリ−トで、イコール悪役だというのは極論であるが、貧乏やマイナーが強者を負かすというのは、人間誰しもが持つルサンチマンを刺激する。健全な人から見れば、何とひねくれた、と言われそうだが、競馬は馬券を通して自らを買うのであり、(何の罪もなく)走る馬たちに人生を投影することができるのである。そして大概、馬に託した夢は無残にも潰えていくのである。私のつたない経験でも、人生は敗者のレースなのだと思える。中央=悪役という物語も、そんな敗者たちの弱さにつけこみ、お涙頂戴で金を稼ぐマスコミが煽りたくなるのだろう。私も、その根底にある思いは理解できる、というよりバリバリな劣等感の塊だ。そして、あまり肯定はできないのだが(笑) しかし、物語は結構だが、余りにも単純に走り過ぎ、現実をあまり見ないところには競馬ジャンルのマスコミの未成熟も感じる。
俺は、そのもの実質以上に評価、ちやほやされているバブルな奴が大嫌いで、逆にもっと評価されていいものがその価値を認められないことに憤りを覚える者だ。地方競馬がマイナーでお金も無いのは事実である。中央との賞金格差や施設の規模などは話にならない。だが思う。走っているのは同じ馬であり、一部にヘボもいるが騎手の技術や関係者の努力、情熱は中央にも劣らない。だが平日の昼間に競馬場に行けば、余りの寂しさ、熱気のなさにみすぼらしさを目の当たりにすることになる。同じ馬が走るというのに、その雲泥の差に虚しくなる。まあ、資本主義なんて、そんな差額で経済が成り立っているんじゃないか、と言われる。営業努力が売上の差に出るのだと。確かに中央は立派な努力をしている、その代価としての高収益がある。ああ、だが本質以外のところで勝負が決まってしまうなんて…。爛熟した資本主義なんてろくなもんじゃねえ。その後には、恐慌が待っているはずだ。
勿論、アブクマ、メイセイは強い馬だ。だが現在の状況では地方競馬は、こういった強い馬をどんどん産出することはないだろう。贈り物のようなこの馬たちの活躍して注目されている間に、少しでも地方と中央の格差に対する議論が行われ、その差が少しでも縮まることを祈る。私自身、個人的に地方馬の勝利に溜飲を下げるのと別にして、地方競馬の発展について冷静に考えていきたい。理想は、格差がなくなり、垣根が取り払われること、そして強い馬たちが一流の騎手と共に良いレースを見せつづけてくれることである。 1999.2.7
1999年の川崎記念は、アブクマポーロが圧勝した。ドバイには行かず、賞金獲得額一位を目指すとのことなので去年と殆ど同じようなローテになるのだろう。勝利を宿命づけられている路線を歩むのは、プレッシャーも半端ではなく、実は大変過酷なことで意義のあることだ。それは認めるのだが、もう一度彼には芝で走って欲しいと個人的に思うのだ。去年、石崎が「芝でもいけるはず」と言うのを雑誌で読んだ。中山記念あたりどうだろうかなんて思ってしまう。しかし、こんな思考はナリタブライアンに1200を走らせたような挑戦orカン違いなのだろう。そして挑戦と勘違いを分けるものは何なのだろうか?
アブクマポーロは、この後、故障を発生し引退。もうメイセイオペラと戦うことはなかった。メイセイは、アブクマ不在の帝王賞を楽勝。ここまでがほんの僅かな夢だったか。このページの文章を書いたのは、まだ中央でも売り上げが好調だった1999年初頭。以後は予想通り、地方にはこれといった強い馬も出ず、地方競馬の窮状はそれこそ見ていて痛々しい。中央の売り上げ減は、それ見た事かという気がする。しかし、今、競馬に逆風が吹いている時こそ、自分の中の競馬を見つめ直し原点に戻るつもりで、競馬に関わって行きたい。職場も川崎になったことだ。川崎競馬場に行くぜ。
文章を一部手直ししました。2001.6.29